コネ作り(したい)令嬢は今日も媚びを売る
とある貴族の集う学園で、私は人生最大のピンチに陥っていた。
「君が、アリシアを虐めたんだろ」
「最低だな」
「貴族令嬢として恥ずかしくはないのですか?」
食堂で突如起こった、断罪。
私の目の前に立つのはこの学園の生徒会であり、そんな彼らの後ろにはアリシアという名前の少女が立っている。アリシアは男爵家の娘だが、この学校では有名な少女だった。というのも、アリシアは女狐と女性達の中で悪口を叩かれるぐらいに男性に取り入るのが上手かったのだ。
どれぐらい上手いかといえば、生徒会の男性陣を全員虜にしてしまうぐらいだ。生徒会は王族である生徒会長を始め、親が高い役職に就いた貴族か、お金持ちの貴族で一癖も二癖もある濃い人達。そんな彼らの好意を網羅するとか、凄い以外のなにものでもない。
「……ごくっ。何のお話でしょうか?」
昼食中だったので、私は口の中のチキンを飲み込んだ。丁度ほおばっている時に話しかけるなんてタイミングが悪すぎる。
しかし私も伯爵家の娘。貴族子女としてマナーを守って口にものを入れたまま喋るなんて事はしない。貴族のマナーは面倒ではあるけれど、円滑なコミュニケーションをする上では大切なものだ。
特に私のようなコミュ障は、できる限り定型マナーを逸脱せず、基本に忠実に生きた方がまだ何とかなる。
「何って、アリシアを虐めたのだから謝罪と罰が必要だという話をしているんだけど。それ以外に俺が君に話しかける理由があると思う?」
「今すぐ認め、謝罪するなら、私達も教師に退学までは求めるつもりはない」
「……退学ですか?」
【退学】という言葉に私は愕然とする。
現在この国で、貴族なのに学校に通っていないということは、貴族社会から追放されたといってもいいぐらいの意味を持つ。勿論この学校が駄目でも、別の学校に転校はできるだろう。しかし退学ということは周知されしまうため、結局は爪弾きされる可能性が高い。
一体なんでこんなことになってしまったのか。私としては自分の野望の為にも【退学】だけはなんとか回避したい。
「当然です。自分が何をしたのか分かっているのですか?」
「いえ。何もしていません」
「はあ?! しらばっくれるつもり?」
といわれましても。
私はアリシアを虐めたことなど一度もない。うるうるとした目で私を見てくるけれど、一体私の行動の何が彼女をいじめたと思われてしまったのか。
正直心外だ。とはいえいじめはいじめられた方がそう思えば、いじめである。でも心当たりがなくて、一体自分が何をしたのか分かっていない。
「しらばっくれるのではなく、私はいじめたつもりがないからです。もしも私が顔を見せることでアリシア様を不快にさせ、いじめられたと思われたのでしたら、正直不可抗力ですが謝罪をさせていただきます。代々私の家系は人相があまりよろしくないもので。できる限り柔和に見えるよう努力はしているのですけれど中々努力は報われず……」
一生懸命笑う練習をするが、友人は逆に悪だくみをしているように見えると言われてしまった。私が自分の顔の酷さを謝罪すると周りの生徒が、顔かたちは変えられないのにそんなことを言うなんて酷いなどという言葉をひそひそ囁き合った。
味方に付いてくれるのはありがたいけれど、この場合火に油を注ぐことにならないだろうか。私自身私のこの目つきの悪い顔を毎日お見せするのは心苦しいと思っていたのだ。でもお面をかぶって登校しようとしたら友人に全力で止められた。余計に怪しく見えるから止めろと。
「誰も、お前の顔のことなんて言ってないだろ」
「そうです。その顔も、慣れれば悪くありません」
「ありがとうございます」
私の謝罪に、会計と副会長がフォローしてくれる。
良かった。彼らとはよく顔を合せるので、もしも顔を見せることがいじめと言われたら、今度こそお面をかぶって登校しなければならなくなるところだった。
「シリウス、アルフォンス、私はそんな、彼女の顔のことなんて言ってないわ。ただ私に謝って、二度と私達に近づかないと約束してくれれば、それだけでいいの」
うるうるっと瞳を潤ませ、上目遣いでアリシアが会計と副会長に訴える。
可愛らしい小動物な外見と相まって素晴らしい相乗効果となった。まさに二人にはテクニカルヒットといったところだろう。ずきゅんと胸を射られる音が二人から聞こえた気がする。
しかし私としては、その条件を呑まれては困る。
「だから私の顔が怖いのは謝罪しているではありませんか。その条件は呑めません。お面を被ればよろしいのでしょうか?」
「な、何を言っているの? 誰も貴方の顔のことなんて言っていないわ。もしかして自分が醜いから、私に嫌がらせをしたの? そんな事をしても自分の心が醜くなるだけだわ」
……私、別に自分を醜いとは言っていないんだけど。
目つきの悪い顔立ちをしているしているとは言ったけれど、そこまで醜くないとは思う。たぶん。でもかわいらしいアリシアからすると醜いに分類されるのかもしれない。
結構酷いことを言われた気がするのだけど、生徒会諸君は皆、アリシアは優しいともてはやしている。……すみません、これからはもう少し自分の顔立ちに関しては下方修正させていただきます。
「そもそも私にアリシア様をいじめる理由がないと思います。可愛い方、綺麗な方に嫉妬して嫌がらせをしたのならば、私はアリシア様以外に対して、全方向に嫌がらせをしなくてはならなくなります。そうすると、流石に時間が足りないと言いますか」
私という存在は一人だけだ。複数人を同時にいじめるとか、そんな器用さは私にはない。
「アリシアが可愛くないというのか?!」
会長がギロリと私を睨んできた。
「いえ。アリシア様は可愛いです。しかし他にも沢山可愛い方や綺麗な方はいるという一般論です。そして全ての可愛い方をいじめるには時間も体力も足りないという話です」
そんな可愛いか可愛くないかの話なんてしていないのだから、極端に言葉を切り取るのは止めていただきたい。こうやってゴシップ記事は出来上がるのだ。しかも会長は王族。言葉の勝手な解釈は止めていただきたい。
「理由ならあるよね」
「そうです。理由は分かっているはずです」
「うん」
会計、副会長、そして書記まで言ってきたが、私は首を傾げた。断じて誤魔化しているわけではなく、彼らの言う理由が分からない。
「俺の事が好きだからでしょ?」
「私の事を愛しているからですよね」
「俺を好きだから」
三人がそれぞれ同時に言葉を述べたが、……全員ほぼ同じ意味だ。でも主語の部分が違う。
私はその言葉に固まった。
周囲の人間も固まった。
そして、問題の発言をした三人も。
シーンという空気が居たたまれない。
「えっと」
「彼女は俺の事が好きなんだって。だからアリシアをいじめたんだ」
「待って下さい。貴方が愛しているのは私ですよね? だからいじめたのでは? アルフォンスは何を勘違いしていらっしゃるんです? 貴方のようなチャラい男がいいなんてことあり得ません」
「違う。彼女は俺が好き」
突然生徒会四人のうち、三人が意味の分からない言い争いを始めた。
私はポカーンと彼らを見た。周りも、それどころかアリシアもはあ?!っといった顔になっている。可愛い顔が崩れているので、是非いつもの完璧美少女に戻っていただきたい。
「三人とも何を言っているの?」
「だから彼女は俺の事が好きだからアリシアをいじめたんだって」
「違います、私を愛してしまったからです」
「違う」
待って。
本当に待って。
三人の言い分全てが全くの見当違いだ。そもそもアリシアをいじめてもいない。
「あの、すみません。私はえっと、副会長様も会計様も書記様も好きではありません。なのでやはり、アリシア様をいじめる理由がありません」
「「「はあ?!」」」
私の言葉に三人が三人とも否定的な声をあげた。しかし、私は三人のことを好きか嫌いという枠組みで見ていなかったので、そう言うしかない。
「さらに言わせてもらいますと、私がアリシア様をいじめるなんてとんでもないです。私、アリシア様と仲良くなりたいと常々思っておりましたので」
「わ、私と仲良く?!」
アリシアがギョッとした顔をする。アリシアにはコミュ障なりに声をかけていたけれど、仲良くしたいという気持ちが全く伝わらないぐらい怖い顔をしていただろうか。……していたかもしれない。私の家系は緊張すると三割ぐらい人相がさらに悪くなる。
でも私は常にアリシアをリスペクトしたいと思っていた。
「そんな私の可愛さが、女性まで誑かしてしまうなんて――」
「そうです。もうメロメロです。私もアリシア様のように媚び売りがもっとうまくなりたいです!」
「――ん?」
私は私の心の底からのリスペクト心を叫んだ。
「媚び売り?」
「はい。もしくは太鼓持ち力を上げ、コネ作りの名人に、私はなりたいです!!」
私が叫ぶと生徒会の人がすごく微妙な顔をした。ついでに周りでこちらを見ている生徒も。
分かっている。私は、コミュ障。一生懸命コネ作りの名人になるために、媚び売りをしようと必死に話しかけ、太鼓持ちするタイミングを見計らっているけれど、全然上手くいかないのだ。
このコネ作りが全然上手くいかないのは、私の人相の悪さも原因だけれど、話し下手なのも原因だと思っている。話しかけるといつも周りを微妙な表情にさせてしまう。
「男爵家に生まれたにも関わらず、王族や高い役職についた親を持つ殿方、更に金持ちの殿方の懐に入り込む手腕にガッツ、素晴らしかったです」
普通なら気負ってまともに話すこともできないだろうに、彼女は廊下でぶつかったとか、落とし物を拾ってもらったとか、本当に些細な出会いを全て活かし彼らと仲良くなり、虜にしてしまったのだ。これぞ完璧なコネ作り。まさに職人技だ。
「酷い。コネ作りだなんて。私はただ彼らと友達でいたいだけなのに」
「そうだ。彼女の純粋さに俺らは引かれたんだ」
「その通りです。勝手に媚び売りやら太鼓持ちやら失礼ですよ」
彼女がうるりとした顔に手をやり泣くようなポーズをすれば、非難されてしまった。しかしこれこそ私の求める、最高の媚び売りだ。
「純粋……そうかもしれません。でしたら、天性のコネ作り名人なのですね。もうリスペクトしかありません。私はどれだけ逆立ちしても上手くできませんので。その可憐な外見も見事に使ったこの技。命名するなら、【奥義:甘露の嘘泣き】でしょうか。泣きそうな空気を出すことで、殿方の心を揺さぶるこの手腕。さすがすぎます」
なんてすごいのだろう。私が泣きまねなどしたら、泣けばいいと思ってとマイナス加点される。これは自分への好感度がどの程度なのかを計算しなければできない。
「何を言って――」
「例えば会長様に対して、頑張りすぎなくていいとか本当の貴方を殺す必要はないとか、私だけは貴方の味方という言い方。中々言える言葉ではありません。正直に言いましょう。私は王族の勉強や王族が学ばねばならないことを知らないので、今後必要な能力がどこまでで、会長がどの程度習得しているのか分からないので、頑張りすぎているという慰めはできないのです」
知らないことを自分の常識にあてはめて相手に伝えるなんて高等技、私にはできない。もしかしたらその所為で相手の人生が狂うかもしれないのだ。
特に王族なんて、どれだけ支援者を増やせるかが大切になったりもする。今頑張らなかったことにより、支援者から見放された場合の責任なんて私には絶対取れない。
「他にも副会長様が無理な笑いをしているから、私の前ではそんな作り笑いをしなくていいと言っていましたが、作り笑いをするだけの理由があるので私にはそれを否定できません。そして、作り笑いをしなくてもいいと思っているのはアリシア様だけではなく、多くの女性が思っていること。あたかも私だけが違うんですというアピール、流石です。マジ、リスペクトです」
でもできないんですよね。私、本当に、口下手で。
「それに正直作り笑いして下さっている方が、コミュニケーションは円滑なので、私に対しては作り笑いしていて欲しいですし。作り笑いこそ、貴族の鉄板技術。私は逆立ちしても獲得できなかったので凄いと思います」
「本当の笑みを貰いたいと思わないのですか?!」
「そりゃもらえたら嬉しいでしょうけど、それは強制することではないですし。それに、円滑なコミュニケーションは大切です。特に副会長様のお父様は魔術師団長。副会長様も将来魔術師として働かれるのならば、やっかみの中で生き抜くためにも、作り笑いは持っておいて悪くない武器かと」
うんうん。
貴族社会には必要な能力だ。私はできないからこそ、凄いと思う。
「会計様には、女性へのだらしなさをアリシア様は説教されました。でも会計様は女性と仲良くすることで、自社製品を巧みに売っていました。そのやり方もありだと思います。もちろん、やりすぎたり、入れ込み過ぎる女性には別のアプローチが必要だと思いますが、ちゃんとやっていましたし。素晴らしい営業力です」
私ごときが誰かに説教などできるはずもないので、もうマジ凄いとしか言えない。女性達に睨まれても平然と会計と話すプロの媚び売り。できるならリスペクトしたい。
「書記様は――」
「もう、止めて!! なんでそんなひどいことを言うの?!」
「えっと、リスペクトしていますと言う話で、酷いことを言ったつもりがないのですが……口下手ですみません」
やはり私は口下手なようだ。怒らせてしまったので、大人しく頭を下げる。
もしかしたら、こんな感じで私が気の利かない一言を言ってしまい、いじめられたと思われたのかもしれない。
「アリシアをえっと、尊敬? していることは分かったよ。色々おかしいけど。でも俺が好きだから、虐めたんだよね?」
「いえ。特に、会計様のことは好きでも嫌いでもありません」
「なっ。俺に一生懸命話しかけて来たじゃないか。邪険にされても!」
焦った顔で掴まれた腕が痛いけれど、嘘はつけないので否定はできない。
すると副会長が会計の手を握り、私から放してくれた。副会長の方がスマートに行動するなんて珍しい。でも貴族としては副会長の方がいつでもエレガントか。
「女性なら全て自分が好きだなんて勘違いしてはいけません。彼女が好きなのは私です」
「いえ、違います」
「待って下さい。私がどれだけ冷たくあしらっても、話しかけに来たじゃないですか」
「俺にも」
副会長と書記にも言われるが、本当に申し訳ないが、好きとか嫌いとかそういう気持ちで話しかけていない。
「あの。本当に、すみません」
「ちょっと待て。こいつらには必要以上に絡みにいくのに、どうして私には話しかけてこないんだ?!」
三人に頭を下げていると、会長には別の質問をされた。よかった。会長まで私の気持ちを勝手に勘違いされたら、不敬罪とか言われたかもしれない。王族は関わらないに限る。中立最高。とはいえ、そんなことを言ったら、絶対怒らせてしまうので、本当のことを言おう。
「えっと。必要がなかったので」
「必要がない、だと?!」
会長がものすごい衝撃を受けたような顔をした。全身でショックであると表現している。
だが、申し訳ない。王族の力は全く今は必要としていないのだ。
「……実は、私、コネ作りの名人を目指してまして」
「「「「「は?」」」」
生徒会だけではく、周りの生徒まで何を言っているんだという顔をした。本当に口下手ですみません。
そうですね。それでは全然意味が分からないですよね。
「いえ、コネ作りの名人になりたいのには、目的がありまして。実は私、【アイスクリーム】という商品を作り、世界に広めたいのです」
アイス。
その甘美な響き。
口にするだけで、記憶が蘇りうっとりしてしまう。
「あいすくりーむとはなんですか?」
何でも知っている系の副会長が尋ねてきた。知識量ならばこの学校一と自負しているっぽい彼は、聞いた事がない言葉に興味を持ったようだ。
なんと素晴らしい。アイスクリームにご興味を示していただけるとは。
「アイスクリームとは、生クリームに砂糖を加えて攪拌しながら凍らせたものです」
「はい?」
「ですから、牛の乳の油分の多い部分に砂糖を加え攪拌しながら凍らせます。ただ、ここに卵を加えた気もしますし、ゼラチンが必要だった気もするので、実際に作り上げるには試行錯誤が必要となりますが……」
何故副会長すら知らないアイスクリームを知っているかと言われれば、私がここではない世界で生きた、前世の記憶を持っているからだった。と言っても全てを覚えているわけではない。
ある日階段から落ちて頭を打った時、ふとアイスクリームの記憶だけが蘇ったのだ。きっと死ぬ直前に食べたかったからだろう。
しかしこの世界にアイスクリームはない。誰もが転生を夢見る剣と魔法の世界だけれど、私はアイスが存在する世界が良かった。
さらに言えば、このアイスクリームを家族団らんでコタツに入って食べたかった。そう。高級アイスを食べたいのではなく、庶民でも手が届くアイスだ。
しかしどこにもない。
ならば、前世の無念を果たすためにも、私はアイスクリームを作り、広め、庶民が買える世界を作ろうと決意した。
しかしこの世界の魔法は、料理などの方にシフトしていない。魔道具までは存在するが基本攻撃用。そこからの一般家庭への普及がまったくないのだ。そして文明レベルは私が生きていた時代より昔だと思われる。火はコンロではなくかまどだし、電気がないから冷蔵庫もない。
だから私は考えた。
とにかくコネを作り、この世界の生活魔法の時間を進めようと。そのコネを作る為には、必要な情報や物を持っている人に媚びを売って、売って、売りまくり、仲良くなって必要なものをそろえていくべきだと。
「副会長様は魔法師団長の息子であり、魔道具の造形にも深いですので、是非お近づきになり、アイスクリーム製造機と魔道具を使用した農機具を作るのに力を貸していただきたかったんです」
「えっ。魔道具ですか?」
「はい。そして会計様のご実家は砂糖の輸入を行っておりますので、より安く仕入れさせていただきたいなと」
「さ、砂糖」
砂糖は高級品だ。
だからできるだけこの価格を低価格化させる必要がある。その辺り、どうしていけばいいのかも相談したいところだ。
「書記様のご領地では、酪農が盛んですので、そちらを仕入れたいなと。更に長持ちできるよう、低温殺菌などを一緒に考えていけたらと。それに酪農を充実させると飼料がもっと必要となりますので、副会長様のところで作った農機具を使い、もっと効率よく牧草栽培などができればいいなと」
牧草の刈り取りとか大変だし。
他にも乳しぼりとか、色々効率化が図れればいいと思ったのだ。
アイスを庶民が手が出せる値段で売るには材料費を抑えなければいけない。しかし農家にも生活があるから無理なことはできない。
そこで考えたのは、農業の近代化だ。
「というわけで、頑張って、媚びを売っていた次第でした。上手に媚びが売れず申し訳ございませんでした」
「お、王族の力は必要ではないか? アイスとやらを作るには権力は――」
「いえ。そう言うのはいいです。売れに売れた後、国王にまでその評判が伝わり、王室御用達となるのは嬉しいですが、コネでその言葉を頂くのは、少々私の理想とは違いますので」
作る為のコネルートは欲しいけれど、美味しくないのを美味しいと偽るのは違う。ちゃんと味で勝負したい。
「というわけで、コネ作りをアリシア様から学びたいと思っておりましたので、いじめるなどとんでもないことでございます。もしかしたら私の言動の何かが誤解を与えてしまったのかもしれませんので、もしもそうでしたら申し訳ございませんでした。では、あまり騒ぎを大きくしたくありませんので、失礼させていただきます」
私はスープを一気飲みし、食べかけの食材をササッとパンにはさみ込むとそれを持って席を立った。
「あ。これからも頑張って媚び売りをさせていただきますので、いつかアイスクリームを作るのにご協力いただけると嬉しいです」
私は生徒会の皆様にそう伝えると、静かに食事をする為裏庭へと移動したのだった。
ちなみに私が媚び売りしているのは何も生徒会の方だけではない。庶民も食べられるアイスクリームを作ることを目的としていると知っている同士の方が、私の言い分は嘘偽りないと証言して下さったおかげで、とりあえず退学にならずにすんだ。よかった。退学になったら、アイス作りへの道がさらに困難になる所だった。
その後もコネを作りたい生徒にアタックをして媚びを売った結果、この国には庶民も食べられるアイスクリーム屋ができた。売れ行きも好調で、農家も魔術師も商人も皆ウインウインだ。
ただ納得いかないのは、王族御用達の名前が付けられたけれど、その御用達をしているのが私だということだ。
「何故私は会長と結婚してしまったのだろう」
「私の力を借りたがらない女性は初めてだったからな。あんな役立たず的な扱いをされる日がまさか来るなんて思わなかったぞ」
……役立たずなんて言っていないんだけど。
「まあいいじゃないか。王族御用達となれば、君が作り上げたアイスクリームがもっと売れるだろう?」
「売れるでしょうけど、正直王族になると、気を付けなければ毒殺とか暗殺とか革命とかで命を落としかねないじゃないですか」
王族のもろもろに巻き込まれないように、会長だけは特別に媚びもせず、基本塩対応しておいたのに。塩対応が周りと違うから興味が出たとか、どうしろと。
アリシア様がもっと頑張って会長を誑かしてくれればよかったのに。いつの間にか彼女と生徒会の間には亀裂が入ってしまい、彼女のコネ作りは失敗に終わってしまった。何故だろう。あんなに完璧なコネ作り職人だったのに。
「今後も色んな人のコネを作って、バランスを取らないといけないなんて酷い」
なんでこんな面倒なことになったのか。
「君ならできるよ。というかかなり国の主要人物のコネをすでに作っていないかい?」
君ならできるって無理無理。全然安心できない。私が作ったコネはアイスクリームに関する人だけだ。
私はなんでこんなことになってしまったのかと、大きなため息をついた。
仕方がない。今度は生き残るためのコネ作りをするために、今日も今日とて媚びを売ろう。