ミケルディア
現在は廃村になっているというミケルディアまでは三キロメートルほどと聞いたが、そのあたりまで来ても村落らしいものは見えない。
「姫様、マークスさん。村の手前に、あんな岩壁はなかったよ」
アイマンの指す先には自然な感じで山の裾野が広がり、垂直に近い岩壁が立ち塞がっている。
「隠蔽魔法か」
「やはり、いますかね、ヘルベル」
「子供たちは、そこにいてくれ」
側壁の装甲を破られることはないと思うが、念のため車体中央にある縦置きベンチみたいな椅子に座っていてもらう。まかり間違って魔法強化された槍や鏃の先端くらいは食い込むかもしれないしね。
年長の子たちから集落内の地形や建物の配置を聞いて遮蔽や敵の布陣を想定する。
魔法による擬装を抜けたら右手、山側に本物の岩壁がある。隠れて迎え撃つなら、そこだろうといわれた。
「ヘルベルの護衛は、どれくらいいるでしょうね」
「さあな」
姫様はKPVTの照準調整をしながら素っ気なく答える。
「彼ら純血エルフ以外の村が襲われたのは、いわばわたしの巻き添えだ。いずれにせよ奪還はする。ヘルベルも殺す」
地形からの概算で、遮蔽内に配置可能な兵員は二十から四十。王を守るには少な過ぎる。となれば、遮蔽に頼らない装備か装甲馬車でも持ち込んでいる可能性はある。
「微速前進で擬装の岩壁を抜けます。姫様は砲塔の操作を」
「わかっている」
目の前の視界が歪んで揺れ、霧が晴れるように風景が切り替わる。そこにあったのは、見慣れない塔状の盾を装備した重装歩兵の群れだった。
「起動!」
「「「おおおおぉ……ッ!」」」
人間の背丈ほどもある盾が一斉に光り始めた。そこから弾き出された光の鏃のようなものがBTRの車体に叩き込まれた。
「「ひゃあぁッ!」」
「伏せてろ!」
怯える子供たちに声を掛けて、姫様はKPVTの射撃を開始する。その間にも光の鏃が次々に被弾し、外部装甲が熱を持ち始めた。
「姫様、これ続くと拙いかもしれませんよ」
「続かせるものか!」
重機関銃弾が盾に当たって弾かれる。紅い焼夷弾の炎と青白い魔力光が瞬き飛び散りながら拮抗していた。三角形は、“避弾経始”という昔の戦車の装甲と似た敵弾を弾き逸らすコンセプトで作られたもののようだ。
「考えたな」
「感心している場合か! 轢き殺せ!」
いわれるまでもなく、そうしようとは思ったのだけど。土魔法で組まれたらしい対戦車壕のような溝がBTRの前進を拒む。
ここに来て、違和感が強くなっていた。
「姫様」
「どうしたマークス、前進しろ!」
「いえ、いまの弾帯を撃ち尽くしたら、一度退却しましょう」
「なに⁉︎ 何故だ!」
いってるそばからベルトリンクの端が床に落ちて射撃が止まる。ぼくはギアをリバースに入れてアクセルを踏み込む。
「おそらく、“王党派”に転移者がいます」