俺がぶっ壊してやる
クアトロとアストリア、そしてダースの三人は古代種の竜、そして小鬼たちとともにパラン神殿まで落ち延びていた。
パラン神殿、かつてアストリアが魔人の王、ナサニエルに捕らえられていた神殿である。
程なくして、そこへ飛竜に乗ったエネギオス、マルネロ、そしてヴァンエディオがそれぞれ小鬼に連れられて合流してきた。
「この飛竜も、ろりろり姫が寄越したのか?」
「いえ、これはおそらく、こちらの竜さんが……」
アストリアの言葉が分かっているのか、古代種の竜が誇らしげに鼻息を吐き出した。
その鼻息だけで小鬼たちは、たたらを踏んでいる。
「なるほど……お前の子分ってことか」
エネギオスの言葉に頷くようにして、再び古代種の竜が鼻息を吐き出した。
「エネギオスさん、その怪我は……?」
アストリアはそう言ってエネギオスの所へ駆け寄ると、即座に治癒魔法を施し始めた。
「大丈夫よ、アストリア。転んだだけみたいだから」
マルネロが全くもって心配ないといった顔で、そんなアストリアに声をかけた。
「転ぶか、馬鹿!」
大人しくアストリアの治療を受けながら、エネギオスはマルネロに反論する。
アストリアに治療を受けるエネギオス。
筋肉ごりらの分際で生意気だと思ったが、アストリアに怒られそうなのでクアトロは心の狭いことを言わないことにする。
「クアトロ様、ご無事で」
そのようなクアトロにヴァンエディオが近寄ってきた。
「他の将兵は無事に逃げ出せたのか?」
「全てとは言いませんが、大半は無事に逃げ出せたはずです。天使や魔人も、やはり深追いはしなかったようですので」
「狙いはアストリアのみということか……」
クアトロの言葉にヴァンエディオは頷いた。
「でも、今ひとつ分からないわよね。アストリアが何で狙われているのか」
マルネロの言葉はもっともだった。器だ何だと言われても、クアトロ自身も今ひとつ納得できてはいない。そんなクアトロたちに向かってヴァンエディオが口を開いた。
「マルネロさん、皆さんもですが、この世界、分からないことが多すぎると思ったことはありませんか?」
「どういう意味だ?」
クアトロが言葉を返す。
「例えば天使……そういえば、スタシアナさんや、エリンさんの姿が見えないですね」
ヴァンエディオが気づいたように言う。
「状況が分からないけど、トルネオも連れて天上に向かったみたいよ」
そんなマルネロの言葉にヴァンエディオは軽く頷いた。
「ほう……天上ですか。それは興味深いですね。それでは今、マルネロさんが言った天上とはどこにあるのでしょうか?」
「それは、こことは違う世界だろ?」
クアトロはそんなこと当たり前だと言わんばかりの口調で言う。
「違う世界とはどういったところなのでしょうか?」
ヴァンエディオがさらに質問を重ねる。
「それは、何だ、あれだろう。なあ、マルネロ」
クアトロはマルネロに視線を向けた。
「へ? あたし? どういったところって言われても、要は違う世界は違う世界なんじゃないの? そうとしか聞いたことはないわよ」
「おかしいとは思いませんか? 違う世界がどのようなものなのかも知らないのに、私たちはそれを自然と受け入れているのですよ?」
ヴァンエディオがいつもの淡々とした口調で言う。
「まあ、そう言われてみれば……な」
クアトロは今ひとつ承知できないといった感じで頷いた。
「ことは天上だけではないですね。魔人や天使にしても、魔族や人族の上位眷属ということだけで、我々は何もよく知らないままでそれを受け入れているのですよ。」
んー……今ひとつヴァンエディオの言うことがわからないとクアトロは思う。
「おい、エネギオス、ヴァンエディオが何を言っているか分かるか?」
「お、俺か? 要は何だかわからないものに、俺たち魔族は囲まれているということだろう?」
何だ……その頭が悪そうな答えはとクアトロは思う。
「マルネロはどうだ?」
クアトロは次いで再びマルネロに視線を向けた。
「え? 私? わ、分からないものを、分からないままにしているのが、分からないってことでしょう?」
何だ……その分からないだらけは。分からないだらけで、全く分からない。
クアトロは心の中で呟きながら、マルネロを呆れたような目で見る。
「そ、そういうクアトロはどうなのよ! ヴァンエディオの言っていたことが分かったの?」
マルネロが呆れたような顔をしていたクアトロに反論する。
「分かるはずがないだろう」
胸を張るクアトロをマルネロとエネギオスが遠い目で見る。
「おい、その目は止めろ。王を見る目じゃないぞ!」
「ま、まあクアトロさん、落ち着いて下さい」
アストリアが苦笑しながら、怒り出したクアトロを止めに入る。そして口を開いた。
「でも、確かに私たちは全てのことを疑問も持たずに、受け入れてしまっている気がします。天使、魔人、天上……もっと言えば、神や魔神の存在もそうなのでしょう」
「駄目だ……よく分からん。ヴァンエディオ、もっと簡単に言え」
とうとう怒り始めたクアトロに、ヴァンエディオは苦笑する。
「私たちは霧の中を歩いているのに、晴れていると思い込んでいる……そのような状況なのかもしれません」
駄目だ。ますます分からない。
というかヴァンエディオの奴、わざと言っているのではないだろうか。
そんなクアトロを見て、ヴァンエディオが再び口を開いた。
「この世の理。我々の周りにあるその全てが、不確かな物ばかりなのに、我々は疑問も持たずに受け入れ過ぎだということです。そもそもの発端であった邪神の復活話も然りですね。この辺りに、アストリア様の真実が関わってくるのではないかと、私は考えています」
「何? アストリアが関わっているのか? アストリア、安心しろ。そんなもんは俺がぶっ壊してやる!」
何だかよく分からなかったが、クアトロは意気込んでそう宣言する。
「いや……多分、そういうことじゃねえと思うぞ」
エネギオスが呆れた様子で、ぽつりとクアトロの横で言ったのだった。
意気込んでそう宣言するクアトロだった。
「……いや、そういうことじゃねえと思うぞ」
エネギオスが呆れた様子でクアトロに言うのだった。




