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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第三章 荒れる砂漠

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砂嵐

 アリスは、いつもの姿から旅用の人間的な見た目へと変えていた。

 滅多にその姿を見ない三人は、まじまじとその姿を脳裏に焼き付けている。


「珍しいものでもないでしょ」

「新鮮っすよ」

「ご主人様、お綺麗です♡」

「あっそ」

「アリス様。見た目はカバー出来たとして……移動方法は? 茜様は兎も角、私とフィリベルトはアリス様の移動に耐え切れるかどうか……」

「大丈夫。イザークから現地情報を抜いてあるから、〈転移門〉は開けるよ」


 そう言ってアリスは〈転移門〉を生成した。

 扉の奥にはジョルネイダの砂丘が見えている。

 イザークからは幾つかのポイントを抜き取ってあったが、町中に突如として人が現れたら、それはそれは話題になる。

 いい意味であっても、悪い意味であっても、注目をあびるのは面倒を引き起こす。

 だからこそ転移に選ぶのは、砂漠だ。


「街中じゃ怪しまれるからね。幸いにもあっちには砂漠が沢山ある。さ、行こうか」


 アリスが先陣を切って、門の中へと飛び込んだ。

 砂漠はカンカン照りで、そこに来た瞬間から汗がにじむ。――人間であれば。

 アリスは温度差なんて問題ないうえに、茜もフィリベルトたちも魔人となっているため、多少の温度変化にはついていける。

 つまるところ、この程度の暑さであれば支障はないのだ。

 とは言え問題なのは、人目を避けたことで集落が遠くにあるということ。


「特に目印もなく、行くのは迷うかもしれないって言われたんだよね」

「な……」


 アリスが言うと、ヨナーシュが明らかに衝撃を受けている。

 環境についていけるといっても、あてもなく歩きづらい砂漠をウロウロするのは嫌なのだろう。

 フィリベルトならばまだしも、ヨナーシュは比較的インドアだ。知識人として呼ばれたこともあって、あまり体力に自信があるとはいえない。

 人間に比べればマシかもしれないが、それでも今回のパーティーでは最も劣る存在なのは、確かである。


「あぁ、心配しないで。歩きながら探知するから方向はあってるよ」

「それは良かったです……」




 アリスの案内のもと、砂漠を歩き続けて一時間ほど。

 蜃気楼のなか、ぼんやりと集落らしきものが目に映る。

 アリスの探知を疑っていたわけではないが、実際に目に見える範囲に街が見えたことで、ヨナーシュはほっとした。


「あれが最寄りの街だ。砂漠前の、国の最果てとも言える」

「流石に勇者の情報はなさそうですが……」

「まあ行ってみよう」


 サクサクと砂の上を歩き続け、四人は無事に集落へとたどり着いた。

 砂に適応した家の作りは、地味ではあるもののしっかりとしていた。

 特殊な加工で、ジョルネイダ特有の技術なのだと分かる。

 河川を渡って砂嵐の影響を受けているウレタも、この技術があれば、普段から降り注ぐ砂を気にせずに済んだのかもしれない。

 今となっては無意味なことだが。


 しばらく街を散策して、ふと気づいた。

 あまりにも閑散としているのだ。人っ子一人いない街は、異様とも言える。


「? なんだ――」

「アンタら! なにしてんだい、早く入りな!」

「え?」

「いいから!」


 突然声をかけられ、腕をぐいっと引っ張られる。

 あれよあれよと、アリスはどこか知らない家の中へと押し込められた。

 アリスは驚いていたが、視界の端に入った茜が殺意に満ちていたのが見えた。あの殺意をアリスは知っている。

 エンプティがアリスを過保護のように心配するときの、そんな目だった。

 アリスの手をいきなりつかんだ、この一般市民に対して殺意を放っている。


「バカかい!? こんな時間に出歩くなんて!」

「は? 何様な――」

「――どういうことですか?」


 アリスはニコニコと笑いながら、その市民へと疑問を投げる。

 片手でそっと茜を制止して、「勝手をするな」と圧をかけた。茜はそれに気づいて、怒られた犬のようにシュンとしている。


「もうそろそろ、砂嵐が来るんだよ」

「それは大変ですね」

「大変なんてもんじゃないよ! あれに巻き込まれちまったら、死体すら残らない。命拾いしたね」

「へー」


 先程気になっていた建物。それらはそんな――暴風と形容するだけでは足りない、恐ろしい砂嵐すら耐えられるようになっている。

 先人の知恵であり、ジョルネイダが培ってきた魔術の力の結晶だった。


 それに、その砂嵐は毎年観光客などの命を奪っている。

 警告を出していても、それを無視して命を落とすケースが多発しているのだ。

 たかが砂嵐――その程度の考えで、人生を終わらせてしまう旅人が後を絶たないという。

 そしてそれだけ強い砂嵐だからこそ、だだっ広い河川を渡ってウレタなどに砂が飛来するのだ。


「にしても、こんな辺鄙な街に何用だい?」

「ジョルネイダを隅から隅まで観光したくて」

「変な子だねぇ。ま、今回のは二時間くらいで終わるから、うちでゆっくりしてきな」

「でも申し訳ないです」

「いいんだよ。こっちに来てみな」


 女性はアリスたちを別室へと案内する。

 そこにあったのは、食堂だった。食堂といっても、さほど大きなものじゃない。

 個人が経営している街の隠れ家のような、知る人ぞ知る穴場のようなものだ。地元民には好かれていそうな雰囲気が漂っている。

 アリスが入ってきた入口は正面玄関ではなく、食堂の裏口であった。


「アンタらが入ってきたのはうちの裏口さ。仕込み中で何も出せないけど、座る場所くらいはある」

「ありがとうございます」


 そう言うと、女性は再び裏へと戻っていった。

 砂嵐が終われば、店を開いて仕事となる。人命を救ったといえども、その後の世話をしてやれるわけでもないのだ。

 アリスは厚意に甘えようと、適当な場所に腰を下ろす。長いこと愛されている店なのか、使い込まれた椅子だった。

 ヨナーシュとフィリベルトは座ろうともせず、立ったまま待機している。


 そんなとき、茜がスススとアリスのそばへ寄ってきた。表情は不安そうで、もごもごとなにか言いたげである。

 アリスはアリスで、「さっき止めたのに文句があるのかな?」などと、呑気に考えていた。


「あのぉ、ご主人さま。本当に隅から隅まで……?」

「そんなわけないでしょ。勇者の情報を集めるために飛び回るかもしれないけど」

「とりあえずこの街で聞き込みでしょうか」

「そうだね。砂嵐が晴れたら」


 窓からチラリと外を見る。

 外は風がごうごうと音を鳴らし始めた。飛び交う砂も伴って、音は激しさを増している。

 これがまだ序盤なのであれば、一番激しい時間帯は相当なものだろう。

 女性が言う通り二時間も砂嵐が続くとしたら、この食堂に二時間拘束されることになる。それは随分とした時間のロスだ。


 アリスはふと思いついた。

 椅子から立ち上がると、体を動かして準備運動のようなことをする。コキコキと節々の骨を鳴らして、体の調子を整えている。


「アリス様?」

「〈スライム生成〉」


 アリスがスキルを唱えると、その場にアリスの姿をしたスライムが生成される。誰がどう見ても瓜二つだ。

 スキルはレベルの上限が設けられているため、戦闘においては苦労をするだろう。

 だが今アリスが使いたい方法は、戦闘ではなく――影武者だ。


「ちょっと遊んでくる」

「え!? わ、私も行きます!」

「いらなーい」

「そんなぁ」


 アリスはスライムと、茜たちを食堂に残す。

 そしてアリス自身は、瞬間移動で消えてしまった。


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