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【完結】国賊王女のサーバントに転生したら、特殊スキル「武器庫(アーモリー)」が覚醒しました!  作者: 石和¥
4:奪還エルロティア編

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燃え上がるエントランス

 その異様な代物を見たとき、最初に感じたのは嫌悪だった。何で動いているのか、糞にたかる甲虫(スカラバエウス)のような姿と這い方。実に醜く、忌まわしく無遠慮で禍々しく、どこか不吉だ。


「エルヴァ様、奴らが停止しました」


 率いてきた弓兵隊の指揮官がオズオズと進言してきた。そんなもの、こちらも見えているに決まっているだろうに。悪名高き“朦朧(ヘイズ)”の副長である自分の来訪に戸惑い怯えているのが丸わかりだ。苛立ちと殴りつけたい衝動を密かに抑える。

 領内に入ったことは魔力探知(サーチ)で伝わっていた。それ以前に連絡が途絶えた部隊や未帰還の兵員についても報告は聞いていた。この目で見るまで信じられないというのが正直なところだったが。

 たかが混じり者のハーフエルフごときに、“朦朧(ヘイズ)”の精鋭三十七名が倒されたというのか。

 どのような死に方だったかを聞いたところで、どれも断片的で情報は錯綜し要領を得ない。

 “逃れられぬ死の礫”、“地獄から響く悲鳴”、“横殴りに降る炎の雨”、あるいは“魔導防壁をも喰い破る悪魔の爪”。妙に饒舌で説明過多だが、その実なにひとつ伝えていない。

 状況を判断するに、先陣を切った実力者から殺されている節がある。結果として生き残ったのは腑抜けと無能だけだ。それが報告の不確実さにつながっているわけだが。


 念のため“魔導霧(マギヘイズ)”の濃度を上げる。我らの名の発端(もと)になった特殊魔導は局長オーヴァインの編み出したものだ。薬師の作る毒はその場に残って友軍の被害を生むが、これならば隠密作戦にも使いやすく死因の特定を難しくするため多大な効果を発揮する。主に“恐怖を生む”ことで敵軍の足を止めるのだ。


「今回は、たったふたりが相手となれば無意味な効果だがな」


 確実な殺戮を最優先にして状況を判断しないと決めた。結果以外は求めない。出し惜しみもなしだ。

 我らが最精強部隊“朦朧(ヘイズ)”の雪辱を果たす。ヒューミニアの混じり者に始末を付ける。

 致死の毒霧を一帯に流すという提案にはヘルベル陛下から不満の声が出た。エルロティア国境の森が枯れるという呆れた意見を内心で嗤って尋ねた。“森と賊の排除とどちらを優先すべきですか”と。

 目論見通りに高濃度の毒霧で周囲の森が黄変を始めている。生き延びられるはずがないのだが。あの虫のような乗り物のなかには、いまだふたつの魔力反応が消えずに残っている。装甲馬車の類だろうが、魔導霧の毒さえ防ぐものなど聞いたことがない。


「魔導師隊!」

「「「は」」」


 それならば焼き殺すだけだ。十二人編成の法陣で戦術級攻撃魔法を叩き込む。魔力集中を始めた魔導師隊の前には大盾を構えた重装歩兵が陣形を組んで突撃の命令を待っている。そんなときは来ないと、誰もが思っているのだろうが。

 嫌な予感がした。


「動き出しました!」


 退避を図るかと思って目をやると、こちらに向かってくるのが見えた。真っ直ぐに、凄まじい勢いで突っ込んでくる。


「おのれ虫ケラごときが! 魔導師隊、撃て!」

「「「は」」」


 魔力充填は済んでいる。集中を欠いたか魔力にわずかな淀みがあったが気にするようなときではない。法陣に沿って放たれた炎弾が灼熱の滝になって虫型の車に降り注ぐ。

 周辺の地形が変わるほどの衝撃。青白く瞬くのは“混じり者”が放った魔導防壁の残滓か。それが消えかけたところで攻撃魔法の奔流が止まる。森を焼き払って水分を蒸発させ凄まじい湯気と白煙を溢れさせる。そこから飛び出してきたものを見て兵たちが息を呑む。

 そして、虫から放たれた“何か(・・)”が。


 “逃れられぬ死の礫”が。“地獄から響く悲鳴”が。“横殴りに降る炎の雨”が。

 “魔導防壁をも喰い破る悪魔の爪”が。


 魔導師を貫く。大盾を砕く。重装歩兵を引きちぎる。弓兵を踊らせて飛び散る飛沫と肉に変える。


「なんだ、これは」


 ようやく気付いた。あれは。腑抜けと無能どもの残した、あの報告は。饒舌で説明過多だが断片的で錯綜し、要領を得ない不確実な報告は。


 端的な事実であったと。


 気付けば、糞虫の乗り物は目の前に止まっていた。折り重なる死体のただなかに立つ、自分の目の前に。その上部に、小柄な人影が立っているのが見えた。


「大層な歓迎だな」


 これも虫のような意匠の歪な面を剥ぎ取ると、幼い女の顔が現れる。金髪を靡かせた少女は、おかしな棒切れを抱えて獰猛な笑みを浮かべる。


「貴様……クラ、ふぁッ」


 胸に熱が、射し込んで背中に抜ける。膝から力が抜ける。開いた口から最期の息が、命とともに抜ける。

 ああ。

 思い出した。

 最初に感じた忌まわしさ。

 嫌悪とともに嗅ぎ取った禍々しさ。

 糞にたかる甲虫(スカラバエウス)は太古の世界で、


 死と再生の象徴だったと。

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