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トライケア

 ()王クラファ陛下の即位から一年後。

 マウケア、コルニケアとエルロティアの三国は、“自由()()条約”とでもいうような奇妙な同盟関係を結んだ。

 三王の合議制で行われる、ゆるやかな連邦制度。あまり合理的でも、効率的でもなく。お世辞にも洗練されているとは言い難いものだったけれども。


 それだけに、この世界には馴染んだ。


 三国の同盟が周辺国への敵意によるものでないことを示すため、()衆国リベルタンの意思決定機関“自由議会”の理事たちを特別陪席者(オブザーバー)として招待したのだが、初の顔合わせは概ね好感触だったようだ。


 その際の議題は、南方の破綻国家、ケウニアとヒューミニアに対する処遇。


「……“処遇”とはいうがな。その実、切り分けと配分だ。しかも、誰も何も欲しがらん負債国(ゴミ)のな。リベルタンの爺さんたちも苦笑していたぞ」


 エルロティアの王城に戻ったクラファ陛下は、身軽な格好に着替えてソファに倒れ込んでいる。

 三日に渡って行われた会談は、さすがに(こた)えたようだ。


「しかし、国境を接していないエルロティアがケウニアの国土を得ても困りますね」

「まったくだ。が……こういうときだけ要らんともいえん」


 三国が同盟を結んだときに印した“三国血盟書”、その主文は“権利も義務も、苦楽も折半”というものだった。

 異文化同士の関係は可能な限り単純でわかりやすいのが良いというアルフレド王からの提案によるものだ。

 センスとしてはどうかと思うけれども、考え方はたぶん間違っていない。次の世代のことを考えれば、なおさらだ。


「海沿いに飛び地としてつなぐか。となると船が要るな」

「道もです。いまだと王都から港までは馬で三日は掛かりますから」


 エルロティアもケウニアも、国土の遥か東端を海と接している。港もあるが、ただの寂れた漁港だ。交易をするには、大規模な工事が要る。時間と資材と人員と、当然かなりのお金も。


「……いまさらだが、あの二国は生かさず殺さず弱らせるのが正解だったな」

「まったくもって同意いたしますが陛下、そんな余裕はありませんでした」

「わかっている。ただの愚痴だ」


 ケウニアは政治・経済・軍事の全てで統制を失い、国体としての機能は失っている。

 ヒューミニアは滅びの際で留まっているものの、それは人口と国力の差によるものだ。

 滅びは、時間の問題でしかない。


「巨体を持った生き物の方が、出血には強いがな。死ぬまでに長く苦しむ」

「民が、ですけどね」


「陛下、マークス様?」


 遠くで声がして、メイドさんに案内されてエレオさんがやってきた。

 事務方の“相談役”として政務全般を取り仕切る彼女は“クラファ派(クラフィカ)”を自称する陛下の熱烈なファンだ。あえて役職に就かなかったのは陛下の側を離れたくないからだという噂がある。

 本人に訊いたら、()で肯定されたので、噂ではなく単なる事実だったが。


「どうしたエレオ、やけに嬉しそうだな」

「はい陛下。第七陣の移住希望者たちが到着しまして、無事に定着しますとエルロティアの人口が五万を超えられそうなんです」

「ケウニアを抜いたか。よくやったエレオ」

「勿体なきお言葉、このエレオ全身全霊を掛けて陛下の恩為エルロティアの未来のために……」

 相変わらずなエレオさんはともかく、エルロティアはかつてない勢いで人口を伸ばしていた。それでも国と呼ぶには随分と小さなものではあるが。


 逆に住民の流出が進むケウニアは現在およそ三万前後らしい。ケウニア住民の逃げる先は種族により分かれ、人間はヒューミニア、ドワーフはコルニケア、獣人はマウケアに多く流れている。エルロティアへの移住希望者は比較的エルフが多いものの、あまり偏りはない。


 この王城にも、ひとが増えた。活気はマナとなり、世界樹を通じてこの国を豊かにする。それを見聞きしたひとたちが、エルロティアを目指し集まってくるのだ。

 すべては、上手く回っている。ぼくは転生して以来ないほど穏やかな日々を送っていた。

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