表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】国賊王女のサーバントに転生したら、特殊スキル「武器庫(アーモリー)」が覚醒しました!  作者: 石和¥
4:奪還エルロティア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/148

龍に食われる

「……獣人、ですか。あまり接する機会がありませんでしたね」

「たしかにな。しかしコルニケアでは、よく見かけたぞ? 銃兵部隊にも何人かいたようだが」


 いた……かな? 彼らは規律正しく均一化され過ぎていて、種族としての個性があまり目立たない。制服と装備と行動とがピシッと揃った集団のなかでは、“銃兵”という表層に覆い隠されて個別の印象が残らない。


「それで、あの獣人たちは何のために我々を止めたんですかね」

「さあな。訊いてみるか」


 砲塔の椅子から離れようとするクラファ殿下を止めた。さすがにそれは、ぼくの役割だろう。


「姫様はここにいてください。何かあったら援護をお願いします」

「しょうがない。“じゅう”は持ったか?」

「ええ、ここに」


 ぼくは頷いてレッグホルスターを示す。新しく調達した拳銃、姫様とお揃いのM9自動拳銃(ベレッタ)だ。拳銃は補助装備なので、多少の性能差や用途の差であれこれ揃えるより、弾倉や弾薬の互換性を持たせることを優先したのだ。いまさらだけど。


「気を付けろ。勝手に死ぬなよ」

「それは大丈夫ですよ、姫様もご存知でしょう?」

「だから、いっている。また別のマークスとして生まれ変わられても困るからな」


 クラファ殿下の口調は軽いが、目は真剣だった。


「わかりました」


 車体側面にある小さなハッチから抜け出して、前に立ち塞がる獣人に近付く。

 身長は、百五、六十センチ。見た感じ人狼っぽい子供だ。見たところ、敵意や害意を持っている風ではない。怯えているが、パニックにまでにはなっていない。ということは、この子は意図して車両の前に飛び出したのだ。


「大丈夫か、怪我は」

「あ、あう」


 あれ? 獣人って、言葉が喋れないなんてことはないはずだけどな。コルニケアでは人間やドワーフに混ざって、ふつうに暮らしてたし。

 人狼の子はアワアワしながらぼくを指し、BTRを指して、またぼくを指す。なにをしてるの?


「りゅう、の……お腹から……ひとが」

「どうした。ぼくらに何か用か?」

「……ひと、なの?」

「え、そうだけど……逆に、なんだと思って止めたんだ?」

「龍、かと」


 いやいやいや、ぼくは地龍しか知らないとはいえ、そして夕暮れで薄暗くなり始めているとはいえ、さすがに龍とBTRとは形もサイズもシルエットも全然違うと思うぞ? 地龍はエンジンで動いてないし、車輪で走らないし。そういう問題じゃないくらい見当違いな気がする。

 そもそも、龍だと思って呼び止めた? それは、望み通りの出会いだったとしても、喰われて終わりなのでは?


「龍は、獣人の守り神」

「そうなのか。知らなかったけど……残念ながら、これは龍じゃない。装甲馬車みたいな乗り物だ」

「のりもの……」

「そこの獣人たちは、君の仲間?」

「そう。助けてもらいたいの」


 獣人集団は、みんな薄汚れて疲れ切った子供たちだった。

 なんでこんなところに、とは思ったが話をしている暇はなさそうだ。集団の後ろに、血を流して倒れている大人がいた。

 見たところ、エルフだ。若い……のかどうか長命のエルフの実年齢まではわからないけれども、女性だ。


「だめ」

「連れてかないで」

「大丈夫だ、傷を見るだけだから」


 怯えながらも必死に守ろうとする子供たちを笑顔で落ち着かせ、脈を探る。呼吸は安定しているし脈もある。気絶しているだけのようだ。


「あの乗り物まで運ぶ。君たちもおいで、悪いようにはしないから」

「でも」

「ここにいると危険なんだ。どこから来てどこに行きたいのかも、何がしたいのかも知らないけど、出来るだけの手助けはする。目的地があるなら、そこまで送っていく」


 子供たちは視線を合わせてモゴモゴと躊躇(ためら)った後、車の前に飛び出した人狼の子に決断を委ねたようだ。彼……か彼女かわからないけど、人狼の子は少しだけ迷って、背に腹は変えられないとばかりにぼくを見た。


「助けてくれる?」

「ああ、水や食べ物もある。あのひとの手当てもする。もちろん、放っておいてくれというなら、そうするけど。たぶん君たちは、朝まで生き延びられない」

「……うん」


 他に選択肢がないことは理解しているんだろう。彼らは、エルフを運ぶぼくの後について、BTRに近付いてきた。


「姫様! すみません手を貸してください!」


 ぼくはエルフを抱えて、車体側面のハッチから車内に声を掛ける。姫様は詳細を訊かず、怪我人を引き入れるのを手伝ってくれた。出血は止まっているようだけど、このまま放っておけば魔物の餌になって終わりだろう。武器も持たない庇護者もない貧弱な獣人の子たちなど、餌がまとまって歩いているようなものだ。


「どうしたマークス、このエルフは何者だ?」

「わかりませんが、獣人の子供たちが助けを求めています。独断で申し訳ありませんが、彼らを保護したいんです」

「それは構わんが……大丈夫なのか?」

「え? だいじょうぶ、とは?」


 質問の意味がわからず困惑したが、姫様が指した方向を振り返って理解した。

 BTRの車内に繋がる入り口を見ながら獣人ボーイズ&ガールズが、いまにもチビりそうな顔でプルプルと震えていたのだ。


「た……たべられちゃう?」

「食べないよ⁉︎」

参考画像:

BTR-70 車体側面のハッチ開いた状態

挿絵(By みてみん)

戦闘中に出入りするのは無理だろこれ、な形状とサイズ

(後継機種BTR-80ではハッチが上下分割で二倍ほどに大型化してます)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] BTRに怪我人収容するのって大変そう。いちいち車輌上部に引き上げないと、収容出来ないし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ