タフネゴシエーター
「……死体、といわれますが陛下」
クラファ殿下の言葉を、アルフレド王は片手で遮る。
「隠し事をする段階じゃねーと思うがな。なんせクラファとそのサーバントが生み出した死体は既に数千、ひとつやふたつは簡単に手に入る」
部屋の隅を指差す先にはトルソに乗った金属甲冑。ヒラ兵士が身に着けているような鎧の胸板に、いくつか小さな穴が開いていた。
なるほど、コルニケアはケウニアかヒューミニアに諜報員でも入れていたか。
どこまで話して良いか悩む姫様に、ぼくは頼りない助け舟を出す。
「隠すつもりならば、あの武器は使いません。ぼくの望みはただ、姫様を守り自分も生き延びることだけ」
「ほう。では、訊きたかったのは死体の入手先だな? ケウニアだ。イメルンの街道で派手にやった方は、根こそぎ持ち帰られたがな」
「まあ、腐っても第二王子ですからね」
Kord重機関銃でグチャグチャにした死体は、口頭報告のみ、ということか。姫様のM240汎用機関銃……いや、弾かれた凹みがあるから、UMPの拳銃弾が抜けた痕のように見える。
「どの武器を見られたか気にしているのか?」
駄目だな。再生能力と忠誠心以外に何も持たないサーバントや、ただの高校生が交渉で敵う相手ではない。
「はい、もちろん」
開き直って素直に答えると、アルフレド王は意外そうな顔でわずかに片眉を上げた。
「わたしは、何も知りませんからね。この世界の常識も、力関係も、わたしが持ち込んだ武器がどう認識され、どう扱われ、その結果として、どういう影響を与えるかも」
「この、世界?」
「ええ。正直に申し上げますが、わたしは姫様のサーバントだったマークスではないのです」
「マークス!」
姫様の叱責を、ぼくは目顔で止める。王の言葉ではないけど、もう腹を探り合う段階ではない。その力もない。
「彼の死後、不死者の力で再生する身体に迷い込んだ異界の学徒。ただの、世間知らずの子供です」
「……それを、信じろと」
「平民の子供風情が、一国の王に意見など申しません。ただ、陛下はもうおわかりなのではないですか、これが」
ぼくはインベントリーから出したSKSカービンを、銃床を先方に向けてテーブルに乗せた。
「この世のものではないと」




