3 とうちゃーく
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「それでね、お姉ちゃん。検査には一日かかるからどっかの宿に泊まんなくちゃいけないの。
良いよね?」
「えぇ~…」
「えーじゃない。お姉ちゃん最近我がままだなあ、おっきくなれないよ?」
「小さくて悪かったねえこれでもあんたの姉なんですけどねえ」
アリアの身長は162センチ、私の身長は147センチと既に大きな差が出ている。まあ勿論私が食っちゃ寝を繰り返しているからであり、ちゃんと食えばアリアにも負けないんだからねっ!
因みに今はアリアの膝の上に座っている。アリア曰く「私をおぶれなかった代わり」らしい。いやそんなに気にする事なのか…?まあいいけど。アリアの考えてることは良く分からんね。
現在、山を下りて少しの所だ。このペースなら街まではもう一時間程だろうか。
六月らしからぬジリジリと照り付ける陽光は、たとえ馬車の中であっても私の肌を焼くほどに強くて熱い。
「マジであっちぃ…」
「お姉ちゃん肌弱いから厚着してるもんねー。あ、じゃあちょっとだけ冷やしてみる?」
私の肌は非常に弱く病的な程に白いため、少しの日焼けでもかなり痛いし、下手をすれば痕だって残るかも知れない。なので長袖長ズボンを着ているのだがこれがまた暑いんだ…
「え、出来んのそんな事?じゃあお願いー」
「んー。あー、《サードフォーミュラ:リフリジレイト》」
アリアがそう唱えた瞬間、体感気温が一度、二度と下がり…五度くらい下がって止まった。
すっげー…何だこれ。魔法最強かよ。めっちゃ涼しい。
「あ、今のはアーミリック語で魔法のlvを指定して、その後に魔法の名前を言ったんだよ」
「へぇ」
いや、知らんて。アーミリックって何すか。
あ、でも本に何かそれっぽい記述があるにはあったなぁ。魔術発祥のとかなんとか…
まあいいや。インコンクルージョン、私の妹最強。
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御者台に居たカレラが仕切りの壁に付いた窓を開け、話しかける。
「もう少しで検閲所に到着しますので、準備してください」
「「はーい」」
窓の外を見やると、すぐそこに十メートルくらいの壁が続いているのが見えた。
この街、ギッタに限らず、この国のほぼ全ての街がその周囲を壁で囲まれている。何故なら外敵が多く街を護るためには外壁が必要だったからだ。
このギッタはかなり安全な方で、十メートルの壁はそこまで高くはない…らしい。
「お姉ちゃん、この辺は私の庭だからね。凄く安全だよ」
「あー…そういえばアリアってさ、冒険者としての立ち位置はどれくらいなの?」
「あ~、そうだなぁ。冒険者って十個のランクに分けられるんだけど、私はその上から二番目だよ」
「へーすご。そんな君は撫でて進ぜよう」
「あははっ、くすぐったいよぉ」
くるっと後ろを向き、アリアに抱き着くような姿勢でアリアの頭を撫でる。さらさらとした金の長髪が何の引っ掛かりも無く私の手の中を流れていく。…ああ、凄く綺麗だ。
「んんっ!」
「「あっ」」
いつの間にか仕切りの窓を開けていたカレラの咳払いで、思わず声を上げてしまう。
…あれ、凄く恥ずかしい事をしていたんじゃ…?いや、そんな事は無い…筈。
そう、姉妹のスキンシップだからね。
「…もう着きましたよ」
「あっはい」
なんかすいません…
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ギッタは準前線市街地としてその名を連ねており、また前線付近の唯一の安地とされ、ベテラン冒険者以上は皆ここを目指してやって来る。周辺に広がる膨大な魔粒子は彼らの身体能力を底上げする為である。魔粒子を浴びると常人では死に至る事もあるのである程度の修業が必要とされる。
特に魔粒子濃度の高い場所―――カグレウル山は魔物の巣窟とされ、前線をかなり過ぎた場所にあるので一流の冒険者でも踏み入るにはかなりの勇気と準備が居るだろう。
…もしもここに住居を構えるような者が居るのならば―――
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