オールユアダイス
近衛騎士アーバレストが死んで以降、敵の攻撃意思はパタリと止んだ。
指揮官が倒れたから、というのとは些か印象が違っていた。それはまるで、“自分たちの用は済んだ”といわんばかりの割り切りが感じられたのだ。
こちらを足止めすることが主目的であって、倒すかどうかは問題ではないというような。
「思った以上に、エルロティアは病んでいるのかもしれんな」
「“王党派”は、主流派ではないと?」
「わからん。わたしはこの国の国情までは把握していないし、純血エルフの心情も読めん。ただ……」
まばらな植生を縫って小道を進むBTRの助手席で、姫様は柳眉を顰める。
「この国は、死にかけのような印象を受ける」
ぼくも同感ではある。隠れ里である“翼龍の住処”以外の街や市民の姿を見ていないせいもあるのだろうけど。
「少し休むか」
「はい」
姫様の提案に従い、ぼくは数キロ登ったところにある踊り場状の場所でBTRを停める。
遮蔽もなく見晴らしのいい高台で、これが生身であればこんな場所で休憩を取るのは射られ放題の自殺行為だけれども、この世界では鉄壁といっても過言ではない装甲車両の車内だ。大船に乗った気持ちで……
「だ、大丈夫なんですか?」
「囲まれると、危なくないですか?」
「こんな場所で襲われたら、逃げ切れないですよ?」
身に染み付いた習性から、そう簡単には慣れないようだ。
「落ち着け。問題ない。お前たちも見ただろう、このKPVTを」
「……はい」
「そして、この装甲が敵の攻撃魔法も鏃も弾くのを」
「…………はい」
「この乗り物にいる限り、見通せる場所にいた方が安全だ。遮蔽は攻撃と防御の足を引っ張る」
不承不承、ではあるけれども、子供たちは受け入れて休憩と食事に入った。
外に出て火を焚くわけにもいかないので、相変わらずの軍用レーションだけれども。車体横のハッチで換気をしながらヒートパックを使い、缶詰やレトルトパウチを温める。
「ちょっと待っててね。怪我をしてる子は姫様のところに並んで……」
後部座席で年長の子たちが小さな声で揉めていた。
「エイケル、魔物使役者じゃなかったの? 何なの、あのドラゴン?」
「マータたちが乗ってるなんて知らなくて」
「そういうことじゃないの。なんで急に樹木質ゴーレムなんて」
「小さい子たちを守るには、ああするしか」
どうやら、ゴーレムを使役するエイケルの能力は、アイマンたちと別れた後に顕現したものらしい。それだけ必死に頑張ったということなんだろうけど、アイマンやらマータの側からすれば急にそんなの見せられても対処のしようがないといったところか。
彼ら自身の問題なので、姫様と話して干渉せず任せてみることにした。
「よし、それじゃ食事が温まったから小さい子たちから受け取って。熱いから気を付けてね」
「「「はーい」」」
「器とか食器は、そっちにあるからね。そこのクラッカーとかビスケットも好きに食べて。水はそこにあるからね」
「これ、なに?」
「塗るもの……そこの平たいのに付けて食べる。甘いのがこれ、しょっぱいのがこっち」
食文化が違うので説明して試食してもらう。好きなものを食べろといったところで、どれが好きなのかもわからないだろうし。
「だって、みんないなくなって、でも、小さい子たちを守らなきゃって」
「うん、うん。すごいよエイケル」
「よく頑張ったな」
なんか一件落着したっぽいので、年長者三人も食事に呼ぶ。
怪我をしたり弱っていた子供たちに治癒魔法を掛けていた姫様が、どこか困惑したような顔でぼくにいった。
「……孤児院の引率になったような気分だな」
「ですね」