第一話 ドロテさんは欲望を隠さない
「ほらそこっ、隙だらけだよっ!」
オレが直線的に振った剣を、くるりと身を回転させて回避した褐色の女性は、そのまま脚を伸ばして顔面へと蹴りを放つ。
────ドンッッッッ!
重い、一撃だった。
何度目かの彼女の靴が顔面にめり込み、オレの意識はそこでぶつり……と、一旦途絶える。
「ち……ちくしょう、す、少しは手加減しろ……よ」
──意識が途絶えたのでちょうどいい。
ここでオレの自己紹介を挟んでいこうと思う。
オレの名前は、喜入 晴彦。
突然、ゲームのような異世界に迷い込んだオレは、どうやらこの世界では苗字の喜入をもじって「キーレ」と呼ばれるようになってしまい。
ついでに「魔王を倒す」なんて馬鹿げた使命を背負っていたらしい。はは、マジでゲームかっての。
元々オレは飲み込みが早く、運動神経も身体能力も人より優れていた。俗に言う「天才」ってヤツなんだと自画自賛になるが。
よくわからない寂れた小さな村に滞在していたのは数日ほどだったが、天才のオレは剣の使い方を独学で練習し、すっかり村一番の使い手になってしまった。
まったく、自分の才能が怖くなったね。
だが、そんな快進撃も長くは続かなかった。
初めて立ち寄った大きな街で、情報集めや金を稼ぐならまずこの場所だろう、と入った酒場で出会ったのが。
今、オレに幾度も蹴りを叩き込んだ女格闘家のドロテだったのだ。
ドロテは露出度の高いエロい服装で晒した日焼けした褐色の肌がまぶしい、腹筋もキレイに六つに割れていたりする、実に健康的な雰囲気の年上の女性だ。
しかも、結構な美人だったりするのがムカつく。
オレの覚えたての剣の腕前を見かねて、特訓を引き受けてくれたのは感謝しているが。
「もう一回よ、まったく……だらしないわね、それでもホントに勇者?」
と、性格は非常にキツい。
しかも特訓は加減を知らない実戦形式。
まったく……ドSかっつーの。
そこで──オレは目を覚ました。
「よ、よかった……目を覚ましたか、ま、まったく……仮にも勇者ならあれくらい躱せっ、馬鹿」
視界に入ってきたのは、オレを心配そうに見つめてるドロテの顔と、はちきれんばかりのボリュームを持った二つの胸だった。
そして後頭部に感じたのは地べたの固さ冷たさではなく、人肌に近い柔らかな感触だった。
それがドロテの膝枕だと気付いて、オレは気恥ずかしくなって起き上がろうとするが。
「あ、暴れるなキーレっ、頭を打ったんだ……もう少し寝ていろ」
「お、おいっ?……うわぁっ!」
そう言ったドロテに肩を押さえられると、単純な力比べじゃオレは彼女に勝てるハズもない。
再び、彼女の膝枕に無理やり寝かされてしまう。
「それとも……わ、私みたいな筋肉だらけの乱暴な女の膝枕はその……イヤ、か?」
不意にドロテが目線を逸らしながらつぶやく言葉に、オレは不覚にもドキッとしてしまい。
オレは黙ってドロテの膝枕に頭を預けていく。
くそ……そんな女っぽい顔見せられたら、文句の一つも言いにくくなるじゃないか。
すると、ドロテの大きな手がオレの額に無造作に置かれると、頭を優しく撫でられていく。
特訓モードに入ったドロテは力の加減など知らない、とばかりに苛烈な攻撃を連打してくる人間なのに。
「ま……最後の攻撃は上手く力が抜けていたと思うぞ。それだけは褒めておいてやる」
ドロテに初めて、褒められた。
たったそれだけなのに、胸がギュッと熱くなるのを感じていた……くそ、ドロテのくせに。
まぁ、考えてみれば。
いきなり酒場で出会った「勇者」を名乗る見ず知らずの子供に、乱暴な教え方だとはいえ無償で特訓をしてくれる、ドロテはそんな人間なのだ。
一言で言えば、ただの「お人好し」なのだが。
ドロテの手がひんやりして気持ちよかったから。
オレはもう少しだけ、彼女の言葉に甘えて寝っ転がることにした。
すると、彼女の身体がすぐ近くにあるからなのか、いい匂いまでしてくるではないか。
────ん?
待て待て待て、ちょっと待て。
頭を撫でていたドロテの手がいつの間にかオレの首に移動して、服の隙間から中に手を差し込んでいた。
ドロテのもう片手が腹側から服の中に侵入してくる。
「お、おい、何するんだドロ……て、さん?」
間違いなく服を脱がそうとする動きを見せたドロテに、オレは抗議しようとすると。
鼻息をふんすふんすと荒くして、口からはヨダレを垂らすだらしない顔の彼女と目を合わせてしまう。
「ちょ、や、やめ……お、おいドロデえええ!な、何服を脱がそうとしてんだよおおおお?」
「はぁ……はぁ……悪いなキーレ、どうやらそろそろ限界みたいなんだ……」
「えーと……この状況で聞きたくないけど、何が限界なんだよドロテさん……?」
オレの台詞を、待ってましたとばかりにドロテは目を輝かせて自信満々に答えながら、上半身の服はとっくに脱がされてしまっていた。
漫画でよくある、目にハートを浮かべていた彼女はオレの目の前で舌舐めずりを隠そうともせず。
「決まっているだろう、キーレよ。私に……いや、お姉ちゃんに色々と教えさせてくれないか、その……色々とな?」
「ひ、ひぃぃぃ?……お、オレはまだ清い身体でいたいんだあああああ?」
「はぁ、はぁ……安心しろキーレ、この世界ではほとんどの男がお前くらいの年齢で経験している事だ。優しくしてやるから大人しくしていろ」
「あ────安心出来ねええええええ!」
誰も通る気配のない街外れに、オレの絶叫だけが木霊する。
こうして、世界を救う勇者に相応しい腕前になるためのオレと女格闘家ドロテとの旅が始まったのだが。
この後、オレの貞操が無事だったかどうかは想像に任せることにしよう……ううう。
(⬛︎ドロテ視点)
思わず雰囲気に任せて、キーレを膝に乗せてしまったアタシだったが。
こんな間近にキーレの顔をまじまじと見ることになって、初めてアタシは気付く。
(あああぁぁ♡……さ、最初に出会った時からツンケンして生意気そうな表情が可愛らしいとは思ってたが、近くで見るとあらためて……ホント可愛らしいじゃないか、た、たまらん!)
今までアタシは格闘家という立場上「自分より強い男が好き」だと周囲には公言していたが。
本当は少しばかり背伸びした幼さの残る少年こそが、アタシの性癖だったりするのだ。
ちょうど目の前のキーレのような。
アタシが魔王を倒すために仲間を集めず一人で旅を続けていた目的だって、実を言えば──
魔物に襲われている可愛い少年を颯爽と助けて、そのまま御礼代わりにその少年に年上のアタシが色んなコトを手取り足取り教えてあげられたらなあ……なんて事を考えていたからなのだ。
だからアタシは、キーレが「オレに剣を教えてくれ」と頼み込んできた時に。
こんな生意気可愛い少年に剣を教える名目で身体を触れるだけでなく、昼夜問わず一緒に過ごせるなんて。
これは神が授けてくれた絶好の機会に違いない。
「よし……今夜の目標は、キーレと裸の付き合いをする、決まりだ!」
そう決断したアタシの行動は早かった。
否、もう自分を制御出来なかったのだ。
膝を枕代わりに寝ていたキーレの額を優しく撫でていたはずのアタシの手は、首元を伝って服の中へと差し込まれ。
もう片方の手でキーレの服を脱がそうとしていたのだ。
(し……しまったあ⁉︎……宿まで我慢するつもりがキーレが可愛いすぎてっ?……え、ええい、こうなったらもう勢いでなんとかするしかないっ!)
服の中に差し込んだ指が、アタシのとは違いキーレのつややかな肌に触れて興奮が止められない。
自分でも鼻息が荒くなるのがわかる。
ここまで来たらもう止められないし、アタシも自分の欲求を止めるつもりもなかった。
(キーレ……お前が可愛いすぎるから悪いんだぞ♡)
キーレが着ていた上半身の服を脱がせたアタシは、お返しとばかりに自分が胸を隠すために巻いていた布地を取り払って、自慢の豊かな胸をキーレに晒して見せたのだった。