密林
玉座の間を目前にして、M4カービンの装填済み弾倉が品切れになってしまった。どこかの遮蔽に入って装填するか。でもフロアの右手、柱の陰に敵らしき人影が動いてる。というか敵だな。あの青白い光、攻撃魔法の溜めに入ってる。無理だ。再装填の暇はない。
最後の弾倉に残った十数発を光のあたりに叩き込むと、鮮血を撒き散らしながら魔導師っぽいエルフが転がった。M4をインベントリーに戻して軍用散弾銃に持ち替える。
倒れた死体は、口元に妙な覆面を着けてない。魔導霧はないと判断してガスマスクを外す。残留したガスで多少の体調変化があったとしても、知らない場所への突入時に視界を遮られるデメリットの方がデカい。
短い廊下を進んだ先に、机や椅子で封鎖されたドア。たぶん、玉座の間に入る扉だ。雑多なバリケードの陰で、何人かの兵士が身構えているようだ。M79の榴弾で吹き飛ばすと、彼らの後ろにある扉までひしゃげた。血糊で赤黒く染まった扉を蹴飛ばし、隙間をこじ開ける。ようやくゴールまでたどり着いた。
「陛下、廊下の敵は排除。これから玉座の間に入ります」
“わかった。気を付けろ”
「了解です……って、なにこれ」
突き当たりで一段高くなった玉座までは、入り口の扉から絨毯の上を真っ直ぐに進むように作られているのだろう。本来は。
“どうした”
「なかが、ジャングルみたいに……ええと、世界樹の枝が入り込んでるようです」
室内なのに、内部はツタまみれの木々で覆われていた。灯りもなく光も差さないそこは暗闇に沈んでいて、侵入者の視界を遮るという意味では役に立っているのかもしれないけど、玉座としての機能も威厳も体裁も台無しだ。
もう、そんなのどうでもいいんだろうな。
「……“混じり者”の、狗か」
どこかでボソリと呟く苦々しげな声。不快なざわめきは伝わってくるが姿は見えない。ちっこいオッサンらしき人影もない。
どうしたもんかな。またガスマスクが必要になるのかな。それとも暗視ゴーグルか。
またガスの影響なのか単に面倒になってきたのか、わからない。まともに相手する気もなくなってきた。
「偽王ヘルベルは斬首された。“朦朧”の局長だか何だか知らないけど、お前らのお遊戯に付き合うのはもうウンザリだ。さっさと玉座を明け渡せ。あんまり陛下を舐めてるとな」
ぼくは、鹿撃ち用散弾を薬室に送り込む。
「殺すぞ、能無しのチビが」