無尽蔵なATM
「マーカス、何か方策はあるのか?」
“あるのか?”
「ええ、あります。ありすぎて困るのと、あんまり詳しくないのが悩みです」
ぼくらはメルカバの射程外――と思われる数キロ先の高台――で、“武器庫”の商品在庫一覧を見ている。瑞龍はしばらく出番がないと判断したのか、龍形から少女の姿に変わる。
「マークス、オーギュリはお腹が減ったぞ」
「え? ああ、わかりました。ついでに見てみますね」
そうだ、お礼に桃缶を約束してたんだっけ。空を飛ぶと消費カロリーか魔力か、なんかが減ってお腹が空くのかもしれない。
見ていた“武器”タブを避けて、端の方にある“糧食”タブを叩く。軍用レーションがメインで、基地での調理用食材や水やサプリメントなど補給物資が続く。桃の缶詰は単体では見当たらず、調理用食材のデザートメニューにあった。前にオーギュリが(みんなと分け合って)食べたのと同じ大人数用の巨大サイズ缶だ。
いくつか購入してみるとデザート缶には桃と洋梨とフルーツカクテルがあったので、桃缶をひとつ箱から出して渡す。
「どうぞ」
「おおッ! これ、もももも……」
「桃缶ですね。浄化をしてもらったお礼です、ひとりで食べてかまいませんよ?」
「夢のようだ……♪」
大きな缶切りで開けて、フォークと一緒に渡す。
「開封した端のところが尖ってるので気を付けてくださいね」
「うむ」
満面の笑みを浮かべて桃を頬張っている姿を見ると、神獣であることを忘れてしまいそうになる。
「さて、では方策ですけれども」
「“ありすぎて困る”というのは、どういう意味だ?」
「ぼくのいたところでは、戦車は多くの国が持っている兵器だったんです。ということは、対抗手段もたくさんありました。土に埋めて吹き飛ばす罠や、巨大で強力な銃、それからミサイルという……」
そこで、少しだけ説明に困る。ヒューミニアのなんだかいう魔導師が使った、“火炎瀑布”とかいう戦術級魔法。あれを一点に集中させるような鏃、というような感じで話してみる。我ながら無理のある説明だと思ったが、クラファ陛下はなんとなくのイメージで理解してくれたようだ。
「理屈はともかく、あの鋼の外殻に凄まじい熱を加えて穴を開ける訳だな」
「そうです。そのミサイルが一番確実かとは思うんですが、使ったこともないし使い方も知りません。特に最新式の大掛かりなものだと操作も複雑なので、最初は手探りになりますね」
「それでは拙いのか? そう急ぐ状況でもなさそうだが」
リベルタとの国境に鋼の龍が出るという話は知れ渡っているようだし、見たところ人の行き来は止まっていて人員的被害はない。むしろ待たされて焦れるのは戦車兵の方だろう。
「気になってるのは、あの布陣です。戦車は三輌とも外周を向いているでしょう」
「ああ。あの砲身? あれが三方を向いているな」
「聞いた話ではありますが、対戦車兵器は、発射すると大きな炎と煙が出るようなんです。下手に使うとそれを目印に狙い撃ちされるのではないかと」
こちらが対戦車兵器を持っているとは思っていないだろうが、周囲全てが敵だと考えているようだ。危害を加えてくる者に対して、殺す判断は迷わない。
「なので、いっぺん、これで試してみようと思います」
「マーカス、それも“かんづめ”?」
オーギュリはモッキュモッキュと美味しそうに桃を食べながら、ぼくの抱えた自動運転掃除機みたいな代物を見て首を傾げる。
クラファ陛下は話の流れから、正体が何かを察したようだ。
「“土に埋めて吹き飛ばす罠”か」
「はい。“対戦車地雷”といいます」