受け継がれるもの
「どうしてそいつらは、こぴーやら精神移管とやらによって生き延びようとしなかったんだ?」
率直な疑問だった。不死を求めて、こぴーとやらを繰り返していたのに、なぜ急に生を終える決断をしたのか。今一つクアトロには分からなかった。
「長きに渡ったコピーによる延命の結果、永遠の命の不合理さ、不条理さに気がついた者もいたのですよ。コピーの繰り返しによる精神の劣化といった問題もありましたしね」
トルネオの言っていることが今一つ理解できない。そんなクアトロを見てトルネオは尚も言葉を続けた。
「生命とは終わりがあるもの。それに逆らって終わりを受け入れなければ、どのように延命しようとも、その精神は劣化するだけなのです。あのクロエさんのように……」
不死の存在であるはずのトルネオが何を言っているのだとクアトロは思う。
「生命は受け継がれるものなのですよ。受け継がれて然るべきもの。受け継がれ、やがて受け継いだ者の力となる。それが道理です。」
「受け継いだ者の力……どういう意味だ?」
「は? もしかして自覚がないのですか」
トルネオが大げさに驚く素振りをみせた。相変わらず何かと苛つく骸骨だ。
「クアトロ様はわたしたちと同じ血を受け継いでいますよ。まあ、遥か昔の話なのでしょうが。クアトロ様の曾祖父の曾祖父の曾祖父あたりでしょうかね」
「……そうなのか?」
「え? 自覚がなかったのですか?」
ここで再びトルネオが派手に驚いてみせた。一度、この長剣で首を落としてやろうかとクアトロは思う。不死者なのだからその位で死にはしないだろう。
「クアトロ様だけではないですよ。マルネロさんやエネギオスさん、ヴァンエディオさんも同じだと思います。後、バスガル侯も間違いないですね。でなければ、魔族なのに天使や魔人よりも強いなんておかしいじゃないですか」
「いや、それは日頃の鍛錬が……」
「エネギオスさんはともかく、クアトロ様が日頃の鍛錬ですか?」
トルネオが疑わしそうな口調で言う。
いや最近はそうだが、これでも昔は……。
クアトロはそう心の中で呟きながら、不意に浮かんだ疑問を口にした。
「アストリアもそうなのか?」
「おそらくはそうでしょうね。古代種のドラゴンを使役する力などは我々と同じ血によるところが大きいのかと。それにアストリア様はクロエさんの拘束から自力で脱しましたからね。それから考えてみても間違いないかと。受け継いだ血が濃い、薄いはあるでしょうが、魔族や人族を越えた力は、我々の血を受け継いでいると考えてよいかと思いますよ」
……創造主たちの血。
……エネギオスはごりらの血。ヴァンエディオは悪魔の血が流れているのかもと自分は半ば本気で思っていたのに。
……まあ、当たらずとも遠からずといったところだろう。クアトロはそう自分で納得させると再び疑問をトルネオに向かって口にした。
「クロエと同じような者が後、五人ぐらいは残っていると言っていたな。ではそいつらも随時、目覚め出すということか?」
「いつなのかはともかく、いずれはそうなるでしょうね。その全員がクロエさんのように悪意剥き出しではないとは思いますが。ですが、永遠の生を望んで精神移管の受け皿を欲しているのは間違いないですよね」
やれやれ。本当に厄介な存在だなとクアトロは思う。まあ一斉に目覚めるわけではないだろうから、それはその時に考えればよい類いの話なのかもしれない。
クアトロがそう自分の中で結論づけた時だった。
「あれえ? クアトロとトルネオじゃないですか。楽しいことをしているんですか? ぼくも入れるんですよー」
クアトロたちに気がついたスタシアナが天真爛漫な笑顔でぱたぱたと飛翔してきた。




