死せる王の眷属
ぼくはモスバーグM500を抱えて世界樹の根元まで走る。“神使の加護”なのか身体能力が嵩上げされている実感があった。筋力も反射速度も体感で数倍になっている。心肺機能も上がったらしく息も切れない。
クラファ陛下の魔力をもらってる結果という話だったから無駄遣いはしないようにしよう。
“マークス”
「うぇッ⁉︎」
“なんだその、化け物でも遭ったような反応は”
「いや、いきなり耳元で陛下の声がしたら驚くでしょう⁉︎ これ、念話ですか⁉︎」
“知らん。オーギュリが何やら回路を繋いだといっていた。それより、ひとつ問題が発生した。世界樹の中心に城が見えるか”
「はい」
世界樹に近付くと、王城なのか幹に巻き込まれている城が目に入ってきた。これはヘルベルの代で行われたものではないだろう。長年、おそらく数百年規模でこういう風に計画され育ったものなのだろう。エルフの国なりの都市設計というか宗教感というか、とりあえず今回の問題とは関係ない。
“城の最上層、玉座に呪詛の魔法陣の反応があるそうだ。それを破壊しなければ、眷属は生まれ続ける”
残念。関係あった。すごく関係してた。むしろ魔物の供給源だった。
「呪詛の魔法陣って、ぼくに壊せますか」
“むしろ貴様にしかできん。強い魔力に反応して吸い込もうとする。エルフは近付けん”
「了解です。破壊方法は何か特別なものでも?」
“いや。陣紋の一部を物理的に切ればいい。周囲に魔導防壁はあるはずだが、対攻撃魔法用だな。玉座の間の入り口から遠距離攻撃……M79でいけると思うが”
城の前まで来たぼくを見て、イモリのようなオランウータンのような“眷属”たちが動き出した。図体に似合わない動きと速度で、世界樹の幹を降りてくる。こちらを襲うつもりのようにも見えるし、城を守ろうとしているようにも見える。どちらにせよ、意思表示として敵対していることだけはハッキリ感じられた。
「半分くらい、十五ほど減らしたら突入します。陛下、射落としてください」
“わかった”
どこか遠くで“ムキュー”みたいな野太い悲鳴が上がった。胴体に小銃弾を喰らった“眷属”たちがボトボトと落下してくる。高低差が百メートル以上となれば、城の前にある石造りの地面に叩き付けられて追加ダメージを喰らい、赤黒い血の染みが広がってゆく。
それでもまだもがく彼らに、ぼくはショットガンで止めを刺して回る。痙攣して事切れると、魔物からエルフの姿に変わる。後味は悪い。どうしようもないとはいえ罪悪感もある。
「……知った、ことか!」
ドゴンと魔物の頭を吹き飛ばす。陛下のために必要なことであれば、個人の感情は無視すると決めた。
“マークス、いまので十七だ”
「了解、始末しました。突入します、外の眷属はお任せしますね」
“頼む”
使ったショットシェルをモスバーグに装填して、初弾を薬室に送り込む。もう一発、マガジンチューブに装填。鹿撃ち用散弾が九発あれば、何が来てもしばらくは耐えられる。
「ははッ」
なんでかは、わからないけど。まったく意味不明だけど。状況からして、そんな要素は微塵もないけれども。
ちょっとだけ楽しくなってきて、ぼくは小さく笑った。