4 アリア@金持ち
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簡単な荷物検査を終えた後、馬車を専用の車庫に置いてきた。
私はアリアではなくカレラの背に乗っている。明らかにメイドっぽい服装をしている者が主人に人をおぶわせている、なんてイメージが悪いからな。
まあアリアはまた頬を膨らませていたが了承してくれた。可愛かった。
それにしてもアリアが美少女過ぎて滅茶苦茶注目を集めている。男共がアリアの顔を見ては顔を赤らめ、前かがみ気味に歩いていく。てめーら私が貧弱で良かったな。もしそうじゃなければここは血の海だったぜ?
「…アリア、その…あんまり離れちゃだめだよ」
「え?なんで?」
「や、ほらアレ。その、なんていうかアレじゃんか。とにかく離れるなっつってんの」
「ふふっ、お姉ちゃん横暴すぎだよ」
「…アリア様、耳を」
カレラがアリアの耳に顔を近付けて何かしらを言う。何だ?
「…ああ、あっ…そう言う事ね…う、うわうわうわ…」
言われた傍からアリアが顔を赤らめて目を背けてしまった。そんな顔も絵になるなぁ…ではなくカレラさん?何言ったんですかね?
「アリア?」
「ちょっあっお姉ちゃんこっち見ないでっ…」
「えぇ…?」
なんか私の知らないところで何かが起きている。ちょっと?仲間外れは刺さるって…
ちょっと?二人共なんで喋んないの?二人共ー!
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実は検査は明日なので、今日中にどこかで宿を探すべきだと思うが…
「ねえ、アリア。その…めっちゃ失礼だと思うんだけどさ」
私は声を落としてアリアに話しかける。そう、私はここに来てからずっと思っていた事がある。
「…ここら辺の住宅街ってさ、なんか小さくない?」
「あ~…お姉ちゃん、これは普通の家だよ。どっちかというと私達の家の方が大きいね」
「…もしかして私達って裕福だった?」
「まあ結果的に言えばかなり裕福なんじゃない?」
「あぁ~…」
成程。アリアは一日に平均して二十金貨程を稼いできていて、本に書いてあった感じの貨幣価値で言えば結構な大金だと思っていたのだが…やはりそうだったようだ。アリアっていったい何者…?冒険者って滅茶苦茶払いが良いとか?それともアリアが有能過ぎるだけ?
まあ何にせよアリアのお陰で私はくいっぱぐれることが無かったのだ、本当に…頭が上がらない。
「ありがとう、アリア」
「どういたしまして」
何を言わずとも伝わってくれる。…やっぱり私はアリアの事が大好きだ。ほんと最高の妹だよ。
「あ、あそこなんていいんじゃない?結構広そうだし」
アリアが指をさした先には…「ホテル 金瞳」という看板が掲げられた、大きな建物があった。これは何とも…高そうな…いや、これまでのアリアの支払い能力から言って払えないとは思えない。やっぱアリアすげーわ。何が凄いって全然迷わないとこだよね。ここは止めとこうみたいな感じをおくびにも出さない。これが金持ちか…!
「良いですね。ではこちらにしましょう」
「良いよね、お姉ちゃん」
「ん、良いけど…お金はあるんだよね?」
お金が無ければ話にならない。金貨ってかさばりそうな割にこの二人がそれっぽい物を持っている気配が無い。大丈夫か?野宿とかマジでやめて欲しいんですけど?
「ん、あるある。カレラが持ってくれてるから大丈夫」
「ええ、心配はいりません。それよりも大分おねむのようですね。早く入ってしまいましょう」
む…私がさっきから舟を漕いでいたのがカレラには分かっていたようだ。
慣れない外出で疲れてしまったのだろうか、脳がうまく働かないので大人しく従う事にする。
…あ、マジで…眠く…
――――――――――
「…ぁっ…うぅん…」
…覚醒した私は体を起こし、辺りを見渡す。
魔法の光は煌々と部屋を照らし、一面の大理石はそれを反射して輝く。しかしその部屋に人影は無かった。…?
「あれ…二人共…どこ…?」
…いない。そう気付いた瞬間、私の心臓はドクンと跳ねる。手足が震えて、汗がじっとりと出てくる。もしも二人がこのまま帰って来なかったら…?
私の隣には、いつだって誰かが居た。カレラだったり。アリアだったり…誰も居ない事なんて、一度も―――
「ひ…ひ…ひぃっ、ひぃぅっ、うっ、ふっ、ふっ、ふっ…誰かっ誰かぁッ!!!」
…返事は無い。荒くなる呼吸は私の恐怖をさらに助長する。毛布を深く被っても震えは収まらない。いつもは然程大きくも無い声でも応えてくれるあの人がいた。あの子がいた。
なんでいないの。おねがいだからたすけて…
「―――大丈夫ですか?」
その時、毛布の外で声がした。…誰だろう?
毛布から恐る恐る顔を出す。そこに居たのは―――桃色の髪の、女の子。
これが彼女との関係の始まりだった…
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執筆能力が下がっている希ガス