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魔王の花嫁  作者: yaasan


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ゾンビカメムシ再び

 翌日、クアトロたちはダナ教の総本山へと向かった。北側にある王城とはほぼ反対方向になる王都の南側にダナ教総本山はあった。敷地内では騎士と思しき者たちの姿も多く見てとれた。


「あれはダナ教騎士団ね。随分といるみたい」


 マルネロが小声で隣のクアトロに言う。


「何だ? 聖職者が騎士団を持っているのか」

「エミリー王国は権力が二重構造になっていて、ダナ教が一定の力を持っているのよ。その象徴が自前の騎士団よね」

「何だかよく分からんな」


 クアトロが小首を傾げているとマルネロは更に言葉を続けた。


「要は王様の他にもそれと並ぶぐらいの力を持っている集団がいるってことね」

「それがダナ教ということか」


 クアトロがそこまで言うと、騎士の一人が鋭い目つきでクアトロたちの前に立ちはだかった。


「貴様ら、何をしている。その仮面の男は何だ?」


 まあ、もっともな質問だとクアトロも思う。こんなとんちきな仮面をつけた者がいれば、警備の者でなくてもその素性を問いただしたくなるだろう。


 当のトルネオは無言で首を左右に振っている。それはもう馬鹿にしているとしか思えないほどに。もう面倒なので頼むからトルネオだけ連行してくれないだろうかと思うクアトロだった。

 

 そのような中でマルネロが立ちはだかる騎士に小声で言う。


「ごめんなさいね。魔獣に酸をかけられて、顔や手が酷いことになってしまっていて……」


 マルネロにそう言われて、騎士はトルネオの仮面や手袋を交互に見る。


「特に顔がひどくてね。一度見ると暫くは食事が喉を通らなくなるぐらいなのよ……」


 騎士が今度は少しだけ顔を引き攣らせて、トルネオのふざけた仮面を見ている。


「しかも、それが原因で少しここがね……」


 マルネロはそう言って、人差し指で自分のこめかみを指す。それに合わせるかのようにトルネオは一層激しく首を左右に振り出す。


「そ、そうか。それは何というか、大変だな」

「そうなのよ。この子たちの母親も面倒が見切れなくなったのか、帰って来なくなってしまってね……」


 マルネロはその赤い瞳に涙を溜めてみせた。スタシアナも同じように涙を浮かべ、アストリアは少しだけうなだれて見せる。見事な連携だった。


「そ、そうか。まあ、何と言うか色々と大変だな。不躾なことを訊いてすまなかった」

「こちらこそ手間をかけさせてしまったようで申し訳ありません」


 マルネロが殊勝に頭を下げてみせる。


「この国の者には見えないな。外から来た冒険者か?」

「ええ。冒険者を募っているとの噂を聞いたので」

「確かに募っているが、連れに子供がいたりでは厳しいだろう」


 騎士の反応を聞いて、クアトロは隣の頭がおかしいこの骸骨がいたら尚更だなと思う。


「それに冒険者には違いないが、募っているのは正確に言うと傭兵だ」

「傭兵? 戦争でも始まるのですか」

「そうだ。魔族討伐の聖戦だ」


 騎士は誇らしげに胸を逸らせた。ダナ教信徒の騎士としては当然の反応なのだろう。


「日頃の信心によるものなのだが、この地へ天使様に降臨して頂いてな。更に天使様より聖戦の命を賜ったのだ。ダナ教徒としては感極まる思いでな。我らはその聖戦の時まで、ここで天使様をお守りする役目をベントス大司教より仰せつかったのだ」


 騎士はそう言い、改めてクアトロとマルネロに視線を向けた。


「見たところ魔族の血を引いているようだな。あらぬ誤解を受けたくなければ、早々にこの国を後にした方がいい。子供や、その、何だ、大変な父親もいるようだしな」


 騎士はそう言うとクアトロ達から離れて行く。


「どうやら天使がここにいることは間違いないな」


 ゆっくりと歩みを進めながらクアトロが言う。


「そうね。ねえ、スタシアナ、元同族がいるとかそういう感知はできないの?」


 マルネロがスタシアナにそう尋ねる。


「ぼく、そんな便利な機能は持ってないんですよー」

「何か使えないわね。それじゃあいつも、ふえ、ふえ言っているだけじゃない」

「いつも、ふえ、ふえ、何てぼくは言っていないですよー。ふえー」


 スタシアナが涙ぐむ。


「マ、マルネロさん、少し言い過ぎですよ」


 いつもの如くスタシアナを虐め始めたマルネロにアストリアが止めに入る。


「ふん!」


 マルネロが鼻息を荒げて、そっぽを向く。


「まあ、会ったところで、聖戦を止めるように説得できるわけでもないからな。一層のこと、殺すってのもありだが……」

「天使を相手にして魔族が簡単に勝てるとは思えないわよ。それより元同族に説得してもらった方がいいんじゃない」


 マルネロが人の悪い顔をスタシアナに向けた。


「ふえ、無理ですよ。知り合いでもないのにぼくの、堕天使のぼくの言うことなんて聞いてくれないんですよー。ふえー」


 スタシアナが手をぱたぱたさせて、再び泣き出す。


「いい加減にしろ、マルネロ。俺はスタシアナにそんなことは期待していない」 

「あっ!」


 クアトロの言葉にアストリアが短い叫び声を上げて反応した。そして慌ててスタシアナに視線を向ける。


「ふえー、クアトロに期待していないって言われたんですよー」


 スタシアナが更に泣き声を上げる。


「もう、クアトロさん! 言葉には気をつけるようにって、前から言っているじゃないですか」


 泣き出したスタシアナを宥めているアストリアにクアトロは怒られる。


「はい、ごめんなさい」


 クアトロは、しゅんとなってアストリアに頭を下げた。すると、謝るならスタシアナに謝るようにと更に怒られる。


「皆さん、お困りのようですね」


 そんな最中、人を馬鹿にした仮面をつけているトルネオが急に振り返ってそう言う。それを見て、俺はお前に困っているのだがとクアトロは思う。そんなクアトロの思いに関係なくトルネオは言葉を続けた。


「そんなあなたには……」


 トルネオはそう言って、ごそごそと何やら取り出そうとする。


「たら○らった○ー、ゾンビカメムシー」


 いや、猫型ろぼっとは本当に某所から怒られるから止めてくれ……。


「このゾンビカメムシを放って、様子を探らせましょう。天使とやらが本物なのかどうか、聖戦を本当に告げたのかどうか。それによって対処も変わってきますからね」

「ふん、初めて全うなことを言ったわね。単なるふざけた頭のおかしいおっさん骸骨だと思っていたけど」


 マルネロの言葉にトルネオは不敵に聞こえるような笑い声を上げた。


「ふふっ。骸骨の前にある形容詞が随分と沢山ありますね。まあ、それは気にしないことにしましょう。マルネロさん、これでもわたしは不死者の王と言われて、恐れられていましたからね」


 そう渋く言うトルネオの足元では野良犬が短い唸り声を上げながら、足の骨を引き千切ろうと頑張っていた。そして、それに気がついたアストリアが短い叫び声を上げるのだった。

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