狩りのとき
減速して左にハンドルを切る。右回りだと騎兵たちを本隊に向けて追い込むことになるが、姫様の判断では――そこまでハンヴィーの回転半径を考えていたのかまでは確認していないけれども――残存騎兵部隊を本隊から切り離して殲滅するつもりのようだ。
銃座に登ったクラファ殿下はM240汎用機関銃を走る騎兵たちに向けた。
「馬持ちはコルケニアに行かせん」
「練兵場の銃兵部隊なら倒せますよ?」
「ああ。馬もな」
点射で数発ずつ静かに着実に、姫様は敵を仕留めてゆく。盾持ちには何度か青白い魔力光に弾かれた場面もあったが、それも弾着を振り分けて盾から露出した足や頭を撃ち抜く。
小銃弾を確実に跳ね返せるのは盾の部分だけで、それは騎兵が片手で持てる程度のサイズしかないのだ。馬を倒せば済む話ではあるのだけれども、それをしたくはないという姫様の意思を否定する気はない。
「馬に罪はない、というのはな。半分は嘘だ」
「え?」
いきなり何の話かと、ぼくは銃座を見上げる。椅子代わりのベルトに腰掛けたクラファ殿下は、迷いを表すようにブラブラと足を揺らした。
「罪はないが、危険を冒してまで守る義理もない。わかっているんだが、わたしがヒューミニアで孤立していたとき、心の支えになってくれたのはマークスと、厩舎の馬たちだけだったのだ」
「構いませんよ、そのくらいの拘りは」
地龍のように敵対して襲ってくるなら、姫様がなんといおうと殺すけど。いまのところ、そんな馬は見ていない。
汎用機関銃の弾帯を撃ち切ると弾薬箱を放り出し、姫様は慣れた手付きで次の弾帯を装着する。
運転席から見渡す限り、騎兵の姿はなかった。
「残りは……どこですかね。姫様、見えます?」
「いや。わたしが倒した騎兵は七十前後だ。事前の情報からすると、少し足りん」
いくらか取り逃がしたようだ。本隊に随伴して抜けたのがいたのか。それとも、西側に回ったのがいるか。
「平野部の敵は殲滅した。マークス、歩兵と弓兵を追うぞ」
コルニケアに向かって進むうちに、遠くから一斉射撃の銃声が響いてきた。練兵場に布陣したアルフレド王と銃兵部隊の攻撃が始まったらしい。連携を取りながら弾薬装填を行なっているようで、射撃音が途絶えることはない。
コルニケア銃兵部隊の火力は十発かける七十丁、かけることの装填クリップ三個で二千百発。それを超えると、各自バラの弾薬をエジェクションポートから一発ずつ込めることになる。
対して、国境を超えた敵兵はおそらく四百を切る。よほどの下手を打たなければ、置いて来た弾薬を使い切るまでもなく殲滅は可能だろう。おかしな事故でも起きなければ、負ける戦いではない。
「様子を見ながら、練兵場まで戻ります。流れ弾があるかもしれませんから、車内へ」
「わかった」
ハンヴィーが国境の関所まで来ると、遠くで響いていた射撃音がいきなりパタリと止んだ。
関所の先にある領内には、早くも敵兵の死体が折り重なって転がっているのが見えた。通過がてら観察しても、生きている者はいない。
「殲滅完了、というには妙に静まり返っているな。何かあったのでなければいいが」