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第三章:訪米

2013年3月。

かなめの首相就任挨拶のため、1月に再選を果たしたオダマ大統領との初会談に臨んだ。



ワシントンD.C. ホワイトハウス。

「はじめまして大統領、改めて再選おめでとうございます。」

「ありがとう。あなたこそ、日本憲政史上初の女性首相だ。就任おめでとう。」

「ありがとうございます。でも、“女性初”は私の好きな表現ではありません。」

「そうだね、失礼をした。私も2009年の就任当時は“黒人初”の大統領と言われたものだが、全く同感だ。」

「日本でもアメリカでも、なぜマスコミは女性初、黒人初といった差別的な表現をするのでしょうね。」

「1つは、新たな歴史のページを演出したいという狙い、これに差別的な意図はないだろうが、誤解が生じるのも事実。もう1つは特にアメリカにおいては表には出さないが内面的な差別が歴史的に存在するため、それが無意識に表面化する。」

「とても残念なことですね。」

「そうだね。でもこれは心の問題だから根深いものがある。」

「同じ人間同士で、争いが絶えないのも根っこの部分は同じですね。」


オダマ大統領とは首相就任直後に電話会談で会話をしていたが、その時に感じた柔和な人柄の印象通りの人物だった。


「信条や思想の自由がある、という環境は同時に対立を生みやすい環境でもある。だからこそ人類の歴史は争いの歴史でもある。」

「その言葉をノーベル平和賞受賞者から聞くとは思いませんでした。」

「ハハハッ。ずいぶんな皮肉だね。日本語では、“一本とられた”って言うのかな?」

「ええ。よくご存じで。」かなめは笑顔で答える。


「大統領は中東をどのように考えていますか?」

「イスラム共和国のことかい?現在はイラク国内で活動をしているが、シリアへ活動範囲を広げつつある。長期戦になるだろうね。装備、人員、資金面などから考えても厄介な相手であることは間違いない。」

「では、アメリカとしては積極的に関与を?」

「いや、我々としては単独ではなく、他国と協調していくつもりだ。アフガンも含め、中東からは手を引きたいのが本音だよ。財政的に大きな負担となっているのも事実だ。」

「つまり、アメリカは世界の警察ではなくなる、と?」

「すぐには難しいだろうけどね。」

「では、中国については?」

「軍部からは南シナ海での動きに懸念の声が出ているが、私としては静観するつもりだ。今は脅威とは考えていない。」

「フィリピンをはじめ周辺国でも懸念の声は出ています。」

「そうだね。いざとなれば動くさ。その時には日本にも協力を要請するかもしれない。」

「わかりました。」

「いずれにしても、アメリカとしては日本は重要なパートナーだ。これからもよろしく。」

「こちらこそ。」



会談を終え、かなめは経済フォーラムに出席するためニューヨークへと向かった。日本の新首相として基調講演を行う。


「講演前にちょっとお手洗いに・・・」

SPがチェックのためトイレに入ると一人の女性が戸惑いの表情で立ちすくんでいた。

「いかがされましたか?」SPが女性に声をかける。

「ドレスの裾をヒールで引っ掛けてしまって。」

足元を見ると、ドレスの裾の部分が少し破れてしまっている。

「これでは人前に出られないわ。どうしたらいいのかしら。」


SPから報告を受けたかなめは、別のSPにソーイングセットを持ってくるよう依頼した。

「首相、どうなさるおつもりですか?」

「私が直してあげるのよ。」

「えっ? 総理がですか?それならホテルのスタッフにでも頼めば・・・」

「それでは時間がかかって講演に間に合わないでしょ?これでも裁縫は得意なの。」


念のためSPが女性のボディチェックを行い、安全が確認されたため、かなめをトイレに案内する。かなめは手際よくドレスを補修した。


「ありがとう、助かったわ。とても腕のいい職人さんね。」

「祖母にしこまれたの。物を大切にしなさい、これが祖母の口癖。」

「素晴らしいおばあ様ね。」

「おかげでなかなか新しい服を買ってもらえなかったわ。」



基調講演でかなめは原発の状況、IFC計画などを説明、日本への投資を参加者に呼び掛けた。講演を終えた後、先ほどの女性が声をかけてきた。


「驚いたわ。まさか、あなたが日本の首相だったなんて。先ほどは“職人さん”なんて言って失礼だったわね。紹介するわ。夫のD.J.よ。」

「D.J.だ。ニューヨークでホテルを経営している。妻を助けてくれたようでありがとう。このような形で日本の首相とお近づきになれるとは私もラッキーだ。今度ニューヨークに来た時には私に声をかけてくれれば最高の部屋をあなたに用意させてもらうよ。」

「気になさらないでください。」



予定されていた訪米スケジュールを終え、帰国の途についた。

機中、かなめはある懸念を抱いていた。


あの大統領は、有事に日本を切り捨てる----


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