囁く銃火
しばらく悩んで、ヘッケラー&コッホのUMPを選んだ。
45ACPという拳銃弾を使う短機関銃。細長い箱型弾倉で、装弾数は二十五発。
45ACP弾は、ぼくの持つベレッタM9自動拳銃の9ミリパラベラム弾と威力は大差ないが、弾頭が11.2ミリと大きく重いため打撃力が高いといわれる。また比較的低速な亜音速弾なので、減音器を装着した場合の消音効果が高いのだそうな。
UMPを選んだ決め手は、それだ。購入した銃には、大型のサプレッサーが装着されていた。
ぼくは小休止で馬を休める姫様に、UMPの片方を渡す。
「すみませんが、方針転換が必要になりました。SKSカービンは、いっぺん預かります。姫様は、こちらに慣れてください」
「ふむ。構わないが、これは“えすけーえす”と何が違う?」
「銃が軽くて短いので、森のなかでも取り回しがしやすいです。また弾薬が小さく威力が低く、音が小さいので目立ちません」
「なるほど、エルフ対策か」
「はい。銃の横にあるこのセレクターで、“安全位置”“一発ずつ発射”“引き金を引く限り連射”を選べます。実戦で無駄にバラ撒かないように、ここで少し練習をしましょう」
まだ撃ってないので、減音器でどのくらい銃声が抑えられるかは不明。馬が怯える可能性を考え、少しだけ離れた位置で森に向かって射撃練習を行う。
あれ、奥でなんか動いたな。
「姫様、弾薬は二十五発ずつ、この弾倉で入れ替えます。五本お渡ししますので、撃ち尽くしたら弾薬装填の練習もしましょう」
「マークス、百二十五発あればエルフに勝てるか」
「ぼくのと二丁で二百五十発。それで勝てなければ、音が出ることなど気にせず高火力な武器を出しましょう」
早くも弾薬が四種類になってしまったことは、供給や習熟を考えるといささか悩みのタネだけれども。いまは弾薬の統一よりも目的達成のための最適解を選ぶのが先決だ。
「姫様、前方にゴブリン三体が見えますか? 百メートルほど先です」
「見えるが、人間のようだぞ?」
そう、たぶんケウニア軍だ。少し前に見付けた。最初キョロキョロしていたが、こちらを確認した途端に隠れたのだ。ぼくらを監視するために送り込まれた兵士か。あまり能力が高くないことから、警報代わりにバラ撒かれた捨て駒かと思う。
悪いが、姫様の教材になってもらう。
「ゴブリンです」
「……そういうことにしておく。最初は、“せみおーと”か?」
「ええ。援護はしますので、二十五発以内で三人を倒してください。その後は弾倉を交換して、後方の敵を待ち伏せます」
「後方?」
赤い煙がひと筋、ぼくらが元きた方角に立ち昇っていた。
「ヒューミニアからの部隊が出てきたようです。規模は不明ですが。赤い狼煙は集合の合図、王妃の死体が発見されたんでしょう」