上陸と探索
「〈転移門〉」
アリスがそう言うと、創造された〈転移門〉は二つ。
その門から出てきたのは、片側からはルーシー、もう一つからはベルとハインツが出てきた。
彼らこそ、今回の永久の庭を探索するにあたって選んだ幹部だ。
「お呼びいただき、有難う御座いますッッ!! アリス様のため、この度も誠心誠意働かせて頂きますッッッ!」
「うん。よろしくねー」
ハインツと出陣するのは久しぶりだ。
まだアベスカすら手に入れていない頃、アベスカ国王であるライニールと会うために出かけたきりだろう。その後もパルドウィンの旅行の際に呼びつけたが、魔獣の監視のために置いていただけだ。一緒に旅をしたわけでもない。
それに普段から、彼には軍の管理も任せているため、魔王城から離れることが滅多になかったのだ。
「うぅ……緊張してきた……」
「ダイジョーブだって! 今回は味方以外なら殺しちゃってもモンダイないらしいし!」
「そうだよね、そうだよね……うぅ……」
「ここでバンカイしよ!」
久々のアリスとの出陣に張り切っているハインツと違って、ベルは不安そうな面持ちである。
ここ最近はずっと失敗続きだったため、今回も粗相をしてしまうのではないかと心配なのだ。
親友であるルーシーに慰められながら、今回の探索に向けてやる気を取り戻そうとしている。
「ハインツは人間の護衛にあたってほしいな」
「護衛ですか!?」
「うん」
アリスはチラリとパルドウィンの二人を見た。
ダニーは興味深そうに島を眺めているものの、アレックスは出てきた魔族に対して警戒の目を送っている。
幹部たちを睨んでいれば、目線を送ったアリスと目が合うわけで。威嚇する子猫のように、その睨みつけを深くする。
「魔族の護衛なんていりません!」
「アレックス、やめろ……」
「ダニー様も何か言い返してください!」
「俺は……別に……」
ダニーはアレックスに言われ、言い返すこともなかった。
半ば、生きることを諦めている彼にとって、護衛など必要もない。この地で死のうとも関係ないと思っていた。
騎士団を抜けた今、忠誠心もそこそこ。かつての栄光もなく、アレックスほど正義に溢れているわけじゃない。
金を用意され、頼まれたからこの地にいる。
そして上の人間が、同行者に選んだと紹介されれば、それに従うだけ。冒険者としても、長い間そう過ごしてきた。
だからアレックスのように、咄嗟に言い返すことなどできない。
ダニーが言い淀んでいると、アリスがため息をつく。
これはダニーに対してではなく、アレックスに対してであった。先輩を困らせてまで、アリスを否定したい様子を見て、呆れているのだ。
「じゃあ聞くが、少年。君のレベルは?」
「……レベルが全てではありません」
「聞いているんだけど」
「77です……」
「77!?」
もともとレベルがたいして高くないのは知っていたが、改めて聞かされたアリスは驚いた。
戦争でほとんどを殺した自覚はあるものの、誰も帰らぬ島に派遣する人間がここまで弱いとは思わなかったのだ。
まさか、ダニーも弱いのだろうか――とアリスは彼に尋ねる。
「……ごほん、失礼。ダニーは?」
「俺は125だ」
「あぁ、うん」
三桁の大台に乗っていれば、まずまずだろう。子犬のようにアレックスが懐いて尊敬しているのも頷ける。
オリヴァーやその他勇者に比べればどうってことはないが、戦力が大幅に減っているパルドウィンからすれば十分だ。
ダニーの問題点は、生きることに対する執着が少ないこと、だが。
「77を連れに寄越すとは……。パルドウィンの戦力は、そこまで逼迫してるってこと?」
「どういう意味ですか? 僕は決して弱い方ではありませんが。そりゃあダニー様に比べれば弱いですが、年齢を加味すれば――」
「アレックス、お前何も知らないのか? トレラント殿らはレベル200だぞ」
「へ!?」
ダニーから事実を聞かされて、アレックスは目を丸くする。
「そ、そんな、嘘です! ダニー様は騙されているんですっ!」
「嘘じゃない。さっき見せた〈転移門〉も、Sランク魔術だ。Xランクだって使えるぞ」
「そんな……」
「あーのー」
真実を伝えると、アレックスの絶望は更に深まった。
そんなとき、ルーシーが割って入る。口喧嘩にも似た議論が繰り広げられていた場所は、一気に静まり返った。
「あーし、そういうのよく分かんないんだケド、そろそろ行ったほうがよくないですかぁ?」
ルーシーが指差した先には、こちらへ向かう船が何隻か見える。
帝国と――ト・ナモミの船だろう。しばらくすれば、あの船もこの島へ上陸するはずだ。
先に上陸しておいて追いつかれるというのは、あまりにも滑稽だ。ここは先手を打ちたいところである。
「来たか……」
「参りましょうかッッ!」
「うん。行こっか」
六人は早速、島の中に入っていくことにした。
島は、砂浜からすぐに森に繋がっている。
数年も誰も訪れなければ、雑草などの草木がまた生い茂るのは必然。
ベルがスキルで鉈を生成し、草木を切り倒しながら一行の先導をしている。
周囲には鳥や動物たちの鳴き声がこだましている。野生生物以外の存在は認められず、魔獣が存在する気配もしない。
「今のとこ、植物しかないですねぇ」
「動物はいるみたいですけどー、フツーですねっ」
「だよねー。あの、アリス様。あたし思ったんですけど、あたしが島一周してきましょうか?」
「……いや、それは怖いな」
「えぇ!?」
「あ、いやいや。何があるかわからないなら、やめた方が良いってこと」
「あ、あぁ……」
ベルの失敗を警戒されたかと思い、一瞬だけベルは冷や汗をかく。
もちろんそれも加味していったのだが、アリスとしてはそれ以上に、未知なる島で単独行動は避けたほうが良いと考えていた。
いくらアリス側のものたちが高レベルとはいえ、事前知識も何もない島だ。何が起こるのか分からない。
世界最速の機動力を持っているベルからすれば、どんな脅威にあたったところで逃げ切れるだろう。だがそれも、島の中での話だ。
彼女は河川を渡って、城まで逃げるすべを持っていない。この島の中で逃げ回れば、いずれ負ける可能性がある。
ここに何かが存在していた場合、あちら側に地の利があるのだ。
「そうだな、代わりに――〈そよ風の踊り子〉」
アリスはBランク魔術、〈そよ風の踊り子〉を使用した。この魔術は、風の踊り子を召喚するものだ。
アリスたちの前に現れたのは、緑を基調にした忍び装束に身を包んだくノ一だった。
本来ならば戦闘で扱う魔術だが、風属性により機動力が上がっている〈そよ風の踊り子〉は、偵察としても優秀だ。
「島を見てきて」
『……』
無口な踊り子は、首肯をするとそのまま文字通り風のように消えた。
ベルに比べれば時間はかかるだろうが、これで安全に事前情報が集められるだろう――とアリスはほっとする。
「アリス様! 今の、もっかい見せてください!」
「いいよ~」
「〈感応知覚・源〉!」
「いくよー、〈そよ風の踊り子〉」
「ありがとです!」
アリスとルーシーのやり取りに、アレックスとダニーは首を傾げた。
Bランクを易々と展開するのはさておき、どうしてまたもう一度出す必要があったのか。
再び生成された踊り子は、また森の奥へと消えていった。
「……なんでしょうか、今の……」
「分からん……」
「ルーシーが魔術を覚えただけだ! 気にするな!!」
「魔術を……?」
「覚えた……?」
パルドウィンの騎士団に入っていれば、魔術に関しての知識なんてついてくる。
騎士団長が魔術に長けたヨース家の貴族であれば、なおさらだ。戦闘でどれだけ魔術が大切かを、いつも教えられる。
だからこそ、この二人にはハインツの言ったことが理解できなかった。
たったの一瞬で、魔術を覚えられるはずがない。
〝家庭魔術〟や〝一般魔術〟と呼ばれる――平民の家庭でも使われる最低ランク・Eランク魔術であればまだしも、さきほどアリスが披露したのはBランクの魔術だ。
努力と時間、そして勉強。才能やスキルで短縮は可能だが、そんなものを得ているのはごく少数。
ゆえに、ルーシーの行ったことは、異常であった。
「さて、先に進もうか」




