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魔王の花嫁  作者: yaasan


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再会

「ヴェリアス様、一体どうすれば……」


 近くの騎士が泣き出しそうな顔で指示を求めている。

 分からないことが多すぎる。

 ヴェリアスは知るかと怒鳴りたいところだったが、騎士団長の身としてはそうもいかない。


「魔法大隊はどうした?」


「ほぼ全滅の様相です」


「騎士団は?」


「まだ半数は残っているかと」


 ヴェリアスはそうかとばかりに大きく頷いた。


「残った騎士団と兵を急ぎまとめろ! そうして順次、奴らに突撃させるのだ。なに、奴らとて魔力は有限。魔力が尽きたところで、奴らを叩っ斬れ!」


 指示を受けた騎士の目がこれ以上ないくらいに開かれる。

 そんな玉砕めいた絶望的な戦法は御免だとその目が語っている。


「馬鹿か! すでに城内に進入された以上、あの無茶苦茶な化け物相手に他に策などない。近くで戦うのが怖ければ、遠くから矢でも射っていろ。これ以上、奴等を進ませないようにしながら、魔力を使わせ切るのだ。さっさと行け! 俺は中央の魔王を止める」


 そう言われて、近くの騎士は蹴飛ばされたように走り出す。

 ヴェリアスは長剣を抜き払うと一歩、二歩と歩みを進める。やがてクアトロは近づいて来るヴェリアスに気づいたようだった。魔族特有の赤い瞳をヴェリアスに向ける。


「我が名は、ベラージ帝国騎士団長、ヴェリアス。魔族の王、魔王クアトロ殿とお見受けするが、何ゆえにこのような暴挙をなさるおつもりか!」


 クアトロはその問いかけには何も答えず、一気にヴェリアスとの間をつめて来た。ヴェリアスの長剣とクアトロの長剣が宙で重なり合い、金属音が響き渡る。


「舐めるな、魔王!」


 ヴェリアスはひと声吠えると、長剣の連撃を繰り出す。クアトロはその連撃を捌くものの一歩、二歩と後退いていく。単純に剣技では、ヴェリアスに分があるようだった。

 

 ヴェリアスが繰り出す連撃を捌きながら、クアトロは一瞬の隙を突いて手のひらをヴェリアスに向けた。


「爆炎!」


 ヴェリアスに向けられたクアトロの手のひらから、炎の渦が吐き出され、瞬く間に炎の渦がヴェリアスを包む。

 

 だか……。

 炎の中でヴェリアスは、高笑いをしてみせた。事実、ヴェリアスは熱さも痛みも感じない。


「馬鹿め。この神々が鍛えたと言うこの鎧、魔族の魔法など全てを弾き返してくれるわ!」


 魔族の王、クアトロが魔法剣士であることはヴェリアスも聞き及んでいた。この鎧を着込んでいれば、どのような魔法であろうと必ず弾き返す。そして剣技は先程の一戦で、自分の方が上であるのは明らかだった。

 

 この勝負、貰ったとヴェリアスは思う。

 

 因みにこの時ヴェリアスは気がついていなかったが、上空から堕天使スタシアナが、むーと言った顔でヴェリアスを見ていた。

 

 ヴェリアスの言葉を聞いてクアトロは薄く笑った。


「面白い、神が鍛えた鎧だと? ならば……こいつはどうだ?」


「馬鹿が! 魔法は無駄だ」


 ヴェリアスが鼻で笑い飛ばす。


「神炎!」


 ヴェリアスが浮かべていた余裕の笑みは、クアトロから放たれた炎に包まれた瞬間、絶叫に変わった。


「ふん。神々の国にしか存在しない炎だ。その鎧もこの炎で鍛えたのだろうよ。鎧ごと消滅しろ」


「クアトロ、ぼく、少しだけ心配しちゃいましたよー」


 上空からスタシアナが、のんびりとした感じでクアトロに言葉をかけてきた。


 ヴェリアスは消えゆく意識の中、そんな彼らの言葉を聞いた気がした。





 大きな爆音を皮切りとして、断続的に爆音が続いていた。城の城門がある方向からは幾重にも黒煙が立ち昇っている。


 加えて城内外を問わずに、人々の悲鳴や怒声が聞こえ続けている。

 自室で一体、何事だろうかとアストリアは思う。最初の爆音が起こった時、ダースはアストリアの自室に駆けつけて来てくれていた。


 だが、ダースはアストリアの安否を確認すると状況を調べて来ると言って、すぐさま部屋を飛び出し、まだ戻って来ていなかった。

 

 城門がある方向からの黒煙という状況から、他国の襲撃ではないかとアストリアは思っていた。でも、一体どこの国が……。


「アストリア様!」


 部屋の扉が叩かれ、ダースが転がるように部屋の中へと入って来た。


「魔族です。魔族の襲撃です!」


 ダースは息を切らせながら言う。


「魔族が?」


 思いもよらない言葉だった。魔族がなぜ何の前触れもなく、この国を襲撃してくるのだろうか。


「それで、ダース卿、状況は?」


「城門はすでに破られ、騎士団長ヴェリアス様は戦死。騎士団、魔法大隊はともに壊滅状態。城内は大混乱となっております」


 ダースが一気にそう言い放つ。


「それで敵の数は?」


「それが……ほんの数名であると」


 数名? 情報が錯綜しているのだろうか。

 さすがに数名でベラージ帝国の帝都を襲撃するとは思えない。ただ、いずれにしても小規模の軍勢であることは間違いなさそうであった。


「お父様、国王陛下はご無事で?」


「はっ。陛下は皇后陛下、皇太子殿下とともに城を既に無事脱出されたとのことです」


 ダースは一瞬だけ言い淀んだあと、そう言った。


「そうですか、それはよかった……」


 自身は捨て置いて行かれた状況ではあったが、アストリアは安堵する。


「アストリア様も急ぎお逃げになりませんと……」


 ダースのその言葉にアストリアは俯いた。その姿に不穏なものを感じてか、ダースはアストリアの名を再度呼んだ。


「アストリア様?」


「ダース、もういいのです。危険を賭して逃げ延びたところで、私にさしたる運命が待っているわけではありません」


「アストリア様、何を……」


 ダースが何を言い出すのだといった感じで、首を左右に振った。


「ダースも早く逃げなさい。足手まといの私がいなければ、生き残る可能性も高いはず」


「アストリア様、一体、何を仰って……私はアストリア様に騎士としての身分をいただいた時から、この剣をアストリア様に捧げております。アストリア様を置いて落ち延びるなどできる筈もありません!」


 ダースが放つ言葉の最後は絶叫に近かった。ダースがそう言わざるを得ない程、自分の顔には動かすことのできない決意が浮かんでいるのかもしれない。


「ダース卿、これは命令です。それに、ここに残ったところで、私が死ぬと決まっているわけでもないのですよ」


「ならば、私も残ります。ここに残り、アストリア様をお守り致します」


 ダースが必死で食い下がってくる。


「ダース卿……」


「アストリアさまには、名ばかりの貧乏貴族であった私の家族を救っていただきました。さらに私を騎士にまで取り立てていただいた御恩、私ごときの命だけでは賄えませんが、それでもこの命はすでに差し上げておりますゆえ……」


 ダースは片膝を床に着け、頭を下げて必死な様子でそう言う。アストリアは両膝を床に着けると、そんなダースの両手を取ってそっと自分の両手で包み込んだ。


「ダース卿、だからこそ生きてダース卿の母上様や妹君、弟君と再会してほしいのです」


 ダースは無言で黒い頭を左右に振る。


「ダース卿、ごめんなさい。物分かりが良い振りをしていましたが、本当は婚姻など嫌なのです。ジスガリタの国王と婚姻を結ぶのであれば、一層このまま……」


「ならば私とお逃げ下さい。逃げて私の家がある田舎で、ひっそりとらお暮らしになられれば……」


 今度はアストリアが明るい栗色の髪を左右に振る番だった。例え生き延びてそんな生活を手に入れられたとしても、いつかはアストリアがこの国の皇女であると、周囲の者に知られてしまう時が来てしまうかもしれない。その時にダースたちが被る悲劇を思うと、そんな決断などできる筈もなかった。


 そうだった。同じようなことをあの時も言われたと、アストリアが思った時だった。


 アストリアの自室の扉が勢いよく開けられ、何者かが部屋に乱入してきた。


 瞬時にダースが抜刀して立ち上がる。

 

 部屋に侵入してきた者を見て、アストリアは深緑色の瞳を見開いた。そして斬りかかろうとするダースを辛うじて押し止めた。

 

 乱入して来た者は濃くて赤い瞳をアストリアに向けた。


「さらいに来たぞ、アストリア!」


「クアトロさん……」


「さあ、来い。アストリア! アストリアは、この魔王クアトロの花嫁となるのだ。一緒に来い!」


 クアトロはそう言って、あの時と同じく片手をアストリアに差し出した。あまりに突然の出来事にアストリアは自分に向けて放たれた言葉の処理が追いついていかない。


 魔族の王……。

 魔王……。

 花嫁……。

 一緒に……。

 

 一瞬の時が流れ、アストリアはゆっくりと片手を伸ばした。手を伸ばそうとした瞬間、少しだけ手が震えてしまったかもしれないとアストリアは思う。


「はい……私、アストリアは魔族の王……魔王クアトロさんの花嫁になります」


 アストリアは微笑んだ。そして、少しだけ頬を赤らめた様子で、差し出されたクアトロの手を握る。


 手を握られたクアトロの頬も、少し赤らんだ気がしたのは気のせいだったのだろうか……。

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