後編
本郷直樹さんの一周忌のイベントは池袋で開かれた。
ぼくはピー子を連れて会場を訪れた。
ピー子とはぼくの部屋にいる地縛霊で、新宿でヒッピーをしていた頃、デビュー前の本郷さんと知り合いだったという。
「奥野くんと言って、同い年で気が合ったわ」
「じゃ、ピー子はぼくよりずいぶん年上だったんだ」
「でも20代で死んだから、みぶ兄の方がアニキよ」
彼女はぼくのことをみぶ兄と呼ぶ。
もちろん、他の人には聞こえない会話だ。
コース料理を食べながら、本郷さんのお弟子さん達の歌を聴く。
弟子ではないが、平浩二さんも駆けつけて「バスストップ」を歌ってくれた。
司会の天野あや子さんが
「それではここで大阪から来た俳優のみぶ真也さんに歌っていただきます」
といきなりぼくを紹介し、「燃える恋人」を歌うはめになった。
マネージャーの仲代さんを見るとニヤニヤしている。
歌い終えて席に戻ると、
「みぶ兄、良かった!奥野くんも横で一緒に歌ってたよ」
「ほんとに?」
「うん、見えた」
閉会になり会場を出ようとすると、またピー子の声がした。
「奥野くんがね、ピー子いつまでもこっちにいちゃいけないって。あっちへ、一緒に連れてってくれるって。今までありがとう、さよなら」
以来、彼女の声は聞こえなくなった。