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魔王の花嫁  作者: yaasan


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冒険者組合にて 1

 都市の中は活気があり人の往来で溢れている。

 意外に繁栄しているのだな。

 それがクアトロの率直な感想だった。


「魔族がこうして普通に歩いていても大丈夫なものなのだな」


 クアトロが横を歩くマルネロにそう言った。

 クアトロもマルネロも魔族特有の濃く赤い瞳をしているのだか、特に誰もそれに注視する様子はなかった。


「人族にも色の濃さに度合いはあるけど、赤い瞳の人もいるじゃない。それに魔族と人族の間に生まれて、魔族の血を引いた濃く赤い瞳を持つ人族もいるでしょうし。あまり気にしないみたいよ。私たちだって魔族の中で人族の血を引いた魔族で、瞳の色が違うのがいても気にしないじゃない」


「それはそうだが……なら何で、魔族と人族は昔から仲が悪いんだ? それも壊滅的に仲が悪いだろう。何でそんなにふわっとした線引きで仲が悪いのだろうな?」


「クアトロはたまに真理を突くのよね」


「それ、褒めているのか?」


「褒めているじゃない。魔族と人族における決定的な違いなんてないのよ。強いて言えば、外見なら瞳が赤いぐらいよね。それ以外なら魔族の方が、魔力の量や身体的な能力において人族より少し優っているぐらいかしら。でも、それも個人差があるわけで、平均的な魔族よりその能力が優っている人族だって多くいるわ」


「身体的な差はほとんどないと」


「そうね。それでも仲が悪いのは互いに眷属が違うからよね。魔神の眷属が魔人でその眷属が私たち魔族でしょ。人間は神がいて、その眷属がそこのろりこん天使。今はろりこん堕天使だけどね。そして、その眷属が人間でしょ。神と魔神は神界では、ばちばちの仲の悪さらしいから」


 そこのろりこん天使と言われたスタシアナは、ふにゃっと微笑む。

 いや、可愛いんですけど。

 思わずクアトロも、ふにゃっと笑う。


「親分同士の仲が悪いから、子分同士がいがみ合っているってことか」


「簡単に言うと、そういうことなんでしょうね。あとは文化的にってのもあるわよね。クアトロも小さい頃、悪いことをすると、人間に連れて行かれるとかって両親に脅されなかった?」


 マルネロの言葉にクアトロは軽く頷く。


「確かにそうだったな。俺の母親は俺が悪さをすると、人族の見せ物小屋に俺を売りに行くとよく言っていた。俺はそれが怖くて、わんわん泣いた記憶がある」


「ふうん。クアトロにも可愛い頃があったのね」


 マルネロが感心したように言う。


「当たり前だ。俺なんて無茶苦茶可愛かったらしいぞ」


「ま、それは置いといて、人族の間でも悪さをする子に魔族が……って言い方をよくするみたいよ。あとは歴史的にも隣同士に住んでいるわけだから、領土の問題とか色々とこれまでにあったのよね。そういうことが積み重なって互いに実害はないけど、何となく嫌いってのが真実じゃないかしら」


「俺は人族に直接何かをされたわけでもないから、別に好きでも嫌いでもないがな。どちらかと言えば嫌いって言う程度の話かな」


「そうね。ほとんどの魔族も、人族に対する感情はそんなものじやないかしら。人族も魔族に対しては概ね同じようなものだと思うけど」


 マルネロもクアトロの言葉に同意をするように頷いている。


「スタシアナは元天使だから、やっぱり人族が好きなのか?」


クアトロにそう訊かれて、スタシアナは小首を傾げる。


「んー、ぼくは天使だった頃から、人族にはあまり興味がなかったですね。ぼくは魔族のクアトロが大好きなんです。だから天使から籍を抜いて、クアトロの所に来たんですよ。クアトロのために堕天使になったんです」


 スタシアナが真っ直ぐに青色の瞳をクアトロへ向けてくる。


「スタシアナ……俺だってスタシアナのことが大好きなんだぞ」


 クアトロはそう言って、スタシアナの金色の頭をわちゃわちゃと撫でる。


「えへへ」


 スタシアナが嬉しそうに、ぴょんぴょん跳ねる。それに合わせて金色の髪が、ふわふわと宙で揺れている。

 

 駄目だ。可愛過ぎて鼻血が出そうだ。可愛い、可愛過ぎだな。

 クアトロは心の中で呟く。


「何?この変態ろりこん臭しかしない会話と絵面は?」


 それらを見て呆れたように呟くマルネロの言葉をクアトロは聞こえない振りをするのだった。





 「冒険者組合と言っても、それほど大きくないのだな」


 組合の看板が掲げられた建物に入ると、中は少し広めの食堂や酒場といった趣きだった。中にいくつかの食卓が並べられているだけだ。

 

 その空いていた食卓の一つに座った三人は頭を寄せ合った。


「ここでどうやって依頼を受けるのでしょうか?」


 スタシアナが素朴な疑問を口にする。


「いや、俺も分からないな。どうなんだ、マルネロ?」


 クアトロはマルネロに視線を向けた。


「私も冒険者たちが、組合の中で依頼を受けていると言うことしか知らないわ。実際に人族の冒険者に聞いたわけでもないし……」


 マルネロはそう言って左右を見渡す。そうすると、一人の女性がクアトロたちのテーブルに近づいて来た。かなり割腹のある中年女性だ。


「いらっしゃい。何か注文するかい?」


 どうやら店の従業員らしい。冒険者組合と言いつつ、テーブル席では食堂なんかと同じで普通に食事を提供するようだ。


「そうね。そうしたら飲み物を三ついただけるかしら」


 マルネロがそう言葉を返す。


「あいよ。あんたたち、見ない顔だね。他の街から来た冒険者かい?」


「そうなの。まだこの街に着いたばかりなのよ」


「そうかい。着いて早々で依頼を探すなんて、働き者なんだねえ」


 中年女性はマルネロの言葉に対して、大袈裟に目を丸くして見せる。客商売の一環なのだろうが、少々芝居がかっているなとクアトロは感じた。ただ嫌な感じを受けないのは、中年女性の愛嬌による所なのだろう。


「今日の宿代も少々不安だから……ね」


「へえ、そうなのかい」


 そう言うと中年女性は興味深げにクアトロたちを見る。スタシアナのような子供を連れた冒険者は珍しいのかもしれない。


「見ての通り子供連れなのでな。あまり危険な依頼は受けられないのだが……」


 クアトロがそう言うと、スタシアナがすぐに反論の声を上げた。


「ぼくは子供じゃないですよー」


 スタシアナは手足をばたばたさせながら抗議している。


「あはは、お嬢ちゃん、自分で子供じゃないなんて言っている間は、まだまだ子供だね」


「それで、ここではどうすれば依頼を受けられるのかしら?」


 マルネロが流れるように会話を挟んでくる。なかなかの会話上手らしい。単なる暴虐魔導士ではないようだ。


「一日に三回、そこの掲示板に依頼が貼り出されるからね。そこから自分たちに合いそうな依頼を見つけて、隣のギルド本部で登録すれば、依頼を受けたことになるわよ」


「あ、ここはギルドではなかったのですか」


 マルネロの言葉に中年女性が、軽く頷いた。


「ここは食堂を兼ねた寄合所みたいなものね。ほら、あそこの掲示板があるでしょう。朝に貼り出されたのだけれど、まだ誰も受けていない依頼も残っているんじゃないかしら。もっとも残っている依頼は報酬が安かったり、危険だったりで割りに合わないものばかりだけどね」


 中年女性はお喋り好きなのか丁寧に教えてくれる。


「ありがとうございます。助かりました」


 クアトロが礼を述べると、中年女性は笑いながら手を振って、奥へと消えていった。


「いよいよ冒険者としての第一歩だな。何か胸が高鳴ってくるぞ」


 クアトロがそう言うと、マルネロが呆れた目でクアトロを見る。


「お気楽気分な王様ね」


「うるさい、そんな俺をお前たちが王にしたのだろう?」


「ふん、それもそうね」


 マルネロは面白くなさそうに言ってそっぽを向いてしまう。


「ぼく、掲示板を見て来ますねー」


 スタシアナがそう言って、とてとてと掲示板の方に向かって行った。白い服の上で金色の長い髪が揺れている。


「うしろ姿も可愛いな。何か不思議と神々しいぞ」


「そりゃそうでしょう。元々天使なんだから」


「眩しいな。後光がさしてるぞ」


 クアトロが赤い瞳を細め、手をかざして見せる。


「はいはい、分かりましたよ。でもそれは気のせいね」


 マルネロはもうお腹一杯といった感じで受け流している。


「それにしてもクアトロは何で冒険者なんかに興味があるの?」


「それは、その、魔族に冒険者なんて職業はないからな」


 魔族には人族のように冒険者組合のようなものはなく、必然的に冒険者といった職業はない。


「確かに魔族に冒険者組合はないけど、冒険者に近い便利屋みたいな職業はあるでしょう?」


 魔族の便利屋とは文字通り条件さえ合えば何でも引き受ける職業のことだ。


「便利屋では駄目なんだ」


 クアトロは深刻な顔で言う。


「何が?」


「呼び名が格好良くないからな。冒険者とは全然違う」


「馬鹿ちん王に訊いた私が馬鹿ちんだったわね」


 マルネロが大きく息を吐き出した。


「どう言う意味だ?」


「強い奴をぶん殴ってたら、王になってたって本気で言う人だもんね。熱血少年漫画の熱血主人公じゃあるまいし」


 そんなことを互いに話していると、スタシアナが、とてとてと戻って来る。

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