真摯な神使と神祠の神事
ドラゴンは、ぼくを見てクフンと鼻を鳴らし、鑑定でもするように見据えながら小首を傾げる。
“からだ、マークス。でも、ちがうの、まじってる。いぶつ……おもしろい”
ぼくは異物ですか。いや、その通りだけど。面白いといわれてもリアクションしにくい。この神使さん転生者を認識してるのね。特に問題になってる風でもないので、反論する気はない。
「それは、どうも。あの、オーギュリ……さん? 悪いんだけど後光、消してもらえます?」
“ひかりは、すぐ、きえる。ほら”
ほら、じゃないよ。なんで勝手に加護とか付けるかな。ぼくが望むのはクラファ陛下のステップアップであって、自分のポテンシャルアップじゃないんだけど。
“マークス、つよくなる。クラファ、あんぜんに、なる。サーバントに、ひつようなこと”
「それは……まあ、そうだけど」
「瑞龍よ。具体的に、マークスに与えた神使の加護とは何なのだ?」
“クラファの、まりょくを、つかって、なんでも、できる”
「何でも、ってすごいフワッとしてるね。いや、それ以前に、なんでクラファ陛下の魔力?」
“マークス、まりょく、ほとんどない”
「え」
陛下と龍から“知らんかったんか”、みたいな顔されたけど。知らなかった。“武器庫”以外の能力は、あまり使う機会もなかったし。
それに加えて、加護の恩恵があるといわれた。
“ふしの、のろい、とけた”
「ちょッ⁉︎」
「どうしたマークス」
「それは解いちゃダメでしょ、ぜんッぜん恩恵じゃないし! 戻して⁉︎ 」
“むり”
恩恵は覆らないのだそうな。加護が解けるのは、死んだときだけ。
いや、死んでから不死状態が戻っても意味ないんですが。
“かごで、マークスの、じゅみょう、のびる”
「へえ……どのくらい?」
“クラファが、いきてるかぎり”
たぶんそれも、女王陛下の魔力に依存しているからだ。
うーん……もしかしてぼく、クラファ陛下の付属物っぽい感じになってない? もともと従僕だから、それほど大問題ってこともないけど。
「わたしは、ハーフエルフだからな。人間であるマークスの寿命が延びて、ようやく並ぶくらいではないかな」
「ちょうど良かった、ってところですか」
“そう”
これで説明は済んだとばかりに背を向けて、瑞龍は王都へと歩き出す。のしのし足を進めながら光を放ったかと思うと、小さな女の子の姿になった。
「うぇッ⁉︎」
何そのオプション。驚いてるのはぼくだけかと思ったら、周囲で見守っていたひとたちも変貌を見てざわめき出した。
そらそうだ。五メートル級のドラゴンが百五十センチくらいの少女に変わったんだもの。簡素ながらも上質そうな白いドレスは光の加減で七色の煌めきが混じり、龍形を取っていたときの鱗の質感に似ているからおそらく皮膚を変化させたものなのだろう。まあ、ファンタジーだ。
「行くぞクラファ。マークスも、さっさと付いて来い」
あら。急にしゃべりが達者になった。今度は念話っぽい感じではなくちゃんと喉から発生しているようだ。
「なるほどな」
「陛下、なるほどというのは?」
「エレオがいっていた“世界樹に登極の宣誓を行う必要がある”と。わざわざ神使が現れたのは、それに必要な要件のためか……あるいは、それが行えない要件のためではないか?」
「そう。世界樹が占拠されてる」
「占拠? それは、ヘルベルタの残党に?」
「半分正しい。半分違う。天に選ばれた王に仇なすならば、瑞龍が神罰を落とす。でもあれは、少なくとも悪意ではない」
城門を抜けて、少女オーギュリはふんすと不機嫌そうに王都の中心部を指差す。樹高が百メートルを超える大木が街中に根を張り四方に梢を広げている。ツリーハウスみたいな代物だけど、スケールがおかしい。城っぽいものを巻き込んでいるから、どうにも珍妙な風景に見える。
そして、城にまとわりつくよくわからない者たちの姿がそれをさらに強調していた。
「ええと……陛下、なんですか、あれ?」
「状況はわからんが、魔物のように見えるな」