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少し縛りすぎたのかもしれない、と早苗は思った。黒くきつく結ばれた髪を一度解いてみる。大学までよく伸ばされていた髪は、真ん中あたりで縛られた跡が残っている。


「会社に行きたくなさそうな顔だわ」


そう呟いて早苗は目を閉じて縛りなおした。この作業にも随分慣れてしまった。前髪はしっかり分けてピンで止める。黒くてまっすぐな髪は一つにまとめること。会社の規則なのだ。


靴は黒い革靴またはそれに準ずるもの。これが早苗はどうにも苦手だった。この靴には昨日の上司が放った、理不尽な小言が染みついているようにも思えた。




ふと思い立って、早苗は靴箱からボルドーのヒールを取り出した。肌色ののストッキングにはちょっとハイセンスではあったが、悪くないな、と思う。


早苗は黒いバッグを抱えて、黒いヒールも持って、ボルドーの靴を履いて玄関を出た。早苗の家の近くには川が流れていて、土手がある。芝生がよく育っているそこに、黒いヒールを置いていく。


「じゃぁね」


アスファルトにボルドーがよく響く。終わらせて始めた彼女の小さな小さなファンファーレである。




髪は解いて三つ編みにした。会社の最寄りに着く頃にはきっといいウェーブになってくれる。


早苗は、向かい側のショーウィンドウに映る自分の姿に気づいた。


「うん、悪くない。全然ずっと大丈夫」


軽く笑って、会社の人が驚く姿を思い浮かべる。心臓は静かに響きを強くした。


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