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17 月精霊との交流

「あ、戻った?」


 泉の女神の作った身体に初めて入った時と同じ感覚がしたと思ったら、ふわふわしていたクララの身体がなんとなく重くなった。それで肉体を得たことにクララは気づくことができた。


「月精霊さんもちゃんとについてきたのね」


 クララが目を開けると、視界に入ったのは天上ではなく顔の上あたりにいた黒ウサギ。相変わらず空中でふわふわしながらクララのことを見つめている。


「本当に私が名前つけてもいいの?」


 こくこくと頷く黒ウサギ。


「どんなのがいいかな? 可愛いあなたに似合いそうな名前を考えるからね」


 名づけなんて今まで一度もしたことがないため、クララは悩む。


「月の精霊だから月にちなんだ名前にしようか? ムーンとかツッキーとか。でもそれでは単純すぎるわよね」


 クララは月精霊をじっと見た。

 三頭身で黒い毛に黒い瞳。本物のウサギよりもぬいぐるみに近い姿をしている。


「うーん。黒いウサギさん……夜……満月……あ、そうだ!」


 クララは鑑定で使われた黒水晶を思い出した。


「今日ね、とってもきれいな黒水晶を見たの。黒水晶はモーリオンともいうから、リオンってどうかな?」


 名前を付けられた黒うさぎは空中でぴょこぴょこ飛び跳ねている。どうやら気に入ったようだ。


(うー、かわいい。抱きしめたい)


 目の前ではしゃいでいる黒ウサギの毛並みは柔らかそうなので、手を伸ばしたい欲求をクララは必死に我慢していた。精霊は繊細だと本で読んでいたのでさわったらいけないと思ったからだ。

 それでも話し相手ができた。クララは嬉しくてしかたがない。


「これからよろしくね」


 月の宮に無事戻ったものの、考える事が多すぎて、クララは目が冴えてしまっていた。もうすぐ今日から明日に変わるというのに、眠れそうにない。


「それにしてもここ数日は、本当に嵐のような日々だったのよね。リオンも、もしかしてずっとそばで見ていた?」


 黒ウサギは首を縦に振る。


「そっか。いつも一緒にいてくれたのね。ここでは、ひっそりと静かに暮らすことが目標だったのに、そういうわけにもいかないみたい。でも、あなたたのことは絶対に精霊喰いから守ってあげるからね」


 その言葉を聞いた黒ウサギは感極まったのか、クララに飛びついた。


「びっくりした。見えるだけじゃなくてさわることもできるのね」


 クララは腕の中にいるリオンのその柔らかさと毛並みの良さに驚く。


「えっと、リオンはすごく喜んでいるのかな? 私もリオンがいてくれてとっても嬉しいし、心強いわ」


 クララは黒ウサギの存在に心が癒されていた。


(泉の女神様からお願いされていなかったとしても、私はこの子を守りたい。絶対に)


 とりあえずクララは、ベッドでごろごろと寝転びながら、眠くなるまで黒ウサギと話をすることにした。


「イルサさんは……」


 王妃様のことを知っているんだろうか。


 そう言おうとしてクララは口を閉ざした。あってはほしくないけど、万が一イルサも王妃の手の者だとしたら、月の宮も安全ではないのだ。

 しかし、今のところそれを確かめるすべはない。


「リオンはイルサさんのことどう思う?」


 答えようのない問いかけに黒ウサギが首をかしげる。


「私たちの敵じゃないよね? あんなに優しいんだから」


 クララが息を吹き返した時、イルサは泣いていた。あれが演技だとは思いたくなかった。


「ねえリオン。あなたは精霊宮のことをどれくらい知っているの? 精霊喰いにかじられた精霊はわかるのよね」


 黒ウサギの反応を見ながらクララは質問をしていく。


「嚙みあとがある精霊の宿主は王妃様と繋がっているのかな? 繋がってない? もしかしてわからないってこと? そっか」


『はい』か『いいえ』だけでは伝わらないことのほうが多い。

 それを察したのか、黒ウサギがジェスチャーを始めた。両手を前に出して合わせてから、上下に動かす。


「それは精霊喰いの口? それで……パクッて食べられた? それが、ほかの精霊ね」


 それから黒ウサギはブルブルと震え始める。


「被害にあった精霊は精霊喰いのことを怖がっている。それで合ってる? そうか。そうなんだ。だったら敵か味方か区別はつけられないよね」


 今のところ、完全に王妃側の人間であることがわかっているのは、廊下で会った実行犯の侍女とその同僚のみ。


「七妃はどうなんだろうね。明日から挨拶をするために各宮を回るらしいの。その時にみんなの精霊を観察しておいたほうがいいよね。精霊同士は意思疎通ができるの?」


 黒ウサギの動きを読むと、少しだけならできるということらしい。


「仲はいいの?」


 今度は頭を大きく左右に振ったので、精霊たちは仲が悪いようだ。


「女神さまが名前を呼び合ったりしないって言っていたもんね」


 黒ウサギから情報を得て、クララは少しずつ精霊のことを学んでいった。


「精霊は宿主から離れられない。強い精霊ほど色が濃くて、それが私たちの髪の色に現れる。薄い色の人たちでも弱い精霊がついていることもある。そんなところかな」


 まずは黒ウサギ以外の精霊を知ることが必要だろう。


「明日は頑張らないといけないから今日は寝るね」


 精霊のことに気を取られているクララは、この時七妃という自分の生活に一番絡んでくるであろう令嬢たちも十分厄介なことをすっかり忘れていた。


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