活動・初日
02 活動日誌、初日
「何はともあれ、だ」
チュートリアルをぶっ壊した日は昨日、やはり魔力タンクとして空になった時に意識が落ちたらしい
指揮官室の装飾のある椅子に座り集まった人を見る
…アカナと、エルヴィーラだけだ
「これから指揮を取りたいと思うのだが…まずあのおっさんはどうした」
「リーダーは本部に報告に行きましたよ、報告によると魔王軍幹部クラスの敵との事なので」
「なるほど」
そいつは重大だな
「そして、俺が指揮を取れるのはエルヴィーラだけと」
「まぁそうなるわね」
少し離れて右斜め前、そこでエルヴィーラは座って髪をいじっていた
机に肘のっけていじいじしてる
ちなみにアカナは左斜め前の机で書類に目を通している
「……アカナ、その書類って」
なんでしょうか?
「指揮官が目を通す必要のあるものに分けてますから少しお待ちくださいね」
「お、おう」
おそらくゲーム内だとバッサリカットされていた執務作業が待っているようだ
「…まずは人手かな」
出撃はもちろんするが、何より委託遠征したい、させたい
現実だとどんな感じか見てみたい
「無理よ、誰も呼べないわ」
エルヴィーラがやはり髪をいじりながらそう呟いた
「は?なんで?」
視界の端に浮かぶタブレットにはゲーム画面、そこにはいわゆるガチャなのだが、スカウトの文字が光っている
スカウトのチュートリアルを合図しているものだ
それが無理とは一体どういうことで
「無理なものは無理よ」
「いや、なんでだよ」
「は?資材が無いからよ、おかげで朝も昼もご飯は無しよ」
ペランと1枚紙を持ち上げたエルヴィーラ、先程から眺めていたのはその紙か
飯抜きとでも書いてあるのだろう
そして何となく機嫌が悪かったのは気のせいじゃないようだ
「資材がない…なんで?急に消えるわけ……あっ」
「なに?心当たりあるの?」
「指揮官!あるんですか!?先程から資料をまとめてるんですが資材がどこに消えたか見当たらないんです」
アカナは資材の行方を探していたらしい
「あるもなにも」
エルヴィーラを見る
「ん…なによ」
「エルヴィーラが食ったんじゃないか」
「へ?」
「…あはは、指揮官、そんな、エルヴィーラさんは食堂にも工房にも行ってませんよ?工房は動いてすらいませんし」
「いや、でもエルヴィーラに使っちゃったし」
強化で
「ちょっと!」
バァンと机を叩き立ち上がるエルヴィーラ、怒ってらっしゃる
「適当言わないでよ!」
つかつかと机を回って近づいてくるエルヴィーラ
「私は昨日着任したのよ!?施設から届いたのを荷降ろしして…」
ガっと胸ぐらを掴まれる
苦しいので立ち上がる
「あぁ、エルヴィーラさん、乱暴は…」
「アンタに呼ばれて…」
偶然にもその構図はエルヴィーラを強化した構図に似ている
肩を掴んでいたか胸ぐら掴まれてるかの違いはあるが
「アンタに…あの時…」
「エルヴィーラさん?」
先程までの勢いは失われ、エルヴィーラの顔はだんだんと青くなっていく
口元がアワアワしていて可愛い
強気な立ち絵しかネタバレ防止で見てないからずっとレア差分の気分だ
胸ぐらを解放された
「あの、えっとその…」
途端にしおらしくなるエルヴィーラ
…こんな可愛い子に無理やりキスしたとか憲兵にバレたら即クビだろうか
「わたしが…使いました…」
クビ回避である
◇
「つまり指揮官は魔法の遠隔操作でこの基地を多少は動かせるって事で、それでエルヴィーラさんを強化、その強化は資材を消費して即効性のある強化を施せる、ということですか」
アカナ分かってるねー
「そうなるね」
タブレットから説明し始めたけど残念、二人には理解されなかった
なのでまぁ魔法ということにしたらびっくりすんなり理解してくださったわけだ
半透明タブレットは魔法タブレットに(名称が)進化した
「そしてエルヴィーラさんは覚えがあると」
「そ、そうね」
ぷいと目をそらす、顔が赤いような…気のせいか
「とりあえず消費した分は返したい…のだけど…あんた初対面の私なんかにこんなに使ったの?」
「エルヴィーラならそれだけの価値があると知ってたからな」
委託遠征はレベルが上がるほど量も増える、上げるに越したことはない
詰めるならコスパ、効率、大成功なども考えるが、今はそのときではない
「…なによそれ」
なんて?
「指揮官、すぐに返すのは無理なの…その…訓練学校から卒業してスグだったから」
訓練学校なんてあるのか
…そらそうか、冒険者にポンとなれるはずもない
設定だとそこからスカウトしていくというものだったか?
「…そうか、俺が訓練学校行けばいいじゃん」
直接スカウトすればいい
「指揮官、それはダメです」
「え、なんで」
「部外者は入れませんし教育機関の情報は機密ですので」
ふむ、確かに部外者か…未来の上司…は通るわけないか
人権キャラと言われた子を片っ端から揃えれば…と思ったが
いや、ゲームだな、それは
現実的に考えよう
「卒業生としてでもダメなのか?」
「う…」
「う?」
エルヴィーラが唸ると同時にタブレットにピコンと通知が入った
読めということか
なになに、エルヴィーラのプロフィールの3?
……あっ
そうか…エルヴィーラ、友達いなかったんだな…
「…な、なによ、その目」
「訓練学校は無しの方向でいこう」
「なんでよ!私じゃ頼りないって言うの?ふふん!まさか!私に任せておきなさい!冒険者候補生から1人や2人かるーくスカウトしてくるわ!」
バンッと指揮官室を飛び出て行った
「……ちなみに訓練学校ってどこ?」
「徒歩五分程の隣の施設ですね」
近いなら…まぁ、すぐ帰ってくるかな
…一人で
「…ん?メール?………アカナ、スカウト用紙持ってきて」
というか訓練学校近いね?
◇
「なによ、アイツらと同じような目をしちゃって…」
エルヴィーラが指揮官室を飛び出したのは昼頃
今は日が落ち始めた頃、エルヴィーラは一人で施設のベンチに座っていた
訓練学校には卒業生としてはいることは出来た
現役の訓練生とスカウト待ちの卒業済みの待機の施設と分かれていたため、エルヴィーラは待機の施設に通されたのだ
そこには先輩だった人や同期がどこに配属されるかなど話していたり、訓練場を使っている者もいた
「むぅ…アイツらよりも私は上なのに…秘書官に指名されて…ひ、必要にもされてるのに」
ーどうして上手くいかないのか
まるで全てを見透かすような指揮官の目
…同時に目の前の私は見えてないような目
エルヴィーラはなんとも言えない感情を覚えていた
「ねエ、なにしてるノ?」
「…誰かしら、初めて見る顔ね」
エルヴィーラに話しかけた人物はフードを被っていた
それだけだが、直感的にエルヴィーラはあまり関わりたくないと思った
思い出したのはフードの中も真っ黒だった魔王軍幹部とされた敵
…初出撃で逃げ帰れたのは指揮官あってと今でも思っている
「…休憩してたの、私、忙しいからもう行くわ」
立ち上がり、立ち去ろうとする
「ソウ…そういえバ、たーとのもりのイズミのちかくに、しざいがあるらしいヨ」
「…あら、ありがとう、覚えておくわ」
数歩歩いてからエルヴィーラが振り向く
「訓練学校では資材なんて呼び方……しないわよ」
そこには誰もいなかった
「……」
◇
「指揮官の言った書類、本当に即日で資材を届けてくれましたね」
タブレットに届いたメール、それには着任おめでとう的なメールで資材付きというものだった
実際開く時に書類番号が書いてありそれをアカナに引っ張り出してもらうと訓練学校から簡単に資材セットをくれるというものだった
…気味の悪いリンクの仕方してるな、このタブレット
まぁ便利なのには変わりないし、ついでにスカウトもしたという訳だ
そう、スカウトをしたのだ
そしてなんと訓練学校から資材を持って来た人がスカウトした人だった
…演出なし!
ノックの後、着任した冒険者と挨拶を交わす
「えっとぉ、フウラっていいます、よろしくー?」
ぽわんぽわんしている子だが
実際は初期官御三家、風の子である
技速度がめっちゃ早い
…えー、確か
風激、│風乃子、旋風、豪風
だったかな、うん、おぼえてら
「よろしくな」
「…秘書官さんはどこいてはります?」
この独特な喋り方と胸部装甲で人気が高く、しかも頭の中では結構計算しているという子で
「しーきかんさんっ」
グッと近づいてきて目が釘付けになる
どことは言わないが…いや、さっき言ってたわ
「なにか、しょーもないこと考えてませんか?」
あーいえいえ、忘れました、目の前の大きなそれに何考えてたか忘れました
…だからその微笑んでるのにドス黒いオーラ出すのやめて?ね?
「…エルヴィーラ、秘書官はエルヴィーラだ、帰ってきてないんだ」
「はれまエルちゃんここだったの」
「エルちゃん?」
「エルヴィーラだからエルちゃん、とうぜんやよ」
さいですか
「…エルヴィーラは昼頃に訓練学校にとびだしていった、まぁすれ違ったりは…」
「してないよぉ」
「まぁ、だろうな、日も落ちてるし」
「あー…ウチが来るの遅かったのまずったかなぁ?」
申請してから書類はアカナに届けてもらった、その時に指揮官室で待ってくれと言われたらしい
律儀に待っていたわけだ、昼飯も資材確保のおかげで食べれたし
…フウラの持ってきた小包は資材じゃなかったから探しに行ってよかったとは思ったけど
「まってはいたが判断したのはコチラだ…探しに行くとしても非戦闘員しかいない今、フウラはベストと言える」
「うちが?」
「魔法、カゼノコは使えるか?」
「……まぁ、まだ訓練中やけど」
エルヴィーラのように全く知らないという訳では無いようだ
カゼノコは小さい風の子を生み出して囮、偵察、遠距離攻撃と様々な用途にフウラが使う魔法だ
ちなみに二番目の魔法だから今覚えてないのも頷ける
訓練中ならきっと使えるさ
「…指揮官、勝手に強化はやめてくださいね?」
「アカナ、分かってる、取り決め通りやるって」
待ってる間、つまりは午後の間にアカナと色々と取り決めをしたのだ、勝手に使えちゃうからね、仕方ないね
アカナも工房が再開したらそっちにこもるだろうし書類についても…とまぁ色々やってたわけだ
「ちなみになんで指揮官さんが知ってますの?うちのカゼノコは誰にも言ってないんですが」
少し警戒している
…そりゃそうか
「フウラについては色々と調べさせてもらった…スカウトしたかったからな、いや、調べたからスカウトしたかったんだ、うん」
「………………ふぅーん」
あまり疑惑の目は晴れなかった
「コホン、とりあえずカゼノコをタートの森に送れるか?」
「まぁ、できますけれど」
ふわんと白い球体が3つ浮かぶ
「はいっ」
フウラが腕を振ると風の子達は窓の隙間からするりと抜けて外に出ていった
「できるのはせいぜい囮と周辺探知だけやよ?」
「アカナ、タートの森周辺も乗っている地図があるか探してくれ」
「わかりました!」
アカナが指揮官室から出ていく
「…フウラ、その喋り方、作ってるの知ってるからやめたきゃやめていいぞ」
「つっ!?」
ブワッとフウラから出た風で書類が少し舞う
「な、なにを言うておりますの、指揮官さまや」
声が震えているフウラ
「…いや、踏み込みすぎた、忘れてくれ」
…フウラの口調は自分で作っていて、それで言葉がおかしくなる時がある…というのは親密度イベントだったようだ
その印象だけは強く口走ってしまったが段階を踏んでない今、余計なお世話なのだろう
ゲームでは親密度はケーキを食べさせれば直ぐに上がるだけに軽視していた、親密度イベントは思い出せる分だけ思い出すべきだな
フウラの指が震えている
横にまわりフウラの腕をとる
「し、指揮官さま?」
「余計なことを言ってすまなかった、今はエルヴィーラを探すぞ…目星はついてる、フウラしかできないんだ」
「指揮官!地図ありましー…何してるんですか?セクハラですか?」
「は、え?いやいや!違う!なっ!フウラ!」
「ふふ、急に手を取られたんです、アカナはんたすけてな」
「フウラさん!?」
「ふーん、やっぱりおっきい子の方が好みなんですか、指揮官も所詮は男ってやつですね」
目が!冷たい!
「いやいや、アカナ…」
もあるぞって言ったらセクハラですねぇ!
「…とりあえず、地図ですっと」
「助かる………フウラ、ここに飛ばしてくれ」
「ここ、ですか?……湖?なにがあるん?」
「俺も知らん、だがココだと確信はある」
「はて…そうですか」
理由は単純
ここが委託遠征の1つ目の場所
つまり、何故か無限に資材が湧き出る場所だからな
スカウト失敗、せめて!という感じで行くには場所も距離もちょうどいいと言えるだろう
…そういえば初めて委託遠征が解放されるのは3つ目をクリアしてからなんだが、1つもクリア、どころか出撃すらしてないのに解放されるのか?
◇
タートの森の泉は訓練生なら誰しも知っている
団体遠征で山岳地帯に向かう訓練がある
その時にちょうど休みたいな位の場所に泉があるのだ
道中看板があり場所は知っている
…同時にほとんどの人が行ったことはないということでもあるが
噂では危険で、帰らずの沼が泉の底に広がっているとか
泉に足をいれたが最後
帰ってくることは無い
どこからそんな噂が流れたのか
…そもそも私を遠巻きに馬鹿にしようとする奴らは多かった
やはり噂なんかあてにならない
自分の目で見ればいいのよ
「…着いた」
着いてしまった
日はすっかりと落ちてしまい、戻っても怒られるだろう
だいたい大見得切ってなにも得ず、その上行方をくらましているとか
「…さいあく、私らしくもないわ」
…いいことを考えましょ
目の前に広がるのは泉、確かに泉で中央にある石から波紋が広がっている
…つまり常に何かが出続けているということで
泉の水をすくう
「…確かに、高純度の魔力水ね」
資材として最適と言えるだろう
あの指揮官は魔力を全然感じられないから飲んでも無駄だけど、私たち冒険者はこの水だけで戦い続けれる、それくらいの代物だ
…あれ、あの指揮官なんで魔力を感じないのかしら
…キスした時、その前に強化されたよりも体が高揚感に満たされた
それだけ指揮官は魔力純度が高い……
やめ!アイツのことは今はいい
「…持って帰りたいところだけど」
あいにく水筒程度しか持ち合わせてない
とりあえずすくっておくけど
「なにより魔物の巣になってるわね」
道中、視線は感じた
しかし遠くからなうえ、何もしてくる様子はなかった
あえて泳がせておいたけど
どうやらここを中心に多く生息してるみたい
「サクッとやって帰りますか」
この巣は残念だけど今日から私たちのものになるわ
…………まずったなぁ
◇
「…見つけはりました、泉に確かに……指揮官、これは…」
「分かってる、エルヴィーラの体力が減っている、魔力は増減を繰り返しているが、これは疲労度が最も溜まる運用方法だ」
「えっと、おふたりとも…私は見えてなくって…」
「つまり最悪ってことだ」
「敵…50…ちかくやよ」
「フウラ、ここは巣だ、そんな数じゃ済まないぞ」
「…どう、しはるん…」
「……」
ゲームでこうなったら詰みだ
エルヴィーラはやられて…撤退
…キャラは撤退すれば回復できる
最初はロストという復活不可もあったらしいが不評で、イベントの時のみ、そのイベントに参加不可になるロストだけになっていた
「……はは、ここは現実だぞ」
「指揮官さん?」
「指揮官?」
「…今から指揮を執る
…フウラ、お前の命、俺に預けてくれないか」
「………エルちゃんたすかる?」
「助けるさ」
「……そ、いいよ、私の命、好きに使って」
思いついた、思いついてしまった
フウラに移動魔法は無い
単発、便利補助、範囲、必殺技の構成だから
でも、それはゲームの話だ
現実とはわけが違う