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百合作品集  作者: 北
1/1

私だけのアキちゃん

独占欲のあるクラスメイト。ただそれだけの認識だった。

あの日、旧校舎に呼び出されるまでは。

「私ね。アキちゃんのことが大好き。だからね、アキちゃんを私だけのものにすることにしたの。いつまでもずっと一緒だよ」

 放課後に呼び出された旧校舎の空き教室。

 いつものふわふわとした表情を崩さぬまま楽しげにそう言う柚希の手には、スタンガンが握られていた。

「柚……希……? 何言ってるの……?」

「だからぁ、アキちゃんを私だけのものにするの! 私いっつも『私以外の子と話さないで』って、言ってるでしょ? それなのにアキちゃんは、色んな子とおしゃべりしたり遊んだり……。今朝だって、宮部さんに宿題教えてあげてたでしょ? 私そういうの、ヤなんだ」

 高校に進学してからできた友達、柚希は、独占欲の強い子だった。

 私が他のクラスメイトと話しているだけで不機嫌になるし、誰かと二人でいると必ず会話に割って入ってくる。

 でも、元々人懐っこい性格で友達も多い柚希のこと。半分冗談で言っているものとばかり思っていた。

「ほ……他の子と話していたって、一番の友達は柚希だよ……」

 この場を何とかして乗り切れ。そして一秒でも早く柚希から離れろ。

 スタンガンから発せられるスパークを見た私の本能が、危険だと警鐘を鳴らす。

「ウソつき。先週の水曜日のこと、覚えてる?」

 先週の水曜日? 

 …………!

「あ……!」

 その日は、高山さんに小説を貸した日だ。

 その前の日、偶然彼女も私と同じ推理小説シリーズを読んでいることが分かったので、その中の気に入っている一冊を貸すと約束していたのだ。

 放課後、小説を渡したらすぐに帰る予定だった。そうでなければ、柚希がまた焼きもちを焼いてしまう。

 でも、同じ小説を読む仲間と感想を言い合ったり、自分なりの推理を披露しあったりするのが楽しくて楽しくて、つい、柚希には嘘をついて先に帰ってもらい、私と彼女は最終下校時刻までおしゃべりをしていた。

「私ね、すぐに分かるんだぁ。アキちゃん、何か隠していたり、ウソついてたりすると前髪触るクセがあるんだもん」

「いやっ……ちっ違うの! あれはっ!」

「とっても悲しかった。私の大好きなアキちゃんを他の子に盗られちゃって。それに、とっても怖くなった……! アキちゃんの一番が私じゃなくなったらどうしようって!」

「ゆ……ゆず……」

「だからッ‼」

 初めて、声を荒らげる柚希を見た。もう、いつもの朗らかな表情は微塵もない。

「思いついたんだ。……アキちゃんを誰も知らないところに閉じ込めちゃおうって。そうすれば、アキちゃんは私のことだけを見てくれるって……フフ……フフフフフフフッ!」

 正気じゃない。完全におかしくなってる。

「ちょっと……待って……待ってよ」

「大丈夫。当たってもちょっと動けなくなるだけだから。すぐに元どおりになるよ」

 そう言うと柚希は私に向かってゆらゆらと歩き始めた。

「柚希……! 待って! 話を聞いて!」

「アキちゃんを捕まえたらゆっくり聞いてあげるよ」

 柚希はスタンガンのスパークを止めることなく私に近付いてくる。

「やだ……来ないで‼」

 私は寸での所で何とか柚希の手から逃れると、教室を出て行った。

 逃げなきゃ。あの子から逃げなきゃ。

 死に物狂いで廊下を走る。

 新校舎に続く渡り廊下への扉を目指す。

 え? なんで……?

 来るときには開け放たれていたはずの旧校舎の扉は、内側から南京錠で施錠されていた。

「待ってよぉアキちゃ~ん」

 柚希は、いつも私に近付いてくるときと同じ朗らかな声で、悩みごとのなさそうな穏やかな表情でゆっくりトテトテと歩いて追い掛けてくる。

 いつもと違うことと言えば、目だけは笑っていないことと、普段なら私に抱き着いて動けなくさせるところを、電気ショックを使って動けなくさせようとしていることだろうか。

 私は階段で二階まで上がり、二階の扉へ走った。

「無駄なのに」

 という柚希の声が後ろで小さく聞こえた。

 二階の扉の先にある渡り廊下を渡れば、職員室がある。鍵が掛かっていたとしても、思いっきり扉を叩き続ければ、誰かしら先生が気付いてくれるかもしれない。

 やはり、ここにも南京錠が付けられていた。柚希が付けたものだろうか?

 でもここなら……!

 私は、右手を挙げ、扉を叩こうとした。

 次の瞬間。バチッ! という聞き慣れない音が背後で聞こえる。

 え……あれ? なんで私、跪いて……。力が入らない。

 そのまま、お尻を床にペタンと下して座り込んでしまう。

 自分の状況を理解した瞬間、猛烈な痛みに襲われる。

 私の背中の右側に、柚希がスタンガンを当てたのだ。

「あぁ……! はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 声が出ない。

 柚希が、後ろから私を抱きしめる。

「えへへ……捕まえた!」

 体の痺れは収まらないが、弱い出力で私に当てたのか、程なくすると、ぎこちなくも体を動かせるようになってくる。

「や……やだ……。嫌……。許して」

 力を振り絞って声を出し、柚希から離れようと必死に、でも弱弱しく手足をバタつかせる。

 急に、柚希が私から離れる。

 これで、逃げられる……?

 とにかく、動かなきゃ……。

 逃げなきゃ。怖い。帰りたい。動けない。立てない。それでも前に進まなきゃ……。思考がまとまらない。

 私は、四つん這いになって、右足を引き摺りながら階段に向かう。

「助けて……誰か……ママ……」

 バヂバヂッ‼

「ァ…………‼」

 私の首筋に当てられたスタンガンは、さっきよりも強い出力で私の全身の筋肉を硬直させた。

 なす術なく、階段から転げ落ちる。

「柚希……やめて……許して……何でもするから……」

 踊り場で力なく横たわる私を見ながら、柚希はニコニコ笑って階段を下りてくる。

「なんか、怯えてるアキちゃん可愛い。……怖い思いさせてごめんね。でも、すぐに私のことしか見えないようにしてあげるから……」

 柚希は、カーディガンのポケットから小さなボトルを取り出すと、お気に入りだという猫の刺繍が施されたハンカチに中の液体をスプレーし、私の口元に当てた。

 多分、これを吸ってしまったら最後、私は外の世界には出られなくなる。

 でも、抵抗する気力も体を動かす力も残っていない私は、されるがままに呼吸することしかできなかった。

「あぁ……や……だ……ゆず…………き……」

 意識が瞬く間に遠ざかっていく。

 眠たい。もう、楽になりたい。

「おやすみ~、アキちゃん。あなたはもう、私だけのものだよ」

 毎日のように見てきた、柚希の優し気な笑顔が視界に映る。

 これが、外の世界で残った私の最後の記憶だった。

 「弱っている相手にとどめを刺す」描写、「必死に相手から逃げようとする」描写、「人畜無害そうな穏やかな人が闇落ちする」展開……。

 作者の好きな要素を詰め込んだだけの作品なので、ツッコミどころ満載かと思います。特にスタンガンに関する描写はその道に詳しい人に読まれたら鼻で笑われそうで不安……。

 とにもかくにも、最後までお読みいただきありがとうございました!

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