勇者の弱点?
ソーサラモナーの瞬間移動の呪文で勇者が潜伏する城下町へと移動した。少々の時差もあるのだが、辺りは真っ暗だった。
冬が近いのもあり、家へ帰る人の群れは誰も無口だ。
「うう……寒い。早く済ませて帰ろうぜ」
「ああ」
勇者の居場所は直ぐに分かった。宿屋の前に馬車が停めてあるからだ。
……宿屋の入り口横には黒い板が立ててあり、「祝。勇者御一行様」と白字で書かれている……。
四人はぞろぞろと宿屋に入って行った。
「いらっしゃいま……キャー!」
キャーキャー言われるのは……まんざらでもないのかもしれない。
「受付嬢よ、騒ぐでない」
「そうだ。これは単なる仮装大賞なのだ」
……? 仮装大賞じゃないだろ――。
「あ、ああ。そうだったんですね。ごめんなさい」
セキュリティーの低さは魔王城以下だな。
「大人四人。一部屋だ」
「かしこまりました」
「御休憩だ」
ソーサラモナーの頭をサッキュバスが叩いていたのだが、意味がよく分からなかった。
「本日は勇者様御一行が来ておられますので、お気を付け下さい」
……? 間違って切られないように気遣ってくれたのだろうか……。
「ああ、ありがとう。ちなみに勇者様はどこの部屋ですか?」
「201号室です。201号室から205号室が勇者様一行です」
……一人一部屋か……いい身分じゃないか。
鍵を受け取ると部屋へと向かった。
――勇者の潜伏する201号室へ。
「おい、デュラハン! どうやって勇者から聞き出す気だ? 作戦は?」
「ちょっとお話しましょう作戦でどうだろうか……」
一斉にみんなに頭を叩かれた――頭はないのに! 仲間同士とはいえ暴力反対だ!
「バカ! わたし達は顔を覚えられているのよ!」
「安心しろ。私には顔がない。だから顔を覚えられることはないのだ」
絶対に――!
堂々と201号室の扉をノックする。コンコココンコ、コンコン!
「どーぞ」
奥から声がする。
「ちーす」
適当にそう言って鍵のかかっていない扉を開けて中へと入った。皆が我慢してクスクス笑っている。勇者の驚くところが見てみたいのだろう……。
ガウンを着てリラックスしていた勇者は椅子から飛び上がった。ドッキリ成功感が心地良い。
「お、お、お前らは!」
「久しぶりだな勇者よ。魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンだ」
「同じく、巨漢のサイクロプトロールだ」
「「同じく」」
同時に自己紹介しようとするなと言いたい。
「同じく妖惑のサッキュバスよ」
「同じく聡明のソーサラモナーだ」
「……」
「というわけだ」
「というわけだと言われても、ぜんぜん話が読み込めない! なにをしに来た!」
いちいち説明するのが……面倒だ。
「フッフッフ、お前を拉致しにきたのだ」
「うわ、こわ~い! 悲鳴を上げたければあげてもいいのよ。ウフフ」
ガウン姿で丸腰の勇者。ひょっとするとパンツもまだ穿いていないかもしれない。リラックスし過ぎたと注意してやりたい。
「なーに、暴れなければ命だけは助けてやるさ」
「我ら四天王は寛大だ。――瞬間移動!」
「うわあああー!」
真っ暗な部屋へソーサラモナーの瞬間移動の呪文で移動をし終えた。
瞬間移動の呪文は便利なのだが、移動し終えた後が少し気持ち悪い。エレベーターで酔ったような気分になり苦手だ。
この部屋は……少し肌寒い。
我ら魔族は明かりが無くても昼間のように見えるのだが、人間はそうではないらしい。
「――こ、ここはどこだ!」
サイクロプトロールがランプに火を点けると、ゆっくり室内が明るくなった。白い壁に四天王と勇者の影がユラユラと映る。
「どこって……。206号室だ」
「……。そ、そうか……」
怯えていた勇者は安心したのか観念したのか、両の手をだらりと垂らして立ち尽くしていた。
瞬間移動して移動するほどの距離ではなかった気がする。
サイクロプトロールはおもむろに縄を取り出すと、勇者をバスローブの上からグルグル縛り上げた。
「や、やめろ、やめてくれ! って、くさ! このロープ、運動会の綱引きの綱のような匂いがするぞ!」
「なにを言う! 綱引きの綱はいい匂いがするではないか!」
「「――!」」
あれのどこがいい匂いだというのか――!
「あれこそ、――手汗の匂い! 汗と涙と脇汗の匂いだ!」
「や、やめてくれ――! 綱引きに二度と出られなくなってしまう~!」
……魔王様、綱引きの綱でもよいかもしれません。勇者がこんなに喜んでおります。
読んでいただきありがとうございます!
ブクマ、感想、ポイント評価、面白かったらレビューなどもお待ちしております!