平穏
平穏が訪れていた。それに比例して、クアトロ自身は玉座の上でいつもの如く暇を持て余してた。ただ、周囲といえばクロエの一件からまだ数日しか経ってなくてクアトロ以外の皆は当然の如く忙しそうだった。
そのような中でエネギオスとヴァンエディオが玉座の前に姿を見せた。
「クアトロ、バスガル侯のことだ」
エネギオスがまず口を開いた。
バスガル侯……そういえば天上に攻め込むと言っていたなとクアトロは思う。すっかり忘れていたが、あの後はどうなったのだろうか。
「あの爺さん、天上を征服しちまったぞ」
「……征服? 天使と魔人を従えたということか?」
クアトロの言葉にエネギオスが無言で頷いた。何てことをしてくれたんだと言うつもりはないが、何かと元気な爺さんだとは思う。
「このままバスガル侯に天上を支配させておくのは如何なものかと。天使と魔人を従えた戦力となれば、今後、クアトロ様の脅威となりかねませんからね」
ヴァンエディオの言うことも分からなくはない。だが、今更バスガル侯が自分に変わって魔族の王といった地位を欲しがるとは思えなかった。根っ子の部分では単純にあの爺さんは暴れたいだけなのだ。強い者と戦いたいだけなのだ。
そういう意味で自分とバスガル侯は似ているのだとクアトロは思う。
「あの爺さんは天上の支配なんて興味はないと思うぞ。マルネロにでも適当に褒めさせておけば、それだけで満足して自分の領地に帰っていくと思うがな」
「ふむ……その後、天上はどうされますか?」
「スタシアナを頭にしてエリンとマルネロを補佐にする。それで天上を治めさせればいい。スタシアナもエリンも天使だ。そうそう反発は起きないだろう」
「……クアトロ、珍しくまともなことを言うな」
エネギオスが感心したように頷く。続いてエネギオスはヴァンエディオに視線を向けた。
「バスガル侯への交渉はヴァンエディオに任せるぞ。俺はあの爺さんが苦手だ。代わりに軍の再編は俺に任せておけ」
エネギオスの勝手な言い分であるように思えなくもなかったが、ヴァンエディオは黙ってエネギオスに頷いていた。
クアトロも自分が何もしない以上、それに口を出すつもりはなかった。後はいつものように皆が上手くやってくれるだろうと思う。
まあ結局、やることがなくて暇だな。
改めてそう思うクアトロだった。
クアトロが玉座を出て王宮の中庭に続く廊下を歩いていると、トルネオに出くわした。自称、不死者の王。このおっさん骸骨とも奇妙な縁だとクアトロは改めて思う。
そもそもはアストリア殺害の汚名を着せるだけのはずだったのに、気がつけば王宮に住み着いてしまった面白おっさん骸骨だ。
「あれえ、クアトロ様、随分とお暇そうで」
意味は分からないが、トルネオは大げさにのけ反ってみせた。クロエの一件があった直後は落ち込んでいる風だったが、どうやら気のせいだったらしい。クアトロはトルネオのこの様子を見てそう思うことに決めた。
あの時のトルネオらの話をまとめると、自分たち魔族はトルネオたちに創造されたということなのだ。
……こんな面白おっさん骸骨に自分たちが創造されたと思うと、魔族としての矜持が傷つく気がしてくる。
「トルネオ、お前たちの仲間はあと何人いるんだ?」
あの時から気になっていたことをクアトロは口にした。今は眠っているだけかもしれないが、生存している創造主とやらがクロエだけであるはずがないことは容易に想像がついた。
「さあ……眠っている者は後、五名ほどでしょうか。旧世界の生き残りである我々の半分近くは、遥か昔に自分たちが創造した魔族や人族の世界で生を終えていますからね」
「そうなのか?」
「因みに不死者となったのはわたしだけですよ」
トルネオがなぜか誇らしげに胸を張っている。不死者などに好んでなるものはヴァンエディオとトルネオぐらいなものだとクアトロは思っていた。




