話し合いの果てに
「おおおのれぇ……ッ!」
「なに、礼には及ばんぞ。貴様らの、安全を確保するためだ。あまり無防備に歩き回られると、罠が弾けて死ぬのでな」
「なッ⁉︎」
「魔道具ではないから探知も利かん。残念だったな。寝ている女に忍び寄った報いだ」
二十五発を撃ち尽くす前に、姫様は弾倉を交換した。もう立っている敵はひとりも残っていない。
「それで……ヘルベルタ、だったか? 偽王の犬が何の用だ」
「ヒューミニアの、混じり者……ごときが、陛下を愚弄するか!」
「わたしを知っているなら、話は早い。あの王族殺しの大罪者に伝えろ。怯え震えながら沙汰を待て、とな。これから、わたしはこの国を潰す。少なくとも、あのクズは殺すぞ」
「……なん、だと⁉︎」
「ヘルベルに伝える手段があるなら、だがな」
弓に手を伸ばした部下のエルフが、姫様の銃弾に頭を撃ち抜かれて事切れる。
「ここで死に行くのが運命ならば、それでも構わん。結果は同じことだ」
「貴様らの思い通りになるとでも……」
「もし、あの増援を当てにしているなら、思い違いも甚だしいぞ?」
姫様の指した方角、木々の間からわずかに覗く道の遥か彼方に、松明が十数本こちらに向かって来るのが見えた。
「マークス、頼む」
「了解です姫様」
ハッチから砲塔に戻ったぼくは、ふたつのクランクを回して照準を合わせる。KPVT重機関銃を扱うのは初めてだし、テレスコープから敵もイマイチ視認しにくい。当たらなくても威力と脅威を見せつけられればそれで良いと開き直る。
「発射用意よし」
「撃て!」
轟音とともに光が弧を描き、増援目掛けて飛んでゆく。松明が弾けて、それより激しい光が舞った。甲冑にでも当たったか、着弾点には焼夷榴弾が起爆するだけの硬さがあったようだ。
追撃に周囲への掃射を加える。仰角を調整しながら前後左右に数発ずつ。木立をへし折り泥濘を巻き上げているのが微かに見えたが、人的戦果まではわからない。
「良いぞマークス、もう十分だ」
「……あ、……あ」
「いくつか、鍛造魔導鋼の反応があったな。エルロティアの虎の子、魔導重装騎兵でも繰り出したか。こんなところで“混じり者”に擂り潰されたとなれば、呼び出した側も不問では済むまい」
周囲で声もなく微動だにしないエルフたちを見下ろし、クラファ殿下は静かに宣言した。
「せいぜい遠くまで逃げろ。いますぐ、何もかも捨てて、わたしたちの手が届かないほど、遠くへな。貴様らが生き延びる道は、それしかない」




