表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/148

魔女と魔弾と

「おおおおおおおぉッ!」


 轟音とともに吐き出された7.62ミリNATO弾は七、八メートルほど前に立っていた魔女の姿を一瞬で掻き消し、赤黒い霧に変えてしまった。

 なにこれ、すごい。噂には聞いてたけど、反動も発射速度もシャレにならない。ドラムマガジンに入ってるの五十発だったはずだけど、ほんの数秒で撃ち尽くしてしまった。

 替えの弾倉、あとひとつしかないのに。

 それを撃ち尽くしたら、金属製ベルトリンクで連結された弾薬を弾薬箱から供給しなくちゃいけない。ドラムマガジンといっても、なかにはベルトリンクで繋がった弾薬が丸まってるだけなんだけど。弾薬箱から直接給弾するとなると、装弾手なしでは装弾不良を起こしそうで怖い。

 姫様、頼めばやってくれるかな。


「……マークス、なんだ、それは」

「MG3、軽機関銃(LMG)……いや、いまは汎用機関銃(GPMG)とかいうのかな」

「えむじーすり、えるえむ……わからん。魔道具、ではないな。魔力の反応はない」


 スペアのドラムマガジンを装着してボルトを引き、いつでも発射可能な状態にしたところで、ぼくらは魔女の()()に近付いた。

 あいつまで不死者だったりしたら、()()()()()()()()()に遭う。


「姫、そいつ、ちゃんと死んでます?」

「それはそうだろう。腹から下で真っ二つだ。何をどうしたらこんなことになる」

「さあ」


 多少は避けたり防がれたりを想定して掃射気味に全弾発射したんだけど、それが魔女のお腹を切り取り線みたいに引き裂いてしまったようだ。

 フルサイズの小銃弾を五十発だもんな。魔女もなんか対処はしたのかもしれないけど、無意味だったんだろう。うん。


「よかった。ねえ、姫様……いや、ええと殿下?」

「なんでも良いぞ、呼び名など」

「え?」

「貴様がもうマークスでないというなら、わたしもクラファではないのだろう」

「あ、はい」

「王女クラファは死んだ。わたしは……」


 元王女様である金髪美少女は、困った顔でぼくを見る。


「何なのだろうな」


◇ ◇


 汎用機関銃(M G 3)を“武器庫”のインベントリーに収納して、ぼくらは撤収の準備に入る。

 魔女の他に追っ手が来ている気配はないけど、ここにいても良いことなどない。


 残金で移動の足を確保しようとしたが、あいにく買える値段のものはなかった。金貨四枚ちょっと、ドルにして六千ドルとか。車は予算オーバーだ。せいぜいバイクか。


 止むを得ずというかなんというか、姫が魔女の死体の懐を探って財布を奪い、金貨三十数枚を手に入れた。銃弾が掠めたらしく多少は凹んだり欠けたりしていたが、“武器庫(アーモリー)”には問題なく受け取ってもらえた。


「いいんですか、一応仮にも一国の姫君が盗賊のような」

「知るか。殺しに来た奴を返り討ちにしたんだ。このくらいは当然の報酬だろうが」


 この姫様、肝が座ったのか案外逞しい。

 半透明の発光パネルに全て収めたところで表示が変わり、残高は金貨が三十七枚と銀貨が十四枚。

 並んでいる表示を見ると、ドル換算で五万ほどになるようだ。


 クラファ殿下に尋ねてみると、逃げ延びる予定だった母君の生地エルロティアまでは馬で一ヶ月ほど。

 距離は不明ながら、遠いことだけは伝わった。おまけに、道中はかなりの不整地が続くそうだ。


「馬は手に入ります?」

「騎兵を殺せばな」

「それは実質、無理なのでは」


 少し悩み、二千ドルくらいの中古オフロードバイクを買った。いまの予算なら、車も買えなくはない。運転も一応できるけど、“武器庫”は扱っているのがジープみたいな車両かもっと大きな軍用トラックしかない。

 こっちの世界じゃ目立つし、走れる道が少なさそうだ。金額も、現在の経済状況では少しばかり負担が大きい。


「これは?」

「バイクという乗り物です。ええと……機械仕掛けの馬のような。わかります?」

「阿呆に説明するような口調なのが気に入らんが、理解はした」


 キックペダルを踏むと、ぺぺぺと軽い音でエンジンが掛かった。

 バイクも車も免許はあるけど、あまり運転慣れはしていない。まあ、どうにかなるか。

 詳しくないので車種は不明ながら、部品に書いてある会社名(ロゴ)によればカワサキ製。どこかの軍用だったのか塗装は砂漠迷彩みたいな色に塗られ、いかにも後付けっぽい大型の燃料タンクが装着されている。

 姫様が震えているのを見て、軍用ポンチョと毛布を買った。いま着替えを手に入れたところで、すぐズブ濡れになる。せめて雨で体温を奪わないよう、毛布を巻いた上から羽織らせて雨風を凌ぐ。

 軽SUVのジムニーかなんか扱っていれば最適だったのに。


「頭のところの紐を引いて。そうです、雨風が入らないように」

「わかった」


 ついでに、片手で操作できる安いハンドガンを手に入れる。敵の襲撃があるたびにインベントリーから出し入れするとタイムラグがあるし、いま所有している汎用機関銃(M G 3)はとっさに使えるサイズでも性能でもない。

 さらにいえば弾薬のコストも、だ。


 とりあえず買えそうな価格の選択肢のなかから、米軍の制式拳銃ベレッタM9と替え弾倉(スペアマグ)二本、ショルダーホルスターと9ミリ拳銃弾を二百発。締めて千ドルちょっと。

 魔物や魔女がいる世界で身を守れるかは疑問も残るけど。ちょっとした安心のための必要経費だ。


「行きましょうか」

「貴様のことは、何と呼べば良い?」

「マークスで構いませんよ。ぼくは、姫……えーと、今後の安全を考えて“クラファさん”とでも呼んだ方が良いですか?」

「なんでも良いといっただろうが。既に追われて殺されかけた。どう呼ぼうと、いまさらだ。しかし、貴様にも真名はあるのだろう?」

「あったんですが、忘れてしまいました。前いたところに、置いてきてしまったようです」


 ぼくを見たクラファ殿下は、泥に汚れた顔で呆れたように首を傾げる。失望というか、傷心というか。もしかしたら、彼女はマークスが好きだったのかもしれない。


「そういうことにしておこう」

参考画像:MG3軽機関銃

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

ベレッタM9

挿絵(By みてみん)

軍用カワサキ(イメージ)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どうにゅう [一言] ランキングで見かけて読み始め! この導入はアツい。 娯楽小説は極論この子(達)の行く末を見てみたい、気になる! に尽きると思うのですが、 そのあたりをガツンとやられ…
[一言] MG3(MG42NATO)とは渋良いチョイスですね! 電動ノコギリの弾幕なら魔女とて粉砕できそうです 初心者がバースト撃ちできないとこも良いと思いますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ