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疫病の村 その1

 騎士団を二つに分けることが通達され、本隊は村を避けるように出発した。そして、31名の救護チームは意を決して村に入ろうとしている。俺は救護チームを率いるミリアに声をかけた。

「イルモア騎士団長、お願いがございます」

「クロウ店主、どうした? 貴方も早く行った方がいい。医療シールドがないと、いつ病魔に襲われるかわからないのだぞ」

「大丈夫です、私にはこれがございますので」

 俺はふところから魔除けのタリスマンを取り出して見せた。大振りのメダル状ネックレスで中央にはエメラルドのような大きな魔結晶が配置されているマジックアイテムだ。

「それは?」

「病魔を退しりぞけるタリスマンです」

 本当は魔法攻撃をかく乱させるための護符だが、病魔にも一定の効果があるらしい。魔結晶に自分の魔力を注ぎ込んで使うマジックアイテムである。俺が退治したリッチの所持品だったのだが、便利そうだからコッソリと着服ちゃくふくしたのだ。

「それで、お願いとは?」

「私も村にお連れください。きっとお役に立てると思いますので」

 ミリアは心配そうに俺を見つめる。

「タリスマンがあるといっても危険ではないだろうか?」

「大丈夫ですよ。これのおかげで私は20年来病気知らずです。それに私には薬草の知識がございます。疫病の特効薬を作れるかもしれません」

「本当に!? それなら大いに助かるが……」

 治癒魔法というのは一般的な攻撃魔法に比べて莫大ばくだいな魔力が必要となる。治癒師が一日に治療できる病人は1人から2人がいいところだ。聖女と呼ばれるミリアでさえ5人が限界だろう。患者が多ければすぐに魔力は枯渇こかつしてしまうかもしれない。それに、病人を運んだり、死体の処理をしたりと、手はいくらあっても困らないはずだ。

「私のことならご心配なく。病人のために頑張りましょう」

「ありがとう、クロウ。だが、民間人を危険にさらすのは……」

「民を見捨てない団長のお姿に感銘を受けました。私にも手伝わせてください」

ミリアの優しさとしんの強さは昔から変わらない。そのことに感動したのは事実だ。

「貴方のように立派なこころざしを持った酒保商人もいるのだな……。ありがとう、それでは力を貸してくれ」

 ミリアに認められた気がして、俺も嬉しかった。



 村は死にかけていた。病死した人を焼いた灰が風に乗って村を流れている。家々の壁はくすみ、無気力に動く人と、もう動けなくなっている人しかいなかった。

「状況の調査を始めろ。重病人がどこに何名いるかを調べるのだ!」

ミリアは気力を振り絞るように命令を通達した。

俺は独自に病人の様子を調べた。全員が高熱に侵され、下痢げり嘔吐おうとを繰り返しているようだ。どの病人にも顔に赤黒い斑点はんてんが浮き出ている。

「団長、間違いありません。これは黒死熱こくしねつです」

「やはり……。特効薬は作れそうか?」

「100人分くらいなら今日中に作れますが、それ以上となると私の魔力がもちません」

「クロウが作ろうとしているのは魔法薬なのか!? しかも100人分を一日で作れるとはどういうことだ?」

 ミリアが驚くのも無理はない。魔法薬が作れるのは専門の薬師だけだ。

「貴方はいったい何者なのだ? 魔法薬を作れる酒保商人など聞いたことがない……」

「いろいろと事情があるのでございます。そんなことより今は疫病です。病人の数を把握はあくして必要素材を集めないといけません」

 時間がないということでミリアは俺への質問を保留ほりゅうにしたようだ。

「わかった、すぐに行動を起こそう。小さな村とはいえ、住民は200人以上いそうだからな……」

 つまり、ギリギリの状態であるということなのだ。


 ミリアたちが治療を開始する一方で、俺は治療薬の材料を集めた。ライフポーションをベースに松の樹液、青かび、薬草各種、などなどを探して回る。およそ一時間かけて村の中を探し回り、すべての素材をそろえることができた。

 ミリアたちは一人の患者を完治させることよりも、より多くの患者が生き延びられるように、広く浅く治癒魔法を施すという方針で治療に当たっていた。さっきちらっと見たけど、魔力の使い過ぎでミリアの顔は青ざめていた。責任感の強い彼女は魔力が回復するたびに治療に使ってしまっている。このままではミリア自身の体が危ない。頑張るミリアのために本気を出すとしよう。



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