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第三特別資料室 その2

本日二話目

 グラハム大神殿の第三特別資料室は静謐せいひつそのものだった。50平米ほどの室内には書架しょかが立ち並び、古い稀覯本きこうぼんがところせましと押し込まれている。どれも禁書きんしょたぐいばかりだ。禁書といっても危険な魔法書みたいなものはない。ここにあるのは異教や邪教の記録ばかりである。どこそこの宗派が生贄をささげてこんな儀式をり行ったとか、魔女がこんなみだらなエッチをしたとか、そんなたわいもない記録が集められていた。

 俺はここで司書をやっている神官さんだ。今年で25歳になる。12歳のときにここへやってきたのだから、もう13年も神殿で過ごしているわけだ。といっても立派な神官ではない。なんとなく、惰性だせいで神官を続けているだけのなまけ者である。

第三特別資料室はお気に入りの場所だ。ここはいい。仕事といえば本を虫干しして、たまに写本をするくらいだけだから、サボっていても怒られない。だいたい誰が怒るっていうんだい? こんな場所に人が来ることなんて滅多にない。世の中が平和な限りは……。

「クロードさん!」

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、司書見習のリーン・リーンだった。まだ18歳の女の子で、神殿に来てから2年しか経っていない。将来有望な人材ではあるのだが、落ち着きがなくてうるさい。今日も過剰かじょうなくらいに元気で、茶色くて大きな瞳をキラキラさせている。

騒々(そうぞう)しいぞ、リーン」

 他には誰もいなかったので、俺はぞんざいな言葉になっていた。

「だって大変なんですよ、レギア枢機卿すうききょうがクロードさんをお呼びです」

「レギア枢機卿が!?」

 枢機卿というのはガイア法国の中でも最高に偉い人たちだ。ざっくり説明すると、神殿のトップは教皇、その下に十三人の枢機卿がいて、その下に約三万人の神官や神殿騎士がいる。こういえば枢機卿がどれくらいの高位かわかってもらえるだろうか。彼らは大抵有力貴族の子弟していだ。

「とんでもないところから声がかかったな……」

「特別な仕事の依頼でしょうか?」

「まあ、それしか考えられんさ。司書ではなく、退魔の仕事だろうなあ……」

 俺は神殿内にある秘密の組織に属している。その名も特殊史料編纂室だ。名前だけ聞くと、平和な部署を想像するだろう? でも実際は退魔師が集まる秘密戦闘部隊の名称なのだ。リーンもそこの退魔師見習いとして俺の補佐に当たっている。

ガイア法国の場合、一般的な退魔師は退魔庁の所属になるのだが、特殊史料編纂室は秘密裏に動かなくてはならない作戦に従事する特殊部隊だ。枢機卿が直々に俺を呼び出したということは、何か良からぬことが起きているのだろう。

「行きたくないなあ……」

「またそうやってダラダラする。枢機卿を待たせるなんて不敬ふけいですよ。早く行ってください!」

「代わりにリーンが行ってくれよ、俺はここで禁書でも眺めているからさあ……」

 俺は書架から一冊の本を取り出して、適当にページを開く。そこでは異端審問官いたんしんもんかんが魔女を串刺しにしている図説が載っていた。

「クロードさんって本当に仕事が嫌いなんですね」

「嫌いも嫌い、大嫌いさ。できることなら早く退魔師なんてやめたいよ。堂々と酒も飲めなけりゃ、恋人も作れない。こんな生活はもううんざりさ」

 せめて危険と隣り合わせじゃない仕事をしたいものだ。

「女なら私がいるじゃないですか! 神官服の下は悩ましいわがままなボディーが隠れていますよ!!」

 いつものアピールが始まってしまったが、俺も普段通りにリーンを無視する。

「やれやれ……」

 仕方がなく立ち上がり、心に仮面を被った。それと同時に言葉遣いも司祭らしく変化させる。

「おそらく仕事になるでしょう。リーンも心の準備だけはしておくように」

「はい……嘘臭いクロードさんもカッコいいですぅ!」

 リーンはやけに嬉しそうだ。修羅場に出向くかもしれないというのに何をそんなに張り切っているのだか……。俺は重い足取りでレギア枢機卿の執務室へ向かった。


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