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1 行くしかないらしい

 ***




 突然だが、「虚弱」というものをご存じだろうか。まあ平たく言えば体力が無い事だ。

 しかし私達人間が暮らす世の中に、虚弱というだけで全く動けないような人間が果たしてどれだけ居るだろうか。


 私ことミリア・ラスターは、虚弱に生まれてきたのだが…余りにも虚弱に生まれ過ぎてしまったため、唯一の家族である妹に大きく迷惑をかけてしまっている。

 十二歳にしてトイレに行くだけで一苦労、階段は登れない、年中寝たきり。体が動かせないだけで、こんなに辛いなんて…何よりも笑顔で世話をしてくれる妹のアリアに申し訳ない。


 体が動かせたら…そう願わない日は無い。アリアを助けたい。アリアの力になりたい。アリアと一緒に外で駆け回りたい…

 でも、叶わない願いだ。私の体は現在の医学ではどうする事も出来ないらしく、精々元気になるものを食べ続けるくらいしか無い。


 幸いにもアリアにはかなりの冒険者の才能があったらしく、毎日朝早くに出かけては大金を持って帰って来るので、金には困っていないが…

 それでも最初は非常に不安定だった。初日はアリアは金を稼いでくると言って出て行き、夜遅くに血だらけで帰って来て…私を抱きしめて泣いた。その日偶然体調が悪かった私が死んでしまうんじゃないかと心配で心配で仕方がなかったらしい。その時に不覚を取ってしまったらしく…

 私も泣いた。アリアに何もしてやれない自分が憎くて、情けなくて泣いた。


 何で私はこんなに弱いのかな。

 このままずっとアリアに迷惑を掛けながら、死ぬのかな。




 一生、このままなのかな…




 ――――――――――




 「じゃあ、行ってきまーす!」


 「行ってらっしゃい」


 笑顔で出ていくアリアを見送る。ああ、朝から癒されるなぁ…

 アリアは美醜を知らない私から見ても超が付くほどの美少女だ。山奥に住んでいるのが勿体ない。今すぐ都会に行って彼氏を作って欲しいんだけどなぁ…私っていうコブが付いてくるからなぁ…


 美しい金髪を煌めかせつつ、彼女はドアが閉まる最後の瞬間まで私に手を振っていた。ええ子やのぅ…

 しかしその装備は伊達ではない。確か…王級装備だったか。全然知らないけど、なんか凄いらしい。王級装備とは王級魔物から取れた素材を使った装備らしい。…全然知らないけど。

 生まれてこの方、私はこの家の付近から出た事が無い。私に情報を与えてくれるのは妹の話と本棚の本だけ。…良く考えたら妹を除いて他の人間にも会った事が無いな。まあつまりは私は世間知らずなのだ。三年前に逝去した親が残した本はどれも古く、妹の話とは乖離したものばかりだ。


 外に出たい。アリアと一緒に冒険が出来たら、どれだけ楽しいだろうか…




 「失礼しまーす」


 「ひぅっ!?」


 ガチャッと部屋のドアを開けて入って来たのは―――メイドのカレラ。

 アリアの心配の種であった私をカレラに任せるようになり、アリアは更に稼いで来るようになった…のだが。


 「…どうしたんですか?ミリア様。さ、からだふきふきの時間ですよー」


 カレラが私の方に近付いてきて…その手に持った布巾を私の頬に当てた。ひんやりとして気持ち良い。そのまま顔を拭き、首を拭き―――服を脱がせていく。


 「あの、自分で…」


 「駄目です」


 「ど、どうしても…?」


 「駄目です。ただでさえお体が弱いんですから…ミリア様はなーんにもしなくていいんです。黙って私の奉仕に身を委ねて、ね?」


 「…」


 そう、カレラは何か変だ。一か月も一緒に居るけど、未だに彼女がどういう存在なのか全く分からない。優しいし痛い事なんて絶対にしない、けど人としてこれで合っているのかがなぁ…

 裸を見せるのも初めてじゃないし、隠すような物がある訳じゃない…でも、このジリジリと焼くような恥ずかしさは、一体…


 一糸纏わぬ姿になった私は、カレラに身を預ける。ある程度は彼女の事を信用しているし、何故かカレラに触られると…その、結構気持ち良いのだ。私を撫でてくれる彼女の指にはなんだか不思議な力があるように感じる。


 かくして全身―――体の隅から隅まで体を拭き終えた。


 「ふーっ…」


 「気持ち良かったですねぇ」


 「はふぁ…」


 気付けばカレラが私の頭を撫でていて…くっ、気持ち良い…ふあぁ…

 ここから先は、私とカレラは本当にする事が無い。本を読むだけで時間を潰す事が多く、その間カレラは私の傍で控えたり、ずっと頭をなでたりしてくるのだが、これが何ともやり辛い。カレラに何かしないかと伝えても何もしようとしないし、本も特に読まないし…


 だが―――


 「ミリア様、お手紙がございます」


 カレラは私のベッドに半身で腰かけ、懐から手紙を取り出した。…珍しい、というか多分今まで一度も無かった筈だ。私に手紙が来るなんて…。一体これは?

 と、そこでカレラは私の体を持ち上げて、自分はベッドの中に入り、私を自分の上に置いた。そしてそのまま毛布を―――


 「いやちょっと待って。なんでこの体勢に?」


 「…まあ、やりやすいから、でしょうか。丁度私も疲れてましたし」


 そ、そうか…疲れてたのかぁ…

 何か申し訳ないな。私の世話なんてそれはまあ疲れますよね…

 だったら諦めてこの体勢を享受しよう。カレラがやりたいっていうのならやらせてあげたいな。


 私の顔の前で手紙を開いて、そのまま読み上げる。


 「えー… 

 

 『ミリア・ラスター様、並びにアリア・ラスター様へ。

  あなた方はこの度国勢調査としてのステータスの調査の対象となりました。

  以下の日時にお住いの地域の政務庁魔法科へお越し下さい。

  尚、身分証明が可能な物を持参してください。


  六月三日 十二時~』

 

 …え?」


 「えぇ…?」


 首を傾げるカレラ。同じ様に私も混乱していた。

 え?何これ?私のステータス?というかステータスって何です?これに私が行くの?はぁ?


 「ミ、ミリア様…どうしますか」


 「いや、なんにも分かんないんだけどさぁ」


 「ですよね」


 何よりも問題なのは、私が外に出なくてはならないって事。多分外に出たら三歩くらいで干からびる気がする。それに政務庁って遠いのだろうか?すぐそこだったら良いのだが、徒歩一時間とかだったら無理なんだけど。


 「政務庁って遠いの?」


 「うーん…まあ徒歩で行けば二時間ってとこですかね」


 「ぜっっっっったい行かない」


 「ですよね」


 アリアはともかく私を呼ぶなんてランダムにも程があるだろうに。私の何かを調べて得られる物があるんだろうか?




 「でもこれ行かないと犯罪になっちゃうんですよねぇ」


 「ゑ?」




 ***

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