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第二章:震災対応(1)

2013年1月28日。第183回通常国会。

所信表明演説で、かなめは今後の方針を語った。


「私は福島県で生まれ、多くの方々に支えられ今日に至っています。しかし、今その福島をはじめ、東北や北関東では一昨年の震災により苦しい環境での生活を余儀なくされている方が多くいます。私はこの方々に一日でも早く笑顔を取り戻していただきたい。そして、安心した生活を送っていただきたい。

私は首相として、国民の生命と財産を守らなければなりません。それには、前例にとらわれることなく、迅速かつ大胆な政策で臨まなければこの国難を克服することはできないと考えています。

この私の決意を示す第一歩として、次のことに取り組みます。」


かなめが震災対応として提示した政策は以下の3点。


1.東日本電力の一時国有化

2.徹底した情報開示

3.建設国債の発行、被災地支援ファンドの創設


「復興、という言葉があります。これは元の状態に戻ることを意味します。しかし、私が目指すのはマイナスからゼロに戻すことではありません。ゼロではだめなのです。プラスを目指さなくてはならないのです。」


この演説にいち早く反応したのが株式市場だった。

震災前の2011年3月10日の日経平均は10434.38円、その後株価は低迷し、かなめが総裁となった2012年9月26日の終値は8906.70円となっていた、そして自由民政党が政権に復帰したことで株価は徐々に回復、演説の前営業日である2013年1月25日の終値は10926.65円と震災前の水準になっていた。

東日本電力の一時国有化については市場への影響を考慮し、夕刻に詳細が発表されたものの、かなめの演説後、日経平均は1000円を超える急伸となった。

その後、1月28日からの5日間日経平均は連騰、日経平均は13000円台に乗せ、2008年9月に起こったいわゆるリーマンショック前の水準まで回復することになる。


早速とりかかったのが東日本電力。

震災以降の事故対応や補償などで財務体質が急速に悪化していた同社の破綻懸念払拭と国としての関与強化のため、株式保有比率を51%まで引き上げることを目的に、TOB(株式公開買付)を実施。1月25日時点で208円であった同社株式を300円で市場から買い付けることとした。これにより、経営破綻という最悪のシナリオは避けられると同時に国内外に事故対応に積極的に国が関与するという意志を示したかった。

なお、情報開示の透明性を維持するため、上場は続ける方針とした。

震災前から考えると、約10分の1にまで株価は下落していたが、機関投資家などの協力もあり、TOBは2月中に無事成立した。


情報開示については、被災地のみならず、全国における大気中の放射線量、水質検査結果。被災地周辺については農産物、水産物、畜産物の検査結果もあわせてデータを一元化し、多言語対応も含め、国内外の人がいつでもリアルタイムに閲覧できる環境を整備。特に福島原発周辺はより多くの地点のデータ開示に努めた。


なお、このデータ計測については、日本だけでなくアメリカ、ドイツの調査機関と合同で行い、日本・アメリカ・ドイツそれぞれの計測データを全て公開することでそのデータの信用性を担保した。さらに世界各国の主要都市、および原発保有国については原発周辺データを併記することで他国との比較も容易なものとし、世界各国からの視察を積極的に受け入れた。

つまり、「嘘のつけない環境」を自らが作り上げたのである。


そして、建設国債の発行。2013年度から2015年度の3年間に50兆円ずつ計150兆円を発行し、全国各地の防潮堤、港湾の整備、しゅんせつなどの防災対策に充てるほか、被災地のインフラ整備および避難地域における土地の一部買い上げを行う。

あわせて、被災地支援ファンドを創設。

建設国債により買い上げた土地に、


・被災地域住民向け住宅

;高齢者向け介護施設

・病院

・工業団地

・大学、および学生寮

・研究機関

・宿泊施設を併設するオフィスビル


を順次建設し、これらから得られた収益を配当原資とする計画を発表した。


2008年のリーマンショック以降、企業は設備投資に慎重になっており、利益はあげていたものの、そのほとんどが内部留保として眠ったままだった。しかし、政府が積極的に経済界に働きかけ、機関投資家などもあわせて30兆円の資金を初年度に調達することに成功した。


被災地域住民向け住宅では、所有する不動産との等価交換、ファンドからの低利融資による分譲、賃貸、と様々な形で仮設住宅や避難先からの移転を促すほか、新たに建設される各施設に従事する人々の住宅としても活用される。


大学、および研究機関については、国内外から有能な人材を招致、2012年にiPS細胞でノーベル生理学・医学賞した中山教授もこの計画に加わった。先端技術研究に特化し、福島原発廃炉に向けた研究のほか、バイオ、エネルギー、メディカル、遺伝子など幅広い分野に投資を行い、研究資金を気にすることなく産学連携しながら研究に専念できる環境を整備、大学には外国からの人材を受け入れるための技術訓練校も併設する。


工業団地については、経済特区に指定し企業の技術開発を支援するため規制を緩和、自動運転やドローン、サイバーセキュリティ、産業用ロボット、衛星・ロケットなど関連企業を誘致、参画企業については、一定要件を満たす場合、被災地支援ファンドからの低利融資を行うほか、本社を同所に移転、または設立した企業については税制面での優遇措置を講じる。

また、この特区設置にあわせ、今回の被災地域も含め激甚災害指定地域に指定された自治体への寄付金については税額控除を受けられる「被災地納税制度」も整備した。


この一連の都市整備計画は統合型未来都市(IFC)計画と名付けられた。


計画の発表後、マスコミ、野党は政権批判一色となる。


「地元への利益誘導だ!」

「国民の借金がさらに増加する!」

「採算度外視の暴挙!」


しかし、かなめはこれらの批判に動じなかった。強引なのはかなめもわかっていた。

「とにかく、人・物・金を動かさないと。経済を回さなきゃ。」


そして、2013年3月に任期を迎える日銀総裁人事。

これまで金融緩和に慎重であった赤川総裁から、緩和に積極的な上田氏を起用、財政と金融の両輪で日本経済を押し上げる体制を整えた。


「マスコミは大騒ぎだな。」

刃部内閣においても岩原は幹事長に留任していた。

「そうですね。でも私は前に進み続けます。」

「世間もまずはお手並み拝見、といったところだな。」



マスコミの反応とは裏腹に経済は活気づいていた。

全国から東北への人の流れが急速に高まりつつあった。

一連の発表後に行われた世論調査での内閣支持率は、48.5%とまずまずの結果だった。


「あとは、汚染水・・・・。まずは完成を待とう。」

かなめはそうつぶやいてアメリカへと向かった。



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