山道突破
ゲーセンのガンシューティングゲームみたいになってるな、これ。
「良いぞマークス、速度そのままだ!」
「了解、ですッ⁉︎」
走る車体の先でも後でも、シャレにならんほどドッカンドッカン魔法か榴弾かが派手な爆炎を上げて、瓦礫やら土塊やら肉片やらが飛び散っては降り注ぐ。
青白い魔力光と赤い焼夷徹甲弾が交差しては派手な火花を上げ、上から横からいろんなものが撒き散らかされて煙や炎が視界を塞ぐ。
煙のなかから現れたハンヴィーの尻に追突しそうになって、ブレーキを踏む。数十メートルは先行していたはずだけど、いつの間にか距離が詰まっていたようだ。
「速度を落とすな! 追いつかれるぞ!」
「ハンヴィーの運転手にいってください!」
とはいえ、先行するハンヴィーにも敵の別働隊が襲い掛かっていて、銃座のM240だけでは対処し切れていない。全部を倒さなくても良いと伝えているし、突破を最優先にして攻撃も回避も無視して良いと伝えた。とはいえ、目の前に敵集団が出てきたら“撥ねて轢き殺す”という判断には、なかなかならないのだろう。
「銃兵部隊! 右方向、遮蔽が切れるぞ! 待ち伏せに注意!」
「「はい、上官殿!」」
「クラファ殿下! 左後方、魔導師部隊の追撃に対処を!」
「わかった!」
ぼくは運転だけで精一杯なので、車内の攻撃管制はモラグさんに頼んである。主武装のKPVT重機関銃と副武装のPKT汎用機関銃の操作は姫様だが、弾帯交換は銃兵部隊の新兵さんにサポートしてもらう。
アルフレド王には事前に確認した。“鉱山はどれだけ破壊しても構わない”との言質は取ってある。逆にいえば、それがない状態でKPVTの発射はできない。姫様の初回射撃で思い知った。
追撃者がエルロティア勢力なのはわかったけど、それがどういう立場と意見対立と利害があって向かってくるのかは知らない。特に興味もない。知りたいのは彼らがどういう戦力で、どういう武器と攻撃魔法を使い、どういう風に襲ってきて、どうしたら殺せるかだけだ。
装輪装甲車の装甲を貫くような攻撃はないだろうと信じる。もし読み間違っていたら、そのときは誰も車内からは逃げられない。みんな揃って死ぬだけだ。
「KPVT重機関銃が弾切れだ! 交換を頼む!」
「はい! 姫様!」
「すまんが、PKT汎用機関銃を使う! 少し揺れるぞ!」
「アー、プリーマ!」
交換中は同軸のPKTで攻撃を行うのだろう。すぐに射撃音が響き始めた。小さいといったところで比較の問題でしかなく、銃弾はドラグノフ狙撃銃などに使われるフルサイズの小銃弾だ。MG3やM240と同程度の威力はある。この世界では、それですら過剰なほどの威力が。
「悪くない!」
「悪くない、というか……あのエルフ、飛び散りましたよ殿下」
車外の戦闘状況で何が起こっているのか、すごく気にはなる。こちらはこちらで、それどころじゃないので聞かなかったことにする。狭い車内には銃声と命令を叫ぶ声、薬莢が跳ね回る音が響き渡る。濃密なガンスモークで噎せそうになる。ガッキガキに硬くて渋いレバーやペダルやハンドルを操作していると、工場労働でもしているような気分になる。
「マークス殿! もうすぐ鉱山を抜けます!」
「あ、はい」
モラグさんの声で我に返ったぼくは、谷の出口を透かし見る。もうすぐといっても、まだ数キロはあるか。道の先で門のようなものが立っていた。煙か靄か窓の曇りか、視界は霞んでよく見えない。
「モラグさん、出た先は何です」
「平地になる手前に川、そこを抜けると古い宿場町の跡があります」
待ち伏せ……もクソもないか。現在進行形で山ほどの敵が追い縋ってきているんだから。ただ、罠を仕掛けている可能性くらいは考えた方が良いかも。
「モラグさん、敵に橋を落とされる可能性は」
「不可能ではないですが、無意味です。落とされても、川は馬でも越えられます」
浅い小川かな。では重量のある車両が渡れるような橋ではなさそうだ。
「こちらは橋を利用しない方が良さそうですね」
「いえ、そのまま進んでください。サシャがわかってますから、大丈夫です」
たしかに、サシャさんは、わかっていた。橋は敵に落とされるような代物ではなかったし、ハンヴィーやBTRの重量でもビクともしなかった。ただ……
生きてた。




