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魔王の花嫁  作者: yaasan


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魔族の王

 玉座の前で四人の者が膝を着いていた。


 左から魔族最強の強者と言われるエニギオス。次いで魔族最高の知者と目されているヴァンエディオ。次いで魔族最高位術者と恐れられるマルネロ、最後に堕天使として知られているスタシアナ。


 誰もが一同に玉座に向けて頭を垂れている。しかし、彼らの忠誠を一身に受けている玉座の者は気怠気に見えた。


「我ら四将を召集とは尋常ならざる事態ですかな?」


 四将筆頭のエネギオスが口を開く。

 筋骨隆々としたその体軀は細身の多い魔族の中で、かなり異質の部類に入る。

 玉座の者が軽く口元を歪め、魔族の特徴でもある濃く赤い瞳をエネギオスに向けた。


「何が……ですかなだ。学もない野蛮な魔族の代表みたいな顔をしておきながら」


 その言葉を受けエネギオスが豪快に笑い出した。


「随分な言いようだな。もっともで反論できないのだが。で、クアトロ、一体どうした? 俺たちだって、そんなに暇なわけではない」


 先ほどまでとは全く違うエネギオスの砕けた物言いに、隣のヴァンエディオが軽く顔を顰めている。


 そんなエネギオスの物言いや、ヴァンエディオの表情を気にすることなくクアトロが口を開く。


「つまらない……」


 クアトロの前で膝を着いている四将たちが一斉に息を飲んだ。周囲の空気が一瞬にして緊張する。


「馬鹿……なの?」


 その緊張を破って、魔族最高位の魔導師と呼ばれているマルネロが呟いた。真正面から馬鹿呼ばわりされれば、さすがにクアトロも頭に血が上る。


「馬鹿とは何だ。馬鹿とは。王に向かって」

 

 何だかその反論がすでに馬鹿っぽいとクアトロは自分でも思う。


「急に集まれと言われたから、急いで集まってみれば、そんな話で……」


 マルネロが怒り気味に吐き捨てる。いや、もう怒っているかもとクアトロは思う。

 マルネロが怒った時の面倒臭さをクアトロは十分に知っていた。その面倒臭さは森が一つ、完全に消失してしまうほどだ。

 

 以前クアトロとマルネロが、とある森を歩いていた時である。その森に生息していた大して害もないことで有名な半透明の軟体魔獣に、マルネロが新品の服を汚されたことがあった。


 結果、その本当にどうでもよい理由で、森一つが丸焼けとなってしまったのだった。単なるマルネロの逆ぎれでしかないとクアトロは今でも思っている。

 

 あの時は、森に住んでいて焼け出された大小様々な魔獣や動物たちの皆が涙目になっていた。そして、そんな彼女の蛮行に抗議した勇気ある者がいた。


 その森の主だった赤竜である。だが、勇気ある赤竜の片翼は今でも大きな穴が空いていて、大空を飛ぶのに大層難儀しているとの話だ。何とも可愛そうな話である。

 

 もちろん穴を空けたのは、そこの魔導師である。


「マルネロは別に呼ばれたところで困るとは……いつも大したことをしてないような……」


 マルネロの語気に押されながらも、クアトロが小さくぽつりと呟く。


「はあ?」


 マルネロが片眉を跳ね上げ、語気を強めながら半身を乗り出す。

 

 いや何か怖いんですけど、マルネロさん。 

 クアトロが少し引き気味になったところで、それまで黙っていたヴァンエディオが口を開いた。


「皆さん、いい加減にしましょうか。さすがに王に対する言葉ではないかと思いますよ。マルネロさん、他の者の目もありますしね」


「え? あ、いえ……」


 ヴァンエディオに名指しをされてマルネロが口籠った。さらにヴァンエディオが言葉を続ける。


「クアトロ様も戯言は程々にしていただきたいですな。クアトロ様が魔族を統一してまだ一か月程。王都の復興から何から、やらなければいけないことが山積みなのです」


 クアトロはヴァンエディオの物言いが非常に苦手である。ヴァンエディオが二十歳そこそこのクアトロより十歳以上も歳が上ということもあるが、それ以上に余り抑揚や感情が感じられない口調が苦手なのだ。

 

 特に今のように責められていたりすると、鋭利な刃物を喉元に突きつけられているような気がしてくるのだ。


「ほれ、ヴァンエディオに怒られた」


 エネギオスがマルネロに軽口を叩く。


「は? うっさい、筋肉ごりら」


「誰がごりらだ、てめえ!」


 マルネロの言葉にエネギオスが血相を変えた。エネギオスもこれはこれで頭に血が昇りやすい。

 自分の周りはこんな者ばかりだとクアトロは思う。


「馬鹿でっかい図体で、いつも邪魔なのよ。近くに来ないでくれる? うっとうしい!」 


 よくある見慣れた光景だった。最後は子供の喧嘩のようになってくる。

 それらを見てヴァンエディオがわざとらしく大きな溜め息をついた。


「皆さん、本当にいい加減にして下さい。スタシアナさんが怯えていますよ」


 クアトロがスタシアナに目を向けると、大きな青い瞳に涙を浮かべて言い合う皆を見つめている。背中にある漆黒の翼が小刻みに震えていた。

 

 クアトロの視線に気がつき、スタシアナがクアトロの正面に顔を向けた。透き通るかのような白い肌、金色の髪と青い瞳、背後で揺れるどこまでも黒い漆黒の翼。見た目は十歳程の少女だ。


 その少女が青い瞳に涙を浮かべて口を開く。


「喧嘩はいけないのです」


「うん、可愛い」 


 それを見てクアトロが思わず呟いた。


「はあ? 何言ってんの? このろりこんは?」


 マルネロがそう吐き捨てて非難の声を上げる。 


「ろ、ろりこんとは何だ!」


 クアトロが玉座から半身を乗り出す。


「ろりこんは、ろりこんでしょう? 衛兵さーん、ここに変態ろりこん王がいまーす。危険でーす。早く捕まえて下さーい」 


 マルネロがわざとらしく口に手を添えて声を張り上げ始めた。


「だ、誰が変態ろりこん王だ!」


 マルネロのさらなる侮辱の言葉にクアトロの顔が一気に気色ばむ。しかし、マルネロはそれに怯むことなく言葉を続けた。


「衛兵さーん。大変でーす。変態でーす。変態ろりこん大魔王でーす。魔族の少女が危険でーす。みんな逃げて下さーい。しかも変態の癖に怒ってまーす」


「マルネロ、いい加減に……」


 クアトロの言葉を遮ってマルネロが言葉をまくし立てた。


「大体スタシアナは堕天使なんだからね。見た目はあんなだけど、実際は私たちより凄い年上なの! 本当の歳を知ったら腰を抜かすわよ!」


「ふえ……」


 スタシアナがマルネロの剣幕に怯えたような声を出す。

 駄目だ。ますます可愛い。めちゃくちゃ可愛い。


「やめろ、マルネロ。スタシアナが怯える。虐めるんじゃない!」


 それを聞いてマルネロのこめかみに青筋が浮かんだ。


「はあ? 何が、ふえ……よ! 危険極まりない堕天使ろりこんばばあの癖に!」


「マルネロ、いい加減にしろよ。クアトロが言うように、子供を虐めるのはさすがによくないぞ」 


 そう会話に割って入ってきたエネギオスの言葉にマルネロの怒りがさらに増幅する。


「はあ? エネギオスまで何を言ってんの! 筋肉ごりらは、脳まで筋肉なの? 黙ってて!」


「だから筋肉ごりらはやめろ!」


 エネギオスが背中にある大剣に手をかけた。


「何、やる気なの?」


 マルネロも杖を手にして呪文詠唱の構えを見せる。


「お前らうるさい! 喧嘩は他でやれ! とにかく俺はつまらないんだ。何とかしろ!」 


 クアトロは玉座でそう吐き捨てると立ち上がって、謁見の前から退出しようと歩き出す。


「ちょっと待ちなさいよ! ろりこん大魔王」


「うるさい、爆乳魔導師」


「な、何よ、それ?」


 クアトロが放ったその言葉に、マルネロは少しだけ怯んだようだった。


「何だ、知らないのか? 最近、巷で言われているお前の二つ名だぞ」


 足を止めて、だぼっとした黒い服の上からでも重量感が感じられるマルネロの胸にクアトロは視線を向けた。


「ち、ちょっと……さすがに嫌なんだけど、その二つ名」


 マルネロの声が一転して小さくなる。


「ん? こんなのもあるぞ。逆ぎれの爆乳、もしくは、おっぱいお化け」


「ちょっと、魔導師がどこかに行っているじゃない! なんで爆乳の方が残るのよ! それに最後のなんて完全に悪口じゃないの!」


「知るか、そんなこと。俺がつけたわけじゃない」


 クアトロが再び歩みを進める。


「ちょっと待ちなさいよ、変態ろりこん大魔王! ほら、筋肉ごりらも何か言いなさいよ!」


「だから、俺はごりらじゃねえ。さっき、黙ってろって言ってたじゃねえか!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら謁見の間を出て行く三人の背後をスタシアナが、とてとて黒い翼を揺らしながらついて行く。


 そんないつも通りの混沌とした状況に、ヴァンエディオはさらに頭を抱えてみせるのであった。

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