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第八章:いじめ・虐待対策(3)

8月21日午前10時。

沖縄のFMラジオ局で2回目の特別授業が始まった。


「みなさん、元気にしていますか?かなめ先生の特別授業、今はまだ夏休み中ですが、大切なお話をしたくて今日はみんなに集まってもらいました。


実は前回の授業を聞いてくれた一人の子がが苦しんでいるのです。

みなさんは、浦島太郎の話を知っていると思います。浜辺でいじめられていたウミガメを浦島太郎が助けてあげたことでお礼に龍宮城へ連れて行ってあげる、という話です。その子は、ウミガメと同じく学校でいじめられているのです。でも、先生はその子の名前も学校もわかりません。その子は今とても苦しんでいるのです。だから先生はどうしても助けてあげたいのです。この子だけでなく日本中でいじめられていたり、家でお父さんやお母さんから暴力を受けている子たちがたくさんいます。先生はこれからこのような人たちを助けるための準備をします。でも、それには少し時間が必要なのです。だからそれまで、みなさんにお願いがあります。沖縄の人たちがウミガメを大切にしているように、みなさんも周りでいじめられている子や暴力を受けている子がいたら助けてあげてほしいのです。声をかけてあげてほしいのです。その事を先生やお父さん、お母さんに教えてほしいのです。そしてもし、今自分が誰かを傷つけていると思った人はすぐにやめてほしいのです。

先生も年内までに全国のウミガメさんを助けるために頑張ります。だから、どうかそれまで先生を信じて命を落とすようなことはしないでください。」

かなめは必死に語りかけた。見えない少年に。

本人が聞いているかも聞いていないかもわからない。しれでも、命の大切さを語り続けた。


放送終了後、ほどなく上村が官邸を訪れた。


「中井さんと話を詰めました。全国的に行うにはまだまだですが、取り急ぎモデルケースとして那覇市内の小学校全校に防犯カメラを増設します。これで校内における死角はなくなるはずです。そして、主要な通学路にも同様に設置し、民間警備会社と連携して監視にあたります。

そのうえで、これを。」

と言って上村はかなめに端末のようなものを手渡した。

「これは何ですか?」

「一言で言えば通報システム付きのGPS端末です。これを全生徒に配布します。」

「プライバシーの面は問題ないのですか?」

「配布した時点では端末は作動しません。助けを求める子供が通報ボタンを押すとGPSが作動し警備会社に通知されます。そして、警備会社の人間は通報者が単独のときに接触しヒアリングを行います。いじめなのか虐待なのか、どういった内容なのかなど現状の確認がとれた段階で本人の同意を得て監視活動を開始します。そして、状況に応じて児童相談所や警察と連携して対応します。」

「よくこの短期間で用意できましたね。」

「いや、たまたまですよ。もともと警備会社が契約者の子供用に開発していたものを少し改良したのです。那覇市内の小学校ぐらいであればすぐにでも配布できますので、中井さんと相談して9月1日に全生徒に配布する手はずです。」

「ありがとうございます。」

「まだまだですが、まずはこれで総理の言っていた抑止力と安心感をひとまずは構築できるのではないでしょうか。」

「はい。残りは走りながら進めましょう。」

「承知しました。」


9月1日。

この日まで当該者らしき自殺者の連絡はない。那覇市内の小学校では、生徒一人ひとりに通報端末が配布され使用方法の説明が行われた。そして放課後に開かれた保護者会において導入の主旨説明が行われた。


かなめは中井に電話をいれた。

「父兄の反応はどうでしたか?」

「先日の総理の放送を聞いていた保護者も多かったようで特に大きな混乱はなかったようです。まずはこれでどうなるか見てみましょう。」

「よろしくお願いします。来年度からは全国で導入できるように予算をとりますので。それと、例の件はどうですか?」

「ああ、何とかなりそうです。まずは那覇市内で十数件は確保できそうですよ。」


例の件というのは、虐待にあった子供たちを保護するための「里親」のことである。中井と相談し、こうした子供たちを児童養護施設で保護をするのではなく、「里親」として引き受けてくれる一般の家庭に預け一時的、あるいは長期的に保護に協力してもらう。

養子縁組をすることなく、協力金を支払うことで虐待を受けた子供の保護に協力をしてもらうホストファミリー制度である。


「受け入れ先としての審査は必要ですが、精神的に不安定な子供たちを大人数の施設で保護するより家庭的な愛情を受けられる環境のほうが子供も安心できるでしょうから。」

「そうですね。」

「では、また何かありましたらご連絡ください。」

「はい、よろしくお願いします。」


そして、その夜島袋からの電話を受けた。


「総理、少年から局に電話があったそうです。かなめ先生にありがとうって伝えて、と。」


こうして“ウミガメプロジェクト”は始動した。


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