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魔王の花嫁  作者: yaasan


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冒険者組合へ

 「やっと着いたな」


 クアトロが城門を見上げながら溜め息混じりに言う。暗い灰色の髪が風に揺れている。

 ここは人族の国家、ベラージ帝国の最南端に位置する都市、サイザックの城門前だった。


「でも、何か楽しかったわね。クアトロも人族の国に来るのは初めてだものね」


 風に揺れる、燃えるかのような赤髪を抑えながら、マルネロが屈託のない笑顔で言う。


 何だかんだ言いながらも、この三人での旅が面白かったのだろうとクアトロは思う。

 魔族最高位術者と言われて畏怖されてはいるが、マルネロだって二十歳そこそこの好奇心旺盛な普通の女の子なのだ。


 魔族統一の戦いで苦労した仲間たちと何の気兼ねない、のんびりとした旅が純粋に楽しかったのだろう。

 

 爆乳魔導師という恥ずかしい二つ名を持っているのだが……。

 クアトロはそこにまで考えが至ると、思わず意地の悪い笑みを浮かべてしまう。


「クアトロも楽しそうなの」


 クアトロの横で、とてとてついて来ていた堕天使のスタシアナが、ぴょんぴょんと跳ねながら言う。彼女が持つ漆黒の翼は、服の中で器用に畳まれているようで今は目にすることができない。

 駄目だな。可愛過ぎだ。

 クアトロは心の中で呟く。


「ろりこん魔族……」


 クアトロの思いを感じたのか、それらを横目で見ながらマルネロが呟く。


「マルネロ、いい加減にしろ。皆が誤解する。俺はろりこんなんかじゃない。たまたま可愛いと思ったのがスタシアナだっただけだ。そして、たまたまそのスタシアナの見た目があんな感じだっただけだ」


「うわあ、何それ? その理屈? 普通に引くんですけど」


 マルネロが呆れた声を出す。


「それって俺はこの鶏肉が美味しいだけで、他の鶏肉には興味がないって言ってるのと同じじゃない。意味が分からないし、かなり発言が痛いんですけど」


「鶏肉と一緒にするな。鶏肉には個性がないが、人間には個性があるだろう。俺はろり……その、何だ、決して小さい女の子全般が好きなわけではない……多分」


「多分って……何、最後の言葉? その断言できない感じ。普通に気持ち悪いんだけど」


 マルネロが冷たい目でクアトロを見ている。


「こんなのが王なんだから、魔族の未来もきっと終わりよね」


「俺を王にしたのはお前らだぞ。それに、ヴァンエディオがいれは問題ない。あれが俺を立派な王にしてくれる」


 クアトロは魔族最高の知者と言われるヴァンエディオの名を口にして、胸を張って見せた。


「うわあ……まさかの他人任せだ」


 マルネロは、どん引きの様相だ。


「うるさい。そもそも俺は王も、魔族統一も興味なかったんだぞ。単に強い奴と戦いたかっただけだ」


「そうね……クアトロもエネギオスと同じ脳筋だもんね」


 マルネロが呆れたように言う。


「脳筋言うな。考えることがあまり好きではないだけだ」


 クアトロが反論する。改めてそう言われるとさすがに傷つくというものだ。


「クアトロは脳筋なんかじゃないですよー。凄く優しい人です」 


 軽く落ち込むクアトロを気遣ってのことなのだろう。スタシアナが口を挟んできた。そして、さらに優しく背中を撫でてくれる。


「ありがとうな、スタシアナ。スタシアナは可愛くて優しいんだな。どこかの爆乳魔導師とは大違いだぞ」


 クアトロはそう言って、自分よりも頭三つほど低い位置にあるアナスタシアの頭に片手を置いて優しく撫で返す。


「えへへ」


「何が、えへへよ。ろりこん大魔王に、ろりこんばばあが」


 マルネロが呆れたよう言う。


「こらっ、マルネロさん。ぼくは、ろりこんばばあなんかじゃないです。それにそんな汚い言葉ばかり使わないで下さい」


「そうだぞ、マルネロ。こんなに可愛い子に向かって、毒づくんじゃない。スタシアナに品のない言葉が移るじゃないか」


「はあ? 大体、ぼくって何? ぼくって何なの? これ以上聞くと、私の精神が崩壊するんだから! 新手の精神攻撃魔法なの? もう本当に嫌なのー!」


 マルネロが赤い髪を揺らして、そう絶叫するのだった。





 「それにしても俺たち……ヴァンエディオから追い出された感があるよな」


 何事もなくサイザックに入れたクアトロは、街中で歩みを進めながら思い出したよう呟いた。


「何、その今さら気がついたような感じは? でも実際、王様なんて国が統一されたら、いてもいなくても関係ないわよね」


 さらにマルネロは言葉を続けた。


「しかも、建国したばかりの忙しい中、暇だから何とかしろなんて言い出す馬鹿ちん王ではね」


「馬鹿ちん王は、頼むからやめてくれ……」


 何かマルネロの悪態に一つ一つ反応するのも疲れてきた。


「それにマルネロ、お前だって俺と似たようなものだろう? 護衛と言えば聞こえがいいが、要はいても大して役に立たないから、馬鹿ちん王と一緒に邪魔にならないよう出かけてろってことだろ?」


 そしてスタシアナは……クアトロは視線をスタシアナに向けた。


「えへっ」


 クアトロと視線が合うとスタシアナは、こてっと小首を傾げて微笑んだ。

 

 可愛い……。

 うん。可愛いから何でも許すのだが、国づくりにその可愛さはきっといらないのだろう。

 マルネロと同様にクアトロの護衛をヴァンエディオに命じられたのもよく分かる。

 ちなみに脳筋のエネギオスは新しく設立される王国軍の整備で忙しいらしい。ここにいる役立たず三人組とは違うようだ。脳筋のくせに生意気だぞとクアトロは思ったりもする。

 

 もっとも王国軍の整備が急務であることはクアトロにも分かっていた。魔族の約三百年ぶりの統一なのだ。その大規模な内戦で魔族全体が疲弊している。それに乗じて人族の国家が不穏な動きをしないとも限らない。

 

 ただ人族は人族で互いに覇を長いこと争っており、この時期に魔族に目を向けて……といったことは考え難くもある。

 

 そもそも魔族は個の意識が強く、性格的にも大勢では群れたがらない。魔族の歴史を見てみても、統一国家が現れたのは数える程なのだ。その魔族を統一したのだからクアトロは十分に称賛されてもよいのだが、自身にその意識は余りなかった。


 クアトロ自身はただ単に強者と言われる者と戦ってみたく、また戦っていただけだった。他の細事をヴァンエディオたちに任せていたら人が集まり、祭り上げられ、気づけば魔族を統べる王になっていただけだとの思いがクアトロの中にはあった。


 称賛されるならば、そんな自分を担ぎ上げて魔族統一を試みて、それを成し遂げたヴァンエディオなのだろうとクアトロは思っている。

 

 もちろんヴァンエディオにしてみても、単純にクアトロを魔族の王にしたかったわけでもないはずだった。ヴァンエディオがクアトロを王にしてまで何をやりたいのか。クアトロにもそれは分からない。

 

 それが面白ければ、ヴァンエディオに付き合うし、つまらなければ付き合わない。それが自分にとって邪魔になるのであれば、叩き潰すだけだとクアトロは思っている。


 そして、それによってヴァンエディオに自分が返り討ちに遭うのであれば、それはそれまでのことなのだ。

 

 短い黒髪を逆立てているヴァンエディオの顔をクアトロは思い浮かべた。魔族には比較的珍しい白皙で整った顔立ちなのだが、笑うと意外に口が大きい。

 

 クアトロはあの顔は魔族というより魔人だなと思っている。


 笑うとヴァンエディオは誰よりも悪そうな顔立ちになるのだ。魔族最高の知者と言われているヴァンエディオがクアトロを王にしてまで何をしようとしているのか。それに興味がないわけでもないのだが……。


 考えても分からないことは考えない。それがクアトロの主義だ。これは主義であって、決して頭が悪い訳ではないぞとも思う。


 ヴァンエディオのことを脳裏から追い出すと、クアトロは口を開いた。


「よし。そろそろ行くか。人族の冒険者組合ってところにも行ってみたいんだ」


 クアトロは楽しげにそう言って歩みを進めた。新たなものに触れることで気分が高揚しているのが自分でも分かる。

 

 次いでマルネロが、最後にスタシアナがとてとてと、そんな魔族の王に付き従って歩みを進めて行くのだった。

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