スターティングメンバー
04 スパニッシュ
「総員、起こしー!」
快活元気な声が微睡んでいた脳を貫いた
「んぐ…」
誰だ、耳元で叫んだやつは…
そう、耳元なのだ
これが基地内放送を使ったものでは無いということだ
つまりちょううるせえ
のそりと体を起こす
ベッドに腰掛けているのは…エルヴィーラだった
いや、まぁ声で分かってはいたが寝起きだからか理解は追いついてない的な
「ふふん、私の声で起こしてもらえるなんてアンタは世界一の果報者ね」
「…」
…あー、眠い寝たい寝ていたい
「…指揮官?」
「前はな…」
「…うん?」
「寝ても寝た気がしなかった」
「…うん」
「会社が悪いよ」
「…うん?」
ポスンと倒れ込む
再び夢の世界へ
「おこしってのぉー!!」
無理だった
◇
指揮官室に入ると既にアカナは積み重なった書類を手分けしていた
フウラはポケーとしながらもっもっとパンを食べている
「おはよう」
「おはようございます、寝れましたか?」
「あぁ、寝具がいいんだな、背中が痛くならない」
「アンタどんなところで寝てたのよ…」
「エルヴィーラさんは…まだ疲れが抜け切ってない感じですか?」
「んー、そんなことはないと思うけど…」
そんな取り留めのない会話から始まったのなら、今日は平和となるだろう
◇
「お知らせからはこんなもんだな」
「…はい、書類番号を確認しました」
タブレットには連日お知らせという形で書類が届くようになっていた
そのお知らせは本当に重要なことが載っているというものだ
それもゲーム時代とは雰囲気も違う
新聞のような内容もある
じゃあ逆に溜まっているような書類はなんなのかと言うと…基地運営や訓練学校の運営についてがほとんどなのだ
訓練学校の運営は今だけ代理で行っているらしいけど
最前線に合わせてのトップが色々とあって代理という形だ
運営は主に資材の管理から申請書の処理など
「…アカナ、工房所属からこっちの専属秘書にならないか?」
「え、今日から工房運営も開始するのにですか?」
そう、そうでした
チュートリアルは武器強化が光ってる、つまりは工房のチュートリアルなのだが
しかしこの書類の山、エルヴィーラが処理しきれるとも思えない
確か初期官で秘書適正が高いの水の子か土の子だけじゃなかったか?
「な、何よその目は私だってやってるのよ?」
「アカナはんの半分もできてないけどもね〜」
「フウラ!」
「エルちゃんがんば〜」
エルヴィーラはなんだか丸くなった、という雰囲気だ
ツンケンしてない、なんというか…優しくなった?
昨日のことが応えたのだろうか、無理してるなら一声かけたいとも思うが
「…よし!アカナ!終わったわよ!」
「はーい、じゃあ工房行きましょう!」
大丈夫だな
◇
ここは冒険者の基地である
基地となったのは最前線となったためなのだが
元はと言えば冒険者ギルドの方が名残り深い
ギルドを中心に冒険者のために発展した街、それがここの基地の正体で、以前の前線より遠いために訓練基地ともなっていた
そしてそこにはもちろん冒険者の防具武器を販売から加工、強化する場所もある
「…と、必要素材とお金を持ってきて貰えれば仕事はしますので」
ゲーム時代はタップでポンだったために、実際過程があるとなかなかに感動する
工房と言うだけに炉もあり、アカナが腕を振るうらしい
魔法もあるため片手剣サイズのものだとそんなに時間もかからないとのこと
なるほど
…設計図とか出したら現時点で作ってくれるのかな
ゲームでの設計図は簡単に言えば周回要素だ、あれば強いがなくても困らない立ち位置、アクティブユーザーか非アクティブかの境目基準のひとつでもある
基本武器で困らないし結局キャラ性能だったからな
この設計図は委託遠征でも集まるものがある
委託遠征に適した設計図が手に入るのは、まぁ分からないでもないが
面白いのはレア設計図もごくたまに手に入ったことだ
ユニークな性能なため攻略サイトなんかでは半分忘れ去られ、使う人もいないので評価は保留
おすすめできるかと言えば別にそうでもなかったので自分も誰かに教えたことは無い
…そもそもアプリに関する交流はほぼなかったが
「アカナ、こんなのは作れるか?」
「ふむふむ……ドラム缶を運ぶっていうイメージですかね?」
「そうだな、特に泉の水を意識した」
「なるほどなるほど…これくらいなら資材の入っていたドラム缶を再利用すれば作れますね…指揮官、面白いもの考えますね」
委託遠征用の装備なんだけどね
「とりあえずの説明は終わりです、なにか質問とかありますか?」
「やはりアカナはこっちにこもるのか?」
ちらりとエルヴィーラを見ると不安そうな顔をしている
やはり書類を今まで対処してきただけにアカナの存在はデカい
「あはは…そう心配そうな顔しないでください、普段は工房仲間がまわしてくれるようなので私は指揮官、秘書官の補佐に入りますよ」
「すまん、助かる!ありがとう!」
「あ、アカナ、ありがとっ」
「えぇ、でも私が工房にこもれるように頑張って覚えてくださいよ?」
善処する!
◇
工房のチュートリアルが終わればゲームではいよいよステージ攻略となる
だが現実では前線基地としての運用は明日から、それまでに1パーティは編成しておくようにとお達しが来た
ちなみに編成のチュートリアルは最初の攻略の後に冒険者のドロップ、からの編成というものだが
…冒険者がドロップの概念はどうなるんだ?
まぁそれは置いといて冒険者ギルドの方面でスカウト、募集要項を出しておいた
冒険者ギルドのほうは同じ敷地だが基地として動く自分たちとは違う
まぁ討伐から雑用までなんでもこなす認識…がここでのそれのようだが
ちらりと見た感じ別ゲーム感が凄かった、きっと酒場もあるんだろう、行ってみたい
冒険者からの自分たちの認識は専属とか団体とか、兵士のカテゴリになるだろう
自分はせいぜい給料制か日雇いかの認識だったけど
…給料制のほうがいいぞ?
基地なら寮もあるよ?
「指揮官、新しい仲間が到着したみたいよっ!」
ルンルンとエルヴィーラが指揮官室の扉を開けた
後ろにちらりと見える人影がそうなのだろう
募集要項はちらりとしか見てないが、まぁエルヴィーラを中心とした初めの部隊だから任せてもいいだろう
ゆくゆくは委託遠征適正の高いあの人を…
「指揮官はん?よろし?」
フウラがアカナの使っていたところに座りながら聞いてきた
…あぁ、面接か、最初の募集だから人手不足だけど
まぁいるか…
「はい、指揮官、ギルドカードの印刷紙よ」
エルヴィーラが四枚の紙を置いていく
そして机に座った
「どうぞ」
コンコンとノックされ…一人だけ入ってきた
あ、一人ずつやるんだ…
「し、失礼します」
灰色の髪の少女が入ってきて三人の視線が交差するところまで来る
緊張した面持ちで自分のことを真っ直ぐに見た
……空気を読んで頷く
「セロって言います、魔力は無属性で両手剣をメインでやってます」
無属性、無属性ね……
しらないわ
なにそん
「えっと、剣士は少ないと思って来ました」
剣士少ない?
「あと…」
苦しそうに俯いてしまうセロ
ボーイッシュな雰囲気な子だから俯かずに堂々としていてほし…
あっ
「うん、採用、よろしくね」
「え、あっ!は、はい!よろしくお願いします!」
セロ、セロちゃん、セロさん?くん?
セロはゲームではいなかった子だ
現実がはじまった感あってドキドキしてきた
無属性魔法なんてなかった
剣士はいたけど
一枚に収められたギルドカードの用紙、見るべき場所が特にある訳でもないので赤枠の犯罪関係が何も書いてないから良しである
「えっと、じゃあ……」
エルヴィーラが困ったようにこちらを見る
「戻ってもらうか一緒にいるか…あとは奥か?」
「えっと、最初に通された部屋で待ってて貰うってことで…」
「あ、はい、わかりましたっ」
パタン
「…指揮官!」
「ん?」
エルヴィーラから軽いお説教が入った
なんでも観察から、質問やら、わざわざ一人ずつの意味がないじゃない!
との事だ、加えて即決しなくてもあとから通知とか…なんなりくどくど…
たしかに
「最初の切り出しはエルヴィーラから頼んでもいいか?」
「そ、そうね……えぇ!いいわ!私に任せて」
「エルちゃん乗せられてはるよ?」
フウラ、しっー!
さて、エルヴィーラが席に座るまでにパラパラと見てみたら…
…全員女性だった
なるほど、大方女性限定とかでも書いてあったのだろう
ちなみにゲームでは男性もいることにはいる、少なかったが
…まぁゲームだし、偏るのも多少はね
現実問題だとどうだろう、冒険させるのに男手が必要な場面はないだろうか…あると思うけど…うーん
「え、えっとウノです、ジョブは盗賊なんですけど、えっとうちの地域の呼び方がそれなだけで、こっちだと」
「シーフ、ハーフリングだろ、キミは知ってる、採用だ、よろしくな」
ウノ、ウノちゃん
小柄な風魔法と短剣を使う少女
長い髪で奥手な印象から性格もそうなのだが、実際有能な子
…あぁ、ゲームでは、だが盗賊職が必要なのは確実だろう
「は、ひ……え?えと、よろしく?」
「指揮官はん…?」
「ウノは必要だ、目も耳もいいぞ」
「〜っ、えっと、後で呼ぶのでとりあえずは最初の部屋で待ってて」
「えと、はい…」
チラチラと心配そうにこちらを見てくる
……怒られるから心配されたのかな?
パタン
はい、怒られました
深く問い詰めるのは後にしてとりあえず面接を終えることに
ぷりぷりしてるエルヴィーラはまた違った可愛さを垣間見てる
ちなみにエルヴィーラが切り出すまで喋るの禁止とのこと
はぁい
「んっと…ドスだ……基本魔法だいたい、獲物は大振り…あとなんか言うことあるか?」
「えと…素行について聞きたいのだけれど」
「あー、ギルドカードに載ったのは以前セクハラしてきた衛兵をぶったやつだ、あたしは悪くない……なに?」
「い、いえ…指揮官は何かあるかしら」
あ、喋っていい?
肌の焼けた女性、ドス…さんかな
大振りの獲物、武器は斧かな、見えてる感じ
背も高めで傍から見ればやんちゃガールだ、健康的な筋肉が腕から見えている、強そう
ちなみに初対面
素行不良もエルヴィーラが聞いたから特に聞くことは無い
趣味の欄にお酒が登録されてるのは…どうだろう、この世界の疎さがにじみ出る
さて、せっかく振られたので何か聞いておかないと気まずいのだが…
まぁ趣味を聞くよね
「好きなお酒はある?」
「指揮官!?」
「メログラッシュだ」
何それしらない、でもサラッと出たから、まぁ好きなんだろう
「今度飲みに行こう」
「お、奢ってくれる?」
「まぁいいぞ」
「指揮官っ!?!?」
「俺からは以上だ」
「ふぅん、アンタはアタシを見る目が違う気がするね」
「そうか?気のせいじゃないか?」
「いいや、アタシの勘はあたるさ」
ふぅん…エルヴィーラの目線が怖いから黙るね?
エルヴィーラがあとから合否を言うとドスを返して睨んできた
…ついに睨まれてしまった
「指揮官、なによ、今のは」
「いや、聞くことはエルヴィーラが聞いたから…まぁ趣味を聞いたんだ」
「そっ、まぁ私が黙っててなんて言ったせいなのよね、分かってるわ」
その文句はずるいよ
「あぁ、ドス…はんね、聞いたことあるわぁ」
どう機嫌をとろうか考えていたらフウラが声を上げた
なにか考え事をしていたらしいがドスについて思い出していたらしい
フウラいわく一撃が強烈な冒険者、その割に面倒見のいい性分だとか
一部の間では人気がありフウラは小耳に挟んだことがあるらしい
…小耳に挟んだことを思い出せるフウラもすごいと思うのだけど
「じゃあ採用?」
「まぁ戦力的にもええとおもうよ〜」
「うー…まぁ、ちょっと怖いだけだし…それは見た目だけだし…」
なんか小声で言ってる、なんて?
エルヴィーラがなにか呟きながら席に座る
「どうぞ」
この子で最後のようだが…
採用だろう
くせっ毛の強い子で自己紹介をしている、気の弱そうな感じは先程のウノちゃんを彷彿とさせるが、まぁビビりである
トレス、トレスちゃん
うちのサポーターである
…ゲームの話だが、工房やスカウトなどにはサポーターを設定することが出来る
サポーターによって成功率やスカウト条件とか絞込みや追加効果が見込める機能で
トレスはサポーターの最多使用率を獲得する子である
シンプルな成功率アップ、時間短縮、レアキャラ率上昇は狙いなどがないデイリースカウトなどではとりあえず置いとけと置かれる子
工房でも特化したサポーターが揃ってないなら置いとけば成功率が上がるのだ
時短は言わずもがな
本当に便利、だが弱い
打たれ弱く、火力も低い
ついでに気も弱い…のはゲームではあまり関係ない
設定では確か器用貧乏とかだったかな
そして現実になった今、重要な設定文が光る可能性がある
…料理が絶品
二次創作などで料理シーンがあればだいたいトレスちゃんが作ってる
そういうのもあってかイベントでは関係ないのに料理だけ運んでくれたり
マジで公式的にもサポーターなのだ
…そんなことを思いめぐらしているとなんだか重い感じの空気だった
なんて自己紹介したの?
…ゲームでの自己紹介を思い出そうとするが、ちょっと印象にない
ちらりとエルヴィーラに見られたが
それが喋っていい合図なのか分からない、どうすればいいの?
…その頷きはなに?黙っててヨシ?
喋れ?
「じゃあ、後で合否を伝えるので、最初の部屋でまっててね」
「あ、はい…わかり、ました」
…あれ、落ち込んでない?トレスちゃん
パタン
「自分から良いとこないのネガティブな感じをだされるとねぇ〜」
「指揮官、どうだった?黙ってたけど」
「ん、トレスちゃんは飯が美味いらしい」
「いや、そうゆんじゃなくってな?」
「いや、なんで知って…え、なんで知ってるの?」
「ん?それには話すと長ーい…」
「ウノはんの時もそうだったんね」
「端的に要点だけ言って?」
あれ、二人からの扱いが…いや何も
「……事前情報?」
「…もしやその事前情報にうちのカゼノコとかあるん?」
「まぁ、あるな」
だから…長い話があるのだよ?
「…なら、うん、信用してるわ、あの子も採用なのね」
エルヴィーラからの信頼が厚くて嬉しいです
三人で最初にみんなを通したという部屋に向かう
「…まぁ人手不足なのは否めないから、こうなる気もしてたわ」
「そやねー」
「最初のメンバーだし部隊名スタメンでいい?」
タブレットを弄りながら適当に考えた
傍から見ると空中タップしてるのかな、そうだろうな
編成画面にはセロやドスの立ち絵が追加されており六人を第一部隊に編成できた
ドスの差分絵見てみたいなー
「スタメン?冒険者街にそんな食べ物あったような」
「ラーメンのそれかな」
「そそ、それやわ」
ラーメンあるんだ、行きたい、行くか、行くわ
「スタメンって響きなんかかっこいいわね…指揮官のくせにネーミングセンスはいいのね」
……えっ
あっ、ふーん…
エルヴィーラの感性にちょっと触れた気がした、特に何か言うこともあるまい…いや
「食いもんの名前だぞ?スタミナラーメン、略してスタメン…じゃなくてスターティングメンバー」
「いいのよ、響きが好き、今度奢ってよ、ドスにはお酒奢るのでしょう?」
「…あー、まぁいいぞ、俺も食いたい」
…なんか、緩くない?