王都への帰還
結論からいうと、回収できる物資はほとんどなかった。
危険そうなものがなかったという意味では良かったとはいえ、できれば少しくらい使えそうな武器とか、少しは期待していたんだけどな。そもそもメルカバ自体にも興味はあったし、まあイスラエル兵とも話してみたかったとは思うが、そんなのは馬鹿げた夢想論でしかない。
向こうは問答無用で殺しに掛かってきて、こちらは反撃して殺した。爆破炎上したのはぼくの手によるもので、そこに悔いはない。
「パチパチいってたのは止まったぞ」
「オーギュリさん、まだ熱いうちは近付かない方がいいよ。熱で爆発して飛んでくるかもしれないし」
「マークス、お前の魔法では回収できんのか」
武器庫は燻っているメルカバ三輌を無事に収納したのだけれども、項目の備考欄には赤字の“注意表示”がいくつも出ていた。
“火器”“機関”“装甲”に“使用不能”と表示され、“中度汚染”と“爆発の危険性あり”が追記されていた。
「ドワーフの国に持ち込めば技術習得の教材と、鍛治の素材くらいにはなるかもしれんな」
「どうでしょうね。元いたところの冶金技術の集大成でしょうから、こっちの窯で溶かせるのか、ぼくの知識では、なんとも」
ともかく、ここでの用は済んだ。リベルタンとの国境紛争を起こす“野良龍”はいなくなった。
「王都に戻るぞ。オーギュリ、頼む」
クラファ陛下がいうと、龍形に戻った瑞龍が振り返って小さく鳴く。
“いいよー、のってー”
「ありがとうございます」
空に舞い上がってしばらくすると、山間部にいくつか集落が見えていた。昼近くだというのにどこも人の姿はなく、炊煙も見えない。
「陛下、エルロティアの住人たちは、どのくらい残っているんでしょう」
「“友愛派”が調べてくれている。旧王党派勢力だった者たちも含んで、二万に届くかどうかだろうな」
少ないな……元いた世界じゃ南太平洋とかの島国くらいの規模だ。日本でいうと過疎化しかけた市とかのレベル。人間至上主義の国ヒューミニアでは王都だけでも人口二万弱だったはずだから、いかに少ないかがわかる。
エルロティアは国土の多くが山岳地帯で居住可能地が少ないのもあるし、長寿なだけに出生数の少ないエルフの国というのもあるんだろう。
印象としては、ずいぶんと枯れている。
非純血エルフが主体となって人口増加をしていくのが良いのかな。“クラファ派”を名乗る熱狂的ファンのエレオさんによれば、アーリエントの隠れ里が大小七箇所、千七百ほどの住人がいるのだとか。今後は彼らもエルロティアの民として権利と自由を得て、義務と責任を果たしていくことになると思う。
「見ろ、マークス」
王都が見えてきた頃、陛下が山脈の半ばあたりを手で示した。泉なのか水辺を中心にいくつかの建物が点在し、一帯にゆるい集落を形成している。そこにはひとが住んでいるようで、緑のなかに放牧されている家畜の群れが見られた。
「あれがコーリタニアだ」
クラファ陛下の、母君の故郷。ぼくの知らないマークスに陛下が約束した、“大きなチーズ”を作っているところだ。
「もう少しだけ時間をくれ。落ち着いたら、一緒に行こう」
「……はい」
そうだ。いまはまだ、偽王から国を取り戻したばかりだ。やることがあるし、旧王派閥も文官や一般市民は多くが残っているので油断できる状況でもない。
「王城の機能を回復させて、外在魔素を増やし始めなければな。水や土が痩せて、気候も荒れている」
“だいじょうぶ、ぎょくざのあるじ、もどれば、ゆたかに、なる”
「だと良いな」
王都に向けて、オーギュリはゆっくりと降下し始めた。