銃火
結局、SKSカービンは追加購入した。
増援として練兵場に集められた兵士七十名はひとりたりとも欠けず、銃兵部隊に志願し続けたからだ。
王からは朝まで走らせることも提案されたが、戦争が近いというのに無意味な疲労をさせたくない。そもそも、彼らなら走り通してしまうだろうから間引きできる気がしない。
「じゃ、その缶切りで缶詰めを開けて。弾薬が入ってますから気を付けて」
「おお……」
銃だけではなく練習用に消費しても平気なだけの缶詰弾薬と、装填用クリップもだ。クリーニングキットとガンオイルも。トータルではかなりの量になったが、第二次世界大戦のソ連軍じゃあるまいし、共用というわけにもいかない。
「気を緩めるな! 事故を起こした兵は問答無用で任務から外す!」
「はい! 姫様!」
全員に銃と弾薬が配布され、兵士たちは王と姫様から構造と使用方法のレクチャーを受けた。
ぼくは射撃も分解組み立ても経験していないので、おとなしくサポートに回る。
「マークス、標的は二百メートルで良いか?」
「はい。飛ぶだけなら四百メートル以上飛びますが、実戦での射撃距離はそれくらいが良いと思います」
「おお……」
ターゲットとして、壁際に廃棄処分らしい甲冑が置かれた。
各自で装填を行い、射撃に入る。ちなみに実戦では、十発装着可能なクリップをそれぞれ三個ずつ所持することになる。残念ながらそれしか在庫がなかったので、ひとり三十発を超えて撃つ場合は装填が少し面倒になる。
「装填、構え!」
ガチャリと一斉にボルトハンドルが引かれ、初弾が薬室に送り込まれる。歴戦の勇士といった顔の兵士たちも、緊張の面持ちで銃を構える。
「撃て!」
轟音とともに叩き込まれた銃弾が、甲冑のあちこちに無数の弾痕を残す。
「貫通したのか、金属甲冑を」
「こんなもんが七十も揃えば、戦争にならんぞ」
「ああ、その通りだ! 並みの敵では、単なる殲滅で終わる!」
兵士たちの囁きを受けて、アルフレド王が快活に叫んだ。
「だが、心配は要らんぞ! ケウニアの阿呆どもはヒューミニアの後ろ盾で、エラく張り込んできやがったからな!」
「アルフレド陛下、敵の編成がわかったんですか?」
姫様の質問に、王はサシャさんを指差した。
「教えてやれ、こいつらの的が何かをな!」
「……ケウニア浸透の斥候部隊より報告。重装歩兵四百、重装騎兵百、弓兵二百、魔導工兵三十」
アルフレド王の軽口に反応を見せず、サシャさんは無表情のまま冷静に報告を読み上げる。
「少ないな」
「良いぞ、これは勝てる」
「鎧袖一触だ」
楽観ムードの兵士たちの間に、ひとり悲壮な表情をしたサシャさんの声が響いた。
「地龍牽引の装甲馬車五」
「え?」
ちりゅう? なにそれ? 兵士たちもクラファ殿下も、一瞬で顔色が変わっている。質問しようとしたぼくより先に、サシャさんは最後の爆弾を落とした。
「搭載兵器は、攻城戦用魔導投石機」




