迷走する進軍
もう敵にバレてるなら逃げ隠れしてもしょうがない。最短距離で山岳ルートを行こう。
ただし、BTR-70の図体はさすがに持て余し始めていた。
「どうしましょうかね……」
「注意して進めば問題あるまい。悪くない乗り物だぞ。何より武器が良い」
姫様KPVT重機関銃が気に入られたみたい。たしかに頼りにはなるけど、ここまで来て運転ミスで転げ落ちて死ぬのは勘弁して欲しい。ぼくは不死者かもしれないけど姫様を巻き込んじゃうし。幸い、いま資金は潤沢だし。
エルロティア国境に近付くにつれて、山間部のつづら折れがシャレにならない狭さになってきた。
「すみません姫様、もう限界です。ちょっとお待ちください」
“武器庫”の在庫を調べると、何台かフェレット装甲車があった。詳細情報を見ると、サイズは全長3.7メートル車幅1.9メートル。BTRどころかハンヴィーよりひと回り小さい。車重も4トンを切ってる。
砲塔付きで、主武装はブレン軽機関銃もしくはブローニングM1919重機関銃。このふたつの場合、軽重の呼び方は運用の違いだけで、弾薬は同じようなフルサイズ小銃弾だ。箱型弾倉のブレンは交換が煩雑なので、ベルト装弾のブローニングが搭載された車両から選ぼう。
独断で決めて車両を出す。クラファ殿下はフェレットを感心した顔で見た。
「ほう、これは外寸を先に決めたような乗り物だな。これはこれで面白い発想だ。この銃は……BTRの小さい方と同じくらいか」
「はい。ぼくのMG3とも似たようなものです。姫様は銃座にお願いします」
「わかった」
基本操作と弾帯の交換を試してもらう。副武装のPKTで経験しているので、姫様はすぐに慣れてくれた。既に敵地なので、射撃特性は実際に撃って調整してもらうしかない。
「マークス。こいつの名は」
「“フェレット”です。ぼくのいたところの、イタチの仲間ですね」
「似合いの名だな。イタチは小さく素早く獰猛で気が荒い。大型獣の巣穴に侵入して、雛や幼獣を喰い殺す」
野生のイタチって、そんな凶暴なのか。
「では、参ります」
う〜ん……これもマニュアルミッションだ。とんでもない角度のハンドルも建築用重機みたいなレバー類も、ゴリゴリに固くて重い。視界は車体の前後左右にある鶏小屋か郵便ポストみたいな“蓋”を開けて確保する。
これはこれで、いかにも装甲車って感じ。
エンジンはロールスロイス製だっけ。そんなものを運転するのは、フェレットが最初で最後な気がする。どんなもんかとアクセルを踏み込んでみても、特に高級感はない。高級車に使われているエンジンと同じはずなんだけどな。
「姫様、そちらは問題ありませんか」
「ああ。“びーていあーる”より何もかもこじんまりとしているが、軽くて小回りが利く感じが良いな。細部の造りが、ずいぶんと違う」
「BTRとは違う国の産です」
なるほどな、と砲塔を開閉しながらクラファ殿下は笑った。
「“びーていあーる”や“えすけーえす”は、武人の蛮用に耐え得る武具だが……これは、もう少し理路整然としている印象があるな。本人たちにしか理解できん何かによって、だが」
偏屈で理屈っぽいということかな。ぼくには、あまり違いはわからないけど。