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21 金の宮の主人 メルティ・ルチル

「順番でいえば次はメルティ・ルチル様ですが、メルティ様はまだ金の宮に入っておりません」

「そうなんですか。私が最後かと思っていました」

「実は精霊宮に入ることを拒まれておしまして」


(そんな人もいるのね)


「メルティ様のお父上であるルチル公爵様が宰相を務めていらっしゃいますので、王宮への出入りは他の方に比べて融通がきくらしく、王太子殿下のところによくお顔を出していらっしゃったそうなのですが」


 七妃のほとんどがオーティスの顔見知り。そのことには本日の挨拶回りでクララも気がついていた。


「そのため、待つだけの精霊宮には入りたくないとか」

「そう思うと王太子様のことをお慕いしている、ミリーア様とキンバリー様も同じように拒みそうですけど、そうではないんですよね」


 二人はすでに精霊宮で過ごしている。


「王太子妃に選ばれる第一条件が精霊宮に入り、宮の主人になることなので、ほかの方は誰よりも早くオーティス様の寵愛を受けようと思っていらっしゃるのではないでしょうか。メルティ様も皆様が説得されているようですので、いずれは精霊宮に入られるかと思います」

「メルティ様ってどんな方ですか。もしかして王太子様と一番仲がいいのでしょうか」


 オーティスと親しい関係だとすれば、ミリーアが気に入らないのも納得がいく。


「公爵家で大切に育てられた天真爛漫な方という感じでしょうか。王太子殿下とは幼馴染ではありますが、一番仲が良いというわけではないと思います。王太子殿下はご自分の立場を考えて、どちらのご令嬢とも距離をとっていたようですので」

「でも一番お会いする機会が多かったのですよね?」

「はい。キンバリー様がその次くらいでしょうか。しかし、好意をもっていると思われる言動はメルティ様にも、キンバリー様にもいっさいしなかったそうですよ」


「王太子様」

 かわいそう。そう言いかけてクララは途中で言葉を切った。


 オーティスにもし好きな人がいたとして、その令嬢が七妃に選ばれれば問題はないが、選ばれなかった場合はその恋を諦めるしかない。七妃の七人すべてが好みではなかった場合でも、王妃をその中から絶対に選ばなければならないのだ。


 自分も、会ったことさえなかったオーティスの相手として精霊宮にやってきたクララ。自身で伴侶を選ぶことができないという同じ立場であることを忘れて同情をしていた。


「クララ様、少しお疲れではございませんか?」 

「私は大丈夫です」

「次の土の宮でございますが、一度、月の宮に戻って休憩したのちに向かってはいかがでしょうか」


 侍女が仕組んだ罠で一時はクララ殺害の犯人として疑われていたシェリル・アンバー。


「クララ様はあの事件の被害者であって、なんの落ち度もございません。しかし、シェリル様の性格を考えるととても不安なので」

「ありがとう。でも、逆に私はシェリル様とお話してみたいと思っているんです」


(シェリル様だけは王妃様と繋がっていないことが確定しているもの)


 そんなことを知らないイルサが不思議そうな顔をするので、クララも少し考える。


「でも、イルサさんがいうように少し休憩したほうがいいかもしれませんね。今日はずっと緊張していますから」

「では、リラックスできるお茶をすぐにご用意いたします」


 挨拶回りはいったんやめて、クララは月の宮に戻ることにした。


(火精霊と水精霊と木精霊のことをリオンに聞いておきたいからちょうどよかったかもしれないわ)


 月の宮に戻ってから、イルサがお茶の準備をしている間にクララは黒ウサギのリオンと話を始めていた。


「緑の髪に赤色のメッシャが入ったキンバリー様のところには木精霊しかいなくて、私には火精霊の姿が見えなかったんだけど、木の宮にはいなかったの?」


 リオンは短い前脚を上に伸ばして丸を作る。


「だったらどこにいるんだろう」


 するとリオンが今度は胸の前で前脚をクロスした。それは否定の意味であるが、クララの質問のしかたが抽象的過ぎたために、リオンはクララに伝えたいことが正しく伝えられなかった。そのために、クララは単純に火精霊は木の宮以外のほかのどこかにいるのだと思ってしまった。


「それから、みんなまだ精霊喰いに襲われてはいなかったわよね。公爵家のミリーア様と護衛をしていたキンバリー様は王家と近い関係性だから心配していたんだけど、犠牲になってなくてよかった」


 それに対してリオンは反応を返さなかった。

 属性の違う精霊同士は交流がないため、例えば火精霊から近況を聞くなんてことができないから、月精霊であるリオンにも見た目以上のことがわからなかったのである。


「各宮の専属侍女も廊下ですれ違った侍女も、誰にも精霊がついていなかったけど、もしかしたら精霊喰いのせいなのかな」


 水色だったり薄茶色だったり、髪に色が入っている侍女はいるものの、それがただ精霊が離れてしまったものなのか、精霊喰いに喰われてしまったものかは誰にも判断がつかない。


 そのためクララはもどかしい思いをしていた。


「シェリル様とどうにかして仲良くなれないかな」


 自分一人だけではどうしたらいいのかわからない。

 相談できる相手がほしいと思っても、イルサは国、または王家に雇われているため、職を失う可能性がある。だから簡単にクララの味方、すなわち王妃の敵になってもらうことはできない。


 今のところ、どの宮の主人からも良くも悪くもシェリルの名前はあがっていない。

 キンバリーが土の宮の事件を知っていたとしても、シェリル自身にはそれほど興味がなさそうだった。


「うん。頑張ってみよう」


 イルサが用意した甘い香りがするお茶を飲み干したクララは、気合を入れてから土の宮へ向かった。

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