解放
そこからは、微妙に話が早かった。
ヘルベル討伐を見ていたかのように――というか、手段は不明ながらもどこかで見ていたっぽい――反ヘルベルの超党派抵抗勢力、“友愛派”の面々が現れて一斉に傅く。
そのなかには、“クラファ派”を名乗る熱狂的ファンのエレオさんも含まれていた。このひと、麓にある隠れ里、“翼龍の住処”にいたはずだけど。なんでか、山頂側から現れた。
何両もの馬車を率いているが、兵士らしき者は一両につき三人ほどしか乗っていない。嫌な予感はしたが、クラファ殿下はエレオさんに尋ねる。
「あの馬車は」
「アルケンヘイムという、収容施設を解放して参りました」
やっぱり。襲撃者がいっていた、王都の神殿内にあるという軍の研究施設だ。非純血エルフを集めているという場所。そこで何を行われていたのかは知らないが、馬車の乗員たちが身を起こす様子もないことから悲惨な状況だったことは見て取れた。
「首都制圧を急ぎましたので、クラファ陛下のご活躍は魔珠通信でしか拝見できませんでした。このエレオ、一生の不覚にございます」
通常営業っぽいけど、このひと怖い。
しかも、周りにいるひとたちの対応を見るとエレオさんって“友愛派”ではそこそこ重鎮ぽい。各派閥の意見を取りまとめ、現場の人間に指示を出している。
王都は、エレオさんたち反ヘルベルの超党派連合、“友愛派”の勢力が占拠しているのだそうな。
「……収容施設に、無事な者はいたのか」
「はい、現時点での収容者二百人弱のうち回復可能な者は半数ほど。残りもほとんどは一命を取り止めました」
姫様は少しだけホッとした顔になって、すぐに表情を暗くする。そうだ。ヘルベルが王位に就いてから、たしか七年くらいにはなるはず。
「これまで遡って犠牲になった者たちは」
「隣国に逃げ落ちた者もいますので全てが犠牲者ではありませんが、ヘルベル登極後に行方不明となったアーリエントは六百二十ほど、救出した収容者を差し引いても現時点で四百ほどです」
「隠れ里って、“翼龍の住処”の他にもあるんですね」
「はい、マークス様。小規模なものを含め七箇所、居住者は合計で千七百ほどになります」
ぼくの疑問にもサラッと答えてくれるエレオさん。有能なんだろうな。数字が頭に入ってる。そして、管理も支援も行ってきたのだろう。ぼくらと出会ったときも、自分が巻き込まれることも恐れず最前線で動いてた。というか、巻き込まれてたわけだけど。
「エレオは国政に関与していた経験があるのだな」
「はッ、はい! わたくし幼少の砌よりアイラベル様から格別のご慈悲を賜りご息女クラファ様ご誕生の報を聞き陛下としてお戻りの暁には美しく豊かなエルロティアを献上せねばと……」
「あ、いや、そういうのは良い。国政について把握している者が必要なのだ。ヘルベルの息が掛かった者を、いきなり根絶やしにするわけにもいかん。処分するにせよ、いまの政治がどうなっているのか成否を判断できねば先に進めん」
「そうですね。ですが、まずは世界樹に登極の宣誓を行いませんと」
世界樹、あるんだ。王都の中央、というけど……現在地からぼんやり見える緑っぽい梢がそれか。さすがにデカい。やけに立体的な森だと思ったら、ひとつの木だとは。
姫様は、救助した子供たちを呼んでリーダーのアイマンに指示を与える。
「アイマン、いちど大人たちについて隠れ里に向かえ。ミケルディアの再興を果たすためには物資と人員と時間が必要だ」
「……はい」
「必ず戻れるようにする。皆の墓も作る。すまんが、少しだけ待ってくれるか」
「……は、……はいッ」
ずっと気を張っていたのか、年長の子供たちは大人に囲まれ慰められてボロボロと泣き始めた。