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第七章:いじめ・虐待対策(2)

福島に戻ったかなめは原発周辺、およびIFC(統合型未来都市)の建設現場を視察。

原発については、制御はできているものの増え続ける汚染水の処理方法が未だ決まっていない。

希釈して海洋放出とするか、気化させるか、環境的には問題はないとされているが、風評被害を恐れ地元の反発が強いのが現状である。

IFCについては、順調に進んでいた。

大学と研究機関は2015年4月に、それ以外は2016年4月の竣工を予定している。


後援会などへの挨拶を終え、実家に戻ったかなめは俊雄と酒を交わしていた。


「どうだ、大変か。」t

「わかっていたことだから。」


「はい、枝豆。あと、しんごろうね。」

「あ、しんごろう!ありがとう、母さん。」

裕子が持ってきた「しんごろう」。

もち米で作った団子を串に刺し、ゴマと味噌で作ったタレを塗って焼いたもの。会津周辺に伝わる郷土料理である。


「これが酒に合うとは思えんのだがな。」

「何言ってんの、この香ばしさが最高じゃない。」

「まあ、いい。で、沖縄の件は何か考えているのか。」

「沖縄については中井知事に委ねるつもり。ただ、沖縄も含め政府としていじめや虐待について何らかの施策を打つ予定。」

「大人が関与できる部分には限りがあるぞ。」

「そこなの。インフラやシステム、制度を作ったところで、人権の絡みもあって限界がある。家庭内にまで防犯カメラを設置するわけにはいかないから。訪問調査も居留守を使われればそれでおしまい。問題は山積み。」

「そうだな。未成年に厳罰を科すわけにもいかんしな・・・」



「かなめちゃ~ん、お父さんからの差入れ持ってきた~」

健一とゆりが餃子の差入れを手にやってきた。


「お、やっぱり酒の肴にはしんごろうよりこっちだろ。」

「ありがとう、少しあがってく?」

「う~ん・・・じゃあちょっとだけ。」

「はい、オレンジジュース。」

「ありがとう、おばちゃん。」

二人は裕子からもらったオレンジジュースをおいしそうに口にした。


「健一くん、お父さんとお母さんは元気?」

「うん、最近忙しそうだけど前より遊んでくれるようになったよ。」

「そう、よかったね。」

「なんかね、忙しそうだけど嬉しそうなの。」

「ゆりちゃん、なんでだろうね?」

「お客さんいっぱいのほうがいいみたい。かなめちゃんのおかげだ、って言ってた。」

「私の?」

「うん。この辺の旅館もお客さんいっぱいなんだって。」

「じゃあ、お父さんもお母さんも大忙しだね。」

「うん、ちょっと体が心配だけどね。でも、温泉あるから平気みたい。」

「温泉最高だもんね。」

「うん。温泉サイコ~!」」


少し間を開け、かなめは健一に目線を向け表情を変える。

「ねえ、健一くん。ちょっと聞いていいかな?」

「なに?」

「ちょっと変なこと聞いちゃうんだけど、健一くんの学校でいじめってある?」


しばし沈黙した後、健一はゆりと目を合わせる。

ゆりも沈黙の後、健一に向かって頷いた。


「お父さんとお母さんに内緒にしてくれる?」

「もちろん。」

「今はないんだけど、ゆりが一年生の時、教科書を隠されたりしたことがあったんだ。ゆりの友達がぼくに教えてくれて。それでゆりに聞いたんだ。「何でお兄ちゃんに言わないんだ」って。」

「だって、ゆりが落としたかもしれないじゃん。」

「ゆりの友達が隠した子を知ってたんだけど仕返しされるのが怖くてゆりにも教えられなかったみたい。それでぼくに頼んできたんだ。」

「それでどうしたの?」

「ぼくからゆりに「先生に言っていいか」って確認してからそうした。」

「先生はどうしたの?」

「ゆりが教科書をなくしたみたいだからみんなで探してあげてって言ったんだ。そうしたら次の日、ゆりの机に教科書が置いてあった。」

「それからは何もないの?」

「ゆり、ないよな?」

「うん。」

「ありがとう、教えてくれて。」

「かなめちゃん、絶対内緒だよ。」

「うん、約束する。」

「じゃあ、お母さん心配するから帰るね。ジュースありがとう。」

「こちらこそ、お父さんに餃子ありがとう、って伝えてくれる?」

「わかった。」


二人を見送った後、俊雄との会話は続く。


「いじめや虐待はすぐそばで常に起きているもんだ。昔は親や教師が子供を殴るなんて当たり前だったんだがな。今じゃそれが許されない社会になっている。教師と生徒、親と子の信頼関係で成り立っていたものが成り立たない世の中になるのは悲しいものだ。」

「殴ればいいってもんじゃないけどね。今はそういう時代。それを、「イマドキの若い者は」っていうのかもしれないけど。私の時代もいじめはあったけど、今ほど自殺までする子は少なかった。今は死を選んでしまう子が多すぎる。」

「人と人のつながりが太くないんだろう。表面的なところでは“友達”と言っていても、本心や悩み事なんかを腹を割って何でも相談できるような関係に実はなっていない。だから自分の中に溜め込んでしまう。それが自分の器から溢れてしまった時、それをどうすることもできず死を選んでしまう。」

「被害者の側が割を食う社会なんて。」

「全くその通りだ。で、何か策はあるのか?」

「抑止力と安心感を使おうって思ってる。周りの目がある、という抑止力と、いつでも見守ているっていう安心感。まだ具体的な詰めはできてないけど。」

「そうか。だったら中井さんに依頼して沖縄で試験的に導入したらどうだ?」

「それ、私も考えてた。あそこは米軍のこともあるから防犯強化には関心高いかなって。でも、この手の施策に反発が多いのも事実。でも、

頼んでみるつもり。」

「まずは、自殺の一件がどうなるか、だな。」

「そうね。」


8月20日。

かなめは中井知事と電話で会談をしていた。

「どうですか?」

「捜索は続けていますがあれから有力な手がかりはないですね。」

「そうですか。実はご相談があるのですが、政府として今後いじめや虐待について施策の検討を進める予定なんです。それで試験的に沖縄に導入を検討いただけないか、と。」

「内容にもよりますが。」

「ええ、もちろんです。案がまとまった段階で改めて相談させてください。」

「構いませんよ。」


あと11日、たった一人の子供の命も救えない自分に心が落ち着かない。

かなめは島袋に電話を入れる。

「総理、例の件はどうですか。」

「進展がないようです。」

「そうですか。私も子供を持つ親として心配です。」

「実はお願いがあるんです。」

「呼びかけ、ですか?」

「はい。急ぎお願いできますか?」

「私が行っても構いませんが、総理からされたほうが届くのではないですか?」

「電話で良ければ。」

「わかりました。明日15分の枠を作ります。今日これから告知を始めますので詳しい時間は後ほどご連絡します。」

「ありがとうございます。」


こうして、急遽電話出演が決まった。


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