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振り返ると婚約破棄を言い渡されたのは………私でした。

作者: 千花千花瓶

悪役令嬢は出てこない。なのに婚約破棄から始まる物語。

皆様、ごきげんよう。

 先ほどまで程よいざわめきと、華やかな音楽。

そしてきらびやかな会場内にふさわしい紳士淑女で満たされていた空間が、突如始まった『婚約破棄』と言うイベントに静まり返る中、自分の置かれた現状にどのようにしたらよいのかがまったくわからない私、マリエーヌ・クラフティでございます。

 私の前には、ハニーブロンドの煌びやかな髪と青い瞳の王子様然、といった容貌の若者がこちらを睨みつけ、その側に小柄で愛らしい容姿の美少女が隠れるようにしながらこちらをちらちらと伺っているのが見て取れていて…。

?何なのかしら?この状況…。

「あの…」

「言い訳はいらない!!貴様がアリスに嫌がらせをしていたのはわかっている!言い逃れはできないぞ!」

 なんだかずいぶん鼻息の荒い方だこと。

「言い訳…とは?」

 思わず自覚のあるジト目をしながら相手に問いかければ、更に鼻息を荒くした青年が意気揚々と

「こちらには証拠もそろっているからな!貴様のような性格の悪い女は我がフラクト公爵家にはふさわしくない!…私は、貴様とは婚約を破棄し…この」

 そう、側に控えていた美少女の肩を優しく抱き寄せると。

「真実の愛の相手。アリス・リンドと婚約する」

「ああ…オリバー様…」

 肩を抱かれたアリス。とか言う名前の令嬢が、オリバーとか言う青年をうっとりと見つめ、青年もとろけそうな表情で令嬢を見つめ返す。

 それで、私にどうしろと??

 見つめあい、二人の世界を作り続けるのに夢中の方々はお気づきでないでしょうが、そろそろ回りがざわめき始めている。

 何だろう…この状況…。

「あのですね…」

「いいから黙れ…この痴れ者がっ!」

 芝居がかったオリバー様?は、今もう絶対にご自分に酔ってらっしゃるわね。

びしり!と私を指で指し、アリス嬢の肩をさらに深く抱き寄せると

「アリスの愛らしさを妬み、数々の嫌がらせ。証拠とともに侯爵家にも送らせてもらう!きちんと慰謝料を払うんだぞ!逃げられると思うなよ!」

「え?どこに送られたと?」

 興奮気味のオリバー青年に、私は思わず聞き返す。

「貴様の両親のもとに決まっているだろうが!!」  

…う~ん。そろそろ気づく頃かと静観していたのですが、なんなんですか?この話…。

 ふぅ…とため息を一つ零し、いちゃつく二人の正面から問いかける。

「で、あなた方は…一体どなたなの?」 


 事の始まりは、約束の時間に待ち人が現れず、過ぎていく時間をどうやり過ごすか思案していた時。

親しい友も居らず、おしゃべりの相手もいないといった状況の中、突然突き飛ばすように肩を叩かれたのが騒動の始まりだったのだけれど。

 振り向いた先に見たことのない青年と、その彼に守られるように佇む少女が立っていて、この騒動な訳。

嫌がらせだの意地悪だの、私には何一つ覚えがないし、何より彼らを知らないのだから、私が嫌がらせなど出来よう筈もないし、する理由もない。

「きっ!貴様…!!」

 私の言葉に、オリバー様とやらが怒りで顔を歪め、震える指先に怒りを込めて糾弾の声を上げかけるのを、私は静かに制すると。

「どなたかと、お間違えではなくて?」

「どこまで馬鹿にするんだ!!破棄する。と言っても、自分の婚約者を間違える奴がどこに居ると言うんだ!お前は一体!どこまで性悪なんだ!!マリエラ・クロフトっ!!」

「はい、違いますわ」

………。

 扇を半分広げ、口元を隠しながら笑いをこらえる。

「?なんだ…って?」

「だから、違いますのよ?その…マリエラ・クロフト令嬢?と、私は、まったくもって別人ですわ。」

 大丈夫?この国の公爵家は…。なんだか取引するのが不安になりますわね。

「え?あ??どっ…どういう…」

「どういうこと、は私の言葉でなくて?私の名前はマリエーヌ・クラフティ。嫌がらせも何も、父と二人でこの国の国王、ロングスティカー様にご招待いただいて二日前にこの国に着いたばかりですのよ」 

 国王直々の招待客。

その言葉にオリバー様の顔色がざっと蒼褪める。

「我がホイスト皇国とは、作法が随分と異なりますのね。」

 ホホホ…。と笑って見せるが、あれほど勢いづいていた二人は蒼褪めたまま言葉を発しない。

「で?マリエラ嬢とは婚約破棄をなさるのね?」

「あ、その、それは…」

「よろしいのではなくて?あなたのような、きちんと確認すべきことを確認しないで物事を推し進めようとするような男性と一緒になっても、マリエラ令嬢は不幸になるだけのような気もするし…。もしよければ、私が我が国の優秀な殿方をマリエラ嬢にご紹介させていただくわ」

 にっこり。

 幸いなことに、このアーレステオ王国より我が皇国のほうが栄えていて、お嫁入していただいてもマリエラ嬢が困ることは少ないと思うし…。こんなおバカさんの顔など見たくもないのではないかしら?と会ったこともない令嬢に思いを馳せてしまう。

 もちろん、マリエラ嬢の意見は聞かせていただくけれど、そういった選択肢も用意できる。

 あわあわと慌てるお馬鹿さん二人組に、もう一度微笑んだ時。

「いったい何があったんだ?」

 声が響くと同時に、人波が二つに分かれこの国の王子であるクリスが私たちの前に現れた。

約束に遅れたのはこの方だ。

「まあ、クリス様。この国の方は面白い方が多いのですねぇ」

「…どういうことですか?マリエーヌ嬢」

 銀髪蒼眼のクリス王子は見た目の雰囲気に相応しく、私から事の顛末を聞かされると同時に小さく舌打ちし(王子なのに舌打ちw)、魔法のないこの世界で怒りの冷気をまき散らす。

「…オリバー・クラフト…。詳しく話を聞かせてもらうぞ。アリス・リンド。貴様もだ」


 国王招待の大国ホイスト皇国の令嬢に、肩をド突くといった暴力行為・真偽を確認せずに一方的な断罪もどき。暴言・名誉棄損…。面白いほどオリバー公爵令息の罪状が膨れ上がっていくのを見ているのは何とも面白…いやいや、いや~。

 思いがけない三文芝居に、私は扇で口元を隠しながらにひょにひょ笑いをこらえるのに必死でいると。

「あら…オリバー様、アリス様?」

 こげ茶色の髪とハシバミ色の瞳の令嬢が、パステルグリーンのドレスを身に纏って現れる。

ん?ンン??見たことがあるような無いような…。知っている方?いえ…知らない方だけれど…。

「マリエラッ!!」

 王子の前でしょんぼりしていたオリバーが、突然の大声。(そして王子から拳骨される…)

 呼ばれたマリエラ嬢は、不思議そうに「え?んっ??」と全く話がつかめていない様子の表情を見せ。

「え?なんですか??」

 クルクル動く大きな瞳、形の良い鼻も愛らしく、ピンクの唇も若々しく可愛らしいお嬢さんだ。

「マリエーヌ嬢のほうが僅かに大人びて見えますが、よく似てますね…」

「オホホホ、私のほうが微妙に老けてる。と」

 へー。ホー。ふ~ん…。と言葉に出さず王子の感想に冷笑を返す。

「ちがっ!そ!そうでは…!」

ドバリ、と冷や汗をかく王子を無視し、マリエラ嬢の前に立つ。

「こんにちは、初めまして。私、マリエーヌ・クラフティですわ」

「こんにちは、マリエラ・クロフトです」

 カテーシーを返してくれる令嬢は、庇護欲をそそる愛くるしさがある。どうしよう、本当に国に連れ帰りたいわ…。

 ほんわりと誘拐を企てかけているその横で、

「ほんと、皆様どうなさったんですか?」

 マリエラ嬢がそう誰ともなしに尋ねた途端。

「すべてお前のせいだぞ!マリエラッ!」

「そうですわっ!」

と場違いな怒声が響く。

「お前が会場にいないから!私たちがいらない恥をかいたのだっ!やはり、貴様との婚約はっ解消だっ!」

 ピキリ。と笑顔が凍り付く。

 この馬鹿ども、まだそんな事を…。

握りつぶしてやろうかしら(物理的に)、と右手が動きかけたその時…。

「は?」

 思い切り驚いた顔で、マリエラ嬢がオリバーを見る。ついでにアリス嬢も見る。

そして…。

「婚約?」

「そうだとも!私は貴様と婚約解消し、このアリスと婚約すると決めたのだっ!」

「オリバー様ぁっ!!」

 意気揚々と叫ぶオリバー。うっとりアリス…。

あほか。

と…。

「え?解消?はできませんが、どうぞ、ご自由になさってください」

 マリエラはそんなことを口にする。

「貴様!アリスに愛人になれというのかっ!!」

「酷いですわ!!」

 幸いなことに、今この場にいるのは今回のことに携わった人物たちのみ。

パーティー会場から外れた個室にて話がされていたため、マリエラ嬢の『愛人の勧め』?は他の方々には聞かれてはいない。

 さすがにそれは…。と思ったその時。

「いえいえ、ですから。今までも何度も説明しておりますが、私、オリバー様なんかと婚約しておりません。していない婚約に、解消も何もないじゃないですか?」

さらりとデスりました。なんか、ですって。ぷーっ!!

「なんでそんな風に思い込まれていらっしゃるのかが全く分からないんですが、私の婚約者はオリバー様のお兄様、アロデ様ですよ?」

「え?!オリバー様、お兄様がいらっしゃるんですかっ!?」

 アリス嬢が驚いた風に声を上げる。

あ、こいつ、爵位狙いだったのね…。

「今は勉学のために5年の留学中ですが、それも今年いっぱい。アロデ様が立派になって帰られることが今から楽しみで夜も眠れず…今日は遅刻しちゃいました」

 てへっ!と笑うマリエラのかわいらしさよ。そして聞き覚えのあるアロデの名前…。

「あら、アロデ様の婚約者って…マリエラ様でしたのね」

 今、皇国に留学中の学生の中でも、特に優秀な青年を思い出す。

そう、アロデ様のお相手だったのね。なら皇国に連れ帰るのは無理な話ね。残念。

「公爵家の跡取りだと思ったのにっ!」

「アリス!!待ってっ!!アリスーっ!!

  

 幸せだったり不幸せだったり。人生はままならないものねぇ~…。

僅かの時間にマッハのスピードで通り過ぎて行った人生の悲喜こもごもに、私は扇で口元を隠す。

 振り返ったら、してもいない婚約破棄。

 とりあえず。  

 名前の確認はしなくてはね。



 そのお相手は、…本当に私?



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

「と、ところで、マリエーヌ嬢…。御父上から、まだ決まったお相手がいないと、その、伺ったのですが」 

 緊張した面持ちで、クリス王子がそんなことを話しかけてくる。

「そうですわね。行き遅れ確定ですわ」

 うふふ。と笑えば、王子はなぜか微笑んで見せたのだった。


 

割れ鍋に綴じ蓋。なんちゃって。 

面白かったら下のお星さま、ぽちっとな。をお願いします!


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