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王都

 ぼくらは助け出した子供たちを馬車に移し、代わりに大人のエルフや獣人を乗せて王都へと向かう。同乗者は元官吏が三名と元兵士が七名、そしてエレオさん。エルフの男性、特に戦闘職の七名は大柄なのでBTRでは少しだけ狭い。


「マークス殿、屋根の上でも構いませんか」

「良いですよ。ハッチを開けておきますんで、攻撃を受けたら車内に入ってください」

「了解しました」


 最初は装輪装甲車の威容に怯んでいた元兵士たちだけど、慣れると興味津々でキョロキョロと眺め始めた。砲塔と運転席の機材にだけは触らないように伝えて、好きなようにさせておく。我を忘れて食い付いてくるドワーフとは違って、そこまで執着する感じではないしな。

 手持ちの食料や水はみんな隠れ里に向かう馬車の方に渡してしまったので、食事は休憩のときにでも考えよう。BTRに乗り換えたときこちらにも分けようとしてくれたのだけれども、彼らの方が必要だろうと断ったのだ。

 馬車では、かなり長い道のりになる。


「エレオさん、途中で敵襲の可能性は?」

「ないとは申しませんが、あまり心配は要らないでしょう。ヘルベル討伐の報は、魔導通信で王都に伝えてあります。旧王党派(ヘルベルタ)も壊滅状態ですし、偽王亡き後にまで抵抗を続ける者はいないと思います」

「それは、利益がないから?」

「そうですね。恐怖政治を支えたヘルベルタの最強戦力が(ことごと)く殲滅されたことは広まっていますから。そして、真正なる(・・・・)エルロティア王、クラファ陛下ご登極の報もです」


 魔導通信、か。そんなのあるんだ。そして、クラファ殿下が王位に就くのも規定事項なんだ。

 ぼくは姫様を見た。いくぶん困ったような顔はしているが、クラファ殿下あらためクラファ陛下は、ぼくの視線を受け止めて頷く。


「わたしが、受け止めるべき義務だ。マークス……」

「無論、どこまでもご一緒させていただきますよ、陛下(・・)


 ぼくが笑うと、姫様……いや、女王様は目を(しばたた)かせる。なんでか、それは泣きそうな顔に見えた。


◇ ◇


 エレオさんのナビゲーションで近道やら簡易転移門やらを通り、それでも二時間ほど掛けてぼくらは王都を望む最後の傾斜に差し掛かっていた。


「この先に、王都の関所があります。いま、そこはわたしたち“友愛派(エルロタ)”の戦力が掌握していますが、王都内部はまだ、完全に平定されたわけではありませんのでご注意を」

「敵対勢力は、武装しているのか」

「現在、武装解除を行なっているところです。降伏勧告を行い、拠点の掃討を行っていますが、そこから逃れた刺客や兵崩れが潜伏している可能性はあります」


 クラファ陛下には、用意していた防弾板入ベスト(プレートキャリア)を身に付けてもらう。重たいし少し不恰好なので渋られたけど、ここから先は彼我とも戦闘態勢で対峙するよりも公衆の面前で不意打ちを受けることが増えるだろうから頼み込んで装着してもらう。


「すっごく、よくお似合いですよ陛下。お召し物と色合いも合ってますね。胸下装着弾帯(チェストリグ)にUMPの予備弾倉も付けられて便利です」

「わかった、着る。だから、その“阿呆を説得するようなしゃべり方”をやめろ」

「ふふ」


 ぼくとのやりとりを見てエレオさんが笑う。


「本当に、お似合いです陛下。ですが、マークス様とは気持ちが通じてらっしゃるのですね?」

「どうだろうな。わからんが、こいつがいなければ死んでいた。ここまでに何度も……」


 女王陛下は首を振る。


「……いや、ヒューミニアを出ることも出来ずに、だな」


 傾斜を進むと、途中には何箇所か謎の切り返しやらゲートやらがあって、その都度降りて開けてという手間があった。王都に侵攻する敵を迎え撃つためのものなのだろう。傾斜を登り切ったところでようやく城壁と城門が見えてきた。その前にいる、ごっちゃりとした人だかりも。


「エレオさん、なんですか、あれ」

「クラファ陛下をお迎えしようという臣民たちですね」

「……おい、エレオ?」

「いいえ、陛下。わたくしたちが主導したものではありません。むしろ、旧王党派の掃討が済むまで各自の家で動かないようにと周知徹底していたのですが」


 少なくとも百人以上、エルフもいれば、ドワーフや獣人や人間のような外見のひともいる。彼ら純血エルフ以外を今後どう呼ぶべきなのかは考えなければいけないかも。“アーリエント”というのは、どう考えても蔑称っぽいし。

 表情は、期待半分不安半分。いくぶん不安が強いか。単にBTRの威容を前にして怯んでいるだけのようにも見える。いまのところ敵意や隔意は見られないけれども、どうかな。


「どうします、女王様?」

「マークスにいわれると馴染まん呼び名だな……いや、これで顔を出さんわけにもいくまい」


 陛下はハッチから屋根に出てゆく。ぼくは運転があるので、護衛はエレオさんたちに任せるしかない。文官三名は車内に残ってもらったけど、元兵士の七名は周囲の警戒のため車外に出る。


「「「おおおおおぉ……‼︎」」」


 大歓声の後で、エレオさんが紹介する声が響いた。何かの魔法なのだろう、拡声器でも使ったみたいに大きく遠くまで届く。


「こちらに在わすお方は、元ヒューミニア王女、そして先代エルロティア王の正統後継者で在らせられる、真正なる(・・・・)エルロティア王、クラファ・エルロ・ヒュミナ国王陛下です」

「「「わぁああぁ……‼︎」」」


 ぼくは停車中、砲塔を旋回させて敵対勢力がないかを確認する。城壁上に立つ兵士たちはエレオさんたちの仲間なのか、武器を下げたままこちらに反応せず周囲を警戒している。

 城門前では、クラファ陛下のコメントが始まっていた。


「クラファだ。出迎えご苦労」


 砲塔の覗き窓(ペリスコープ)で確認を続ける。こちらを狙える位置にあるのは城壁と、王都内にあるいくつかの尖塔、教会のものらしい鐘楼。防災用の物見櫓か何か。どこにも敵の姿はない。杞憂に終わってくれればそれでいいんだけど。


「エルロティア王家の末裔(すえ)として、これまで偽王の専横を許したこと、そして帰国が遅れたことを詫びる。ヒューミニアで身罷った母アイラベルも、祖国エルロティアの行く末を案じていた。これからは……」


「マークス殿」


 押し殺したような声が、後方から聞こえてきた。車内に残った文官のひとりだ。車体側面に並んだ覗き窓(ペリスコープ)から外を確認していたのだろう。彼は城壁と逆側にある、いま来た道の方を指していた。


「……なにか、飛んできます」

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